トオルの日記 1

この時期になると決まって思い出す。十数年も前、まだ屋根が無かった頃のプラットホーム。貴女はその日も一人で電車を待っていた。ピンと背筋を伸ばす貴女の背は決して高くはないが、周りのスマホをいじくり、下を向き背中を丸める周りの奴らを圧倒し、凛とした美しさを保っていた。


三年二学期までほぼ毎日、放課後はフルートを練習しているのを僕は知っていた。そんな貴女を、誰にも見つかること無く毎日ちらりと見ては、対して帰宅部の自分の姿を見られまいとにそそくさ家に帰っていた。


今日、卒業式の日、これが貴女と逢う最後の日。


前の車両に乗っていた貴女。私の前を歩いていった貴女。前の席に座っていた貴女。そうして卒業式が終わると、吹奏楽部の人達と記念写真を撮り、後輩に言葉を託していた。


最後の最後まで、前にいた貴女に声をかけることもなく、学校に残って貴女に一言言うこともなく、僕の高校生活と恋は終わった。


あれから一年以上、貴女程凛とした美しさ、ハッとするような美しさを持つ人に私は遂に出逢うことがなかった。遮られることの無い陽の光を浴びる貴女の横顔も、今は屋根の着いてしまったプラットフォームに立つ度に思い出す。

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