はんぶんのりんご
もう、ずっとずっと昔
まだ幼い少女だった頃
祖母に手をひかれて
山の段々道を一緒にのぼった
わたしのもう片方の手には
半分の林檎が皮を
持ちやすいように
芯はくり抜かれている
「お家が建つのよ」
何処に行くの?と聞いたわたしに
答える祖母の声と
多分、覚えている一番古い記憶を
今でもふと
懐かしく思い出すことがある
最初は青い屋根だった
その小さな我が家が
わたしは大好きで
何度かの修理や改築を経て
屋根瓦が青でなくなったのを
密かに残念に思ったりしたっけ
祖母の温かい手と
半分の林檎
晴れた青空に
鳥の声
緑の葉を揺らす木々
草いきれ
ああ、あれは
初夏の季節だったのかもしれない、と
今になって、思う
確かな幸せの記憶
今では
丸々一個の林檎が食べたかった
幼いわたしの野望に
くすっと笑ってしまう大人のわたしだけど
もう
祖母も父母もいない
綺麗に
わたしはそっと想い出を
心から取り出しながら
自分で
半分の林檎を
目を閉じると
あの日の青空が見える
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます