9話 これは俺の持論だが

「ここまできたらやるしかないわ。次に神威君が突っ込んで来た時カウンターぎみに叩き込む」

 (ホントは距離を詰めたい所だけど私もさっきの戦いで消耗しすぎたわ。避けられる可能性がある以上確実に当てるにはそれしかない!)


「……来る!」

蘭子らんこは砂浜を踏みしめ神威しんいの突進に備えようとした。


「足が……嘘でしょ!」

足場の悪い砂浜で消耗した、気力によって持たせていた体力が尽き……致命的な隙を生む。

自重すら支えられなくなった足で片膝をつく。何とか倒れることだけは耐えた。


「お兄ちゃん止まって!」

 桜夜さくやが必死に叫ぶ。

 

 「貴方に殺されるなら仕方ないかもね」

 蘭子は諦めとも悲しみとも言える表情で呟いた。

 神威の拳が迫る。

 現実から目を背けるように蘭子のまぶたが降り、視界が暗転する……。

 

 一秒……二秒と時間が過ぎる。極限状態で時間の感覚が狂った?

 

 否

 

 インパクトの直前、拳は勢いを止めていた。

 

 「どうして?神威くんは完全に意識を失ってたはずじゃ」

 「母さんが言ってたのを思い出したんだよ。男のプライドって奴」

 「プライドってそんな事でなんとかなるような状態じゃ……」


 「女を殴る奴は漢じゃねぇって事……だ……」


 神威は満身創痍まんしんそういで倒れ込む。それを蘭子が優しく支える。

 「神威くん!?」

 「お兄ちゃん?お兄ちゃん大丈夫!?」

 蘭子が首筋に手をわせ脈を確認する。

 

 「大丈夫よ。気絶してるだけだわ」

 「は〜よかっだぁ〜」

 緩みきった顔と声で桜夜は息を吐く。

 

 「お母様に感謝しないといけないわね。あと神威くんにも。あの状況からよく正気に戻ってくれたわ」

 

 「あっそうだ邪鬼は!?」

 「そういえば、あれだけ取り込んだ割にもう殆ど残っていないわ」

 「じゃあ……」

 「目を覚ましてもまたああなるってことはなさそうよ」

 「そっか……これで一安心って感じかな」

 

 「そうね。残りを私の力で滅したい所だけど神威くんの能力ちからと負担を考えると目を覚ますまで待った方がいいかも知れない。ひとまず安静にできる場所に移動しましょう」

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