第11話
後輩は、そういえば弱かった。
いや、生身で車を相手取るのに強いも弱いもありはしないか。何せ鉄の塊だ。その速度が乗れば乗るほど、ぶつかった時は痛いし、下手をすれば死んでしまう。そして、後輩の場合は宙を舞った。
べぎゃん、と端から聞いていても危うい音がエンジン音に混じって聞こえ、それでも車は私に迫る。ーーたまにはカッコつけさせてくださいよ。
そう言って、後輩は自転車の荷台から自ら落下した。その結果がこれか。本当にアホだな。こいつは。弱いくせに意地っ張りで根性だけは座ってやがる。
先輩として黙って見てるわけにはいかねぇ。
後輩が自転車から飛び降りた時点で、私もペダルを漕ぐのをやめ、自転車から降りていた。
だから、後は怒りに任せて押していた自転車をその車にぶつけることにする。ぼがーん、とフロントバンパーに車体が気持ちよくあたり、その反動で私もその場にすっ転んだ。
「ってぇ」
自転車は明後日の方へぶっ飛んでいった。
ばすっ、とどこかでかすかな音が聞こえ、おそらく道路の外、田んぼの方へ落下したのだろう。これで私はもう逃げ出せなくなったわけだ。
そして、肝心の車の方はというと、尻餅をついた私の目の前で停まっている。後1メートルでも前進されれば私の身体は車体の下敷きだっただろう。そうならなかったということは、つまり「おらぁ女ぁ! 何しやがる」運転席ドアから昼間の金髪リーゼントが勢いよく降りてきた。
助手席側からは、これもまた昼間の迷彩タンクトップシャツ男が倒れた私のところへずんずん進んでくる。
つまり、そう、これはあれだ。
昼間の復讐をしにきたわけか。なめくさりやがってふざけんな。怒りをバネにとっさに立ち上がろうとしたが、うまく腕が動かない。力を入れると手先がぴりぴりする。さっき、自転車を車にぶつけた衝撃で手が痺れたのか。
「クソ女ぁ! これぁ親の車だぞてめぇ!」
金髪リーゼントが勢いよく吠えるが、内容がダサすぎる。その年の割に薄いこと言ってんじゃねぇ。言いたいが、こちらも身体が気概に追い付かない。
せめて立ち上がることが出来れば、と、脚に力を込めたところでフワッと身体が宙に浮かんだ。振り返ると、タンクトップシャツ男の荒い鼻息が頬に当たった。クソキモい。
私は、この男に羽交い締めにされている。
「おらぁ! ざっけんなぁ!」
脚をじたばたさせて抵抗を試みるも、更なる脅威が車の後部座席からやってきた。
ロン毛で、痩身の男。
タンクトップシャツ男や金髪リーゼントよりは年配で雰囲気も落ち着いて見えるが、目の奥がいやにギラギラしてやがる。
ヤバい。
ふと、ロン毛の肩越しに路面に倒れたままの後輩を見やる。うつ伏せで、でも顔はしっかりこっちを向いていた。視線がかち合い、何で逃げなかったんですか、と、後輩の心の声が伝わってくる。
対して私は、すまん、と心の中で返した。
「イキがいいなぁ。女子高生」
ロン毛男が私の前に立ちはだかるや否や、みぞおちから強い鈍痛が走った。男のブローに、呼吸が一瞬止まる。
「っあ」
視界がぶれて、
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