異世界も弱肉強食ッテコトォ
外の世界は開幕地獄
外の世界は、とても広かった。人間時代ですら広く感じたのだもの、ネズミになればそのスケールは何倍にだって広がるものだろう。
3日間走り続けてきたが、全く終わりが見えない広大な草原の床が視界に映る限り広がっていて、あのゲームでしか見たことのない高性能グラフィックスの光景が直に目に焼き付いてくる。太陽が昇ってきたときの朝焼けは、一瞬涙が出る程感動した。
そして周囲に生えているのは見たことのない派手な花弁を咲かせた植物。人丈程の長さの低木から実る、毒々しくも輝かしく見える青紫色の木の実。
地面を這いずり、駆け、飛び回る多種多様な魔物と動物達。
そして、絶賛私の後ろで口を大きく開けて追いかけてくるクソヘビが一匹。はいい、現在絶賛追われまくりのチェイス中ですとも。助けてええええ!!!
その蛇というのは、海の如く深い青の体毛に灰色の斑模様が全身に散りばめられた約1メートル程度の至って小柄なヤツだった。名称を確認したところ、アオアミヘビっていう魔物らしい。
[アオアミヘビ]ランクF+
〈草原や森林に生息する、至って大人しい小蛇。自然界に溶け込めない青い身体に毒々しい斑点か切れた網目模様があり、一見すると毒があるように見えるが毒はない。〉
いや、こいつに3日丸々襲われて逃げ延びる毎日だったんですけどね。至って大人しいとか言われてっけど舌をチロチロさせながら裂けんばかりに大口開けて追いかけてきてるんですよこのクソヘビが。
『シャアァァ!』
ちっ!!もうほんっっっとしつこい!しつこいんだわこいつ!しつこい男子は女子にモテないぞ!あぁもううぜええええまじでもおやだぁぁぁ!!!
動物目線でも大人しいヤツであれ、見た目は結構可愛いんだから。あれか、私のことを餌か何かと勘違いしてるのか。
あぁ私、ネズミ。そりゃそうだもんな。こんな小さくて無害な掌サイズの子ネズミなんて蛇からしたらちょっと速いだけの逃げ回るご飯みたいなもんだよな。これが弱肉強食。薄々わかってた事だけど、人間なんて平和ボケしてるもんでまさか自分が襲われるなんて思わないんですよね。ネズミになってから自分の野生としての適正や勘、スキルが皆無なことに気づかされた気がするわ。
一旦アオアミヘビのステータスとスキルを確認してみる。
─────
[種族]〈アオアミヘビ〉
[ランク]F+
[LV] 8/25
[体力]24/24
[魔力]9/9
[物攻] 12
[物防] 10
[魔攻] 10
[魔防] 12
[素早] 8
《スキル》
[噛みつき.Lv4][締め付け.LV1][締め上げ.LV3]
《耐性.特性スキル》
[衝撃耐性.LV3][熱感知.LV-][硬鱗.LV2]
《称号》
[殺人蛇]
─────
アオアミヘビのステータスは、ハッキリ言って私より高い格上の存在だ。単純に素早さが低い、足が遅いから今まで逃げてこられただけのこと。ん、足?ヘビの....?考えるのは止めとこう。
そういえばステータスの数値が見られるようになったのはすごいな、これ。前までスキルしか見られなかった筈なのに。進化でもしてなんか見られるようになったのだろうか。これまでも解説は幾度としてもらってたから、その機能の延長線だったということかもしれない。
【その通りです。貴女が望めばいつでもステータス、スキル確認ができたのに勿体ない。】
はいうるさいうるさい。こいつやたら煽ってくるしなんか他人行儀なんだけどなーんか妙にフレンドリーというか...まあ神様だって喋り相手がいないんだから仕方ねーよな。てかなんで私は神様みたいなやつと喋れてんだおかしくnnnn(咳払い)!!!
それは一旦おいといてスキルの方だが...噛みつきは勿論レベル高くて、なんで締め上げが締め付けよりスキルレベル高くなってんだ?あれか、締め付けた直後にそのまま締め上げるから結果的に締め上げの方が戦闘に貢献して高くなりやすいのか?
そして...こいつ地味~~に人殺してやがる。私とそう変わらないランクで、既に称号に殺人蛇が付いていたのだ。あれか、さてはここ近辺の村人でも絞め殺したな?大人しいってなんだったんだよ。この世界の大人しいの基準ってなんなんだよ、人殺しとか明らか不穏じゃねえか獰猛な動物のそれじゃねえか。
いや、蛇ならそれくらいやってのけるか。この世の中には蟻が人を殺したりするなんていうし生物侮っちゃ行けない。ただ一言いうなれば、こいつはまともにやって勝てる相手じゃねえ。窮鼠猫を噛むでも意味のない、即ち到底敵いっこないどころか一矢報いれない蛇相手なんだから。クソ、せめて私が噛む対象の猫科の...イタチかなんかなら蛇相手でも勝てるっつーのに。眼光覚えて眼術ハメするぞコラ。
クソ、振り切って逃げるしかねえってことかやっぱ。いくら小型の蛇だからって進化したての、それも格下ネズミじゃ勝てっこないわな。素早さも進化する直前よりか下がっているからちょっと苦戦を強いられるが、全力を出しきれば十分逃げられる。
というか、もうそれしかない。あとはめんどいスキルだけ確認して対処を間違えなければ....
[熱感知.LV-]
〈ピット器官とよばれる蛇特有のものによって、視力が無くとも周囲の魔物の造形やその数を把握することができる。〉
あー......、あったわ厄介なヤツ。こいつ相手に障害物に隠れて逃げるとかは通用しないんだな。ったく面倒だな!!
『ォシャア!!』
一瞬、アオアミヘビがお辞儀をするように頭を引っ込め、そのまま飛び掛かってくる。直線的な攻撃であり、見えていれば避けるのは難しくない。遠距離攻撃が無いだけで、逃げるのがここまで楽だなんて。あくまでも逃げんのは。こいつと正面切って見ろ、絞まるぞ?私が。
かといって、隙をついて攻撃したところでどうせ大した有効打にはならないだろうな。ステータス差が圧倒的なのもあるけど、問題はヤツの特性にある。
[硬鱗]
《容易く刃を通さない、硬い鱗。柔な攻撃による出血ダメージを抑えるほか、接触による毒、麻痺、火傷の耐性を得る。》
うん、これ。チートやん。話聞くだけわかる強スキルやんこれ。蛇って鱗よりも伸縮自在な皮で覆われてるイメージだったんだけど。ほら、脱皮っていうじゃん?あれ、皮じゃん?え、違うの?
『シャァア!』
ああもうそんなことどうっっっっでもいいわ!とにかく今は逃げるだけ!フェイントはしない、障害物のない草原のコースを一直線に走って逃げる。一応周囲に警戒はしておきながら、持てる全ての力を逃走に費やす。
情けないとは思うけどさ。仕方ねえじゃん、勝てねえんだもん。元々ステータスに大きな開きがあった相手に、万に一つの勝ち筋すらも硬鱗によって阻まれ私の戦意は失せきっていた。これで挑もうモノなら結末は目に見えた死だ。
逃げる、逃げる。アオアミヘビの姿が無くなるまでひたすら逃げる。
音は決して頼りにするな。あいつが地面を這いずる音は全くといっていいほど聞こえない。鳴き声をあてにして止まりでもしたら、実は真後ろにいました的な展開になりかねん。アイツが到底賢いとは思えんが、死ぬ可能性ってのは極限まで排除しておいていいはずだ。
暫く走り続け、アオアミヘビの姿は無くなっていた。数秒待っても現れる様子はない。いや、待ってねえよ。来んな。
静寂が30秒程続く。
────とーりーあーえーず...逃走成功~!!やったぁぁぁぁ!!!!これで一旦、一旦は私に平穏が訪れた。ここ3日間、ヤツに追われるか寝るかでまともに探索なんて出来やしなかった。件の民家からも相当離れてしまっただろうし、私の冒険はここからが正真正銘のスタートだな。
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