第36話 お家デートのはじまり
次の日、俺は部活の午前練を終えるとすぐに帰路に就いた。
今日の午後から、
これからDVDレンタルショップに行ってDVDを借り、家で映画鑑賞。そのまま泊まりで明日もデートだ。
「すげぇ楽しみだなぁ……」
彼女と泊まりがけでデート。
今後二人で遠方に旅行をすることもあるだろうが、泊まりで二日間ずっと一緒にいるというのは初めてなため少し緊張する。
「母さんと父さん、変に絡んでこないといいけど」
昨日厳しく注意をしたが、そんなのは気にせず実莉に絡んでくるのは間違いない。
昨日の夜のテンション、二人ともおかしかったし。
「はぁ……」
俺は深くため息をつき、家の鍵を開ける。
そして自分の部屋に荷物を置いてから風呂場へ向かい、軽く汗を流した。
「あら、実莉ちゃんを迎えに行くの?」
「うん。母さん、何度も言うけどあまり絡んでくるなよ?」
「わかってるわかってる。ね? お父さん」
「もちろんだ。
「本当に大丈夫かなぁ……」
母さんと父さんは笑みを浮かべている。本当に不安でしかないが、これ以上言っても何も変わらないだろう。
俺は再び深くため息をつき、実莉との集合場所へ向かったのだった。
集合場所は、俺の家の最寄り駅前にあるDVDレンタルショップだ。本当は実莉の家まで迎えに行きたかったが、それでは時間が掛かってしまうためこの集合場所に決まった。
というわけでDVDレンタルショップに早歩きで向かうと、お店の前で待っている実莉の姿を見つける。
「あっ、
「悪い。遅くなった」
「全然大丈夫だよ。私も今来たところだから」
実莉は肩下まで伸びた綺麗な栗色の髪を巻いており、パステルカラーのワンピースを着用している。そしてレザー調のショートブーツで露出を抑えて、上品なコーデになっていた。
そのため、いつもとは違う雰囲気を醸し出している。
なんというか、いつもより大人っぽい。
「今日の服、めっちゃ似合ってるな」
「……ありがと。飛鳥馬くんは……いつも通りシンプルだね」
「まあ、今日はこれから家だし着飾る必要もないしな」
「彼女とのデートなんだから、少しくらいは着飾ってほしかったなー」
「ごめんって」
「別にいいけどねー」
実莉はそう言って身を翻し、DVDレンタルショップに入っていった。俺も続いて中に入る。
ここはかなり前から建っているお店で内装外装ともに古っぽいが、DVDの種類は多いことで有名だ。
「実莉はどんな映画見たいんだ?」
「うーんとねー、私は主に恋愛映画かなー。飛鳥馬くんは?」
「俺は…………」
ここでふと、校外学習で浅草花やかたに行った時のことを思い出した。
実莉は、怖いものが大の苦手。あまり怖くなかったお化け屋敷でさえ、ビビりすぎて中々前に進むことができなかった。
「ホラー系、かな」
本当に見たいと思っているわけではないが、実莉がどんな反応をするのか見たかった。そんな理由で、少し考える素振りを見せてから答えてみる。
すると俺の返答を聞いた実莉はピタリと足を止めて、ガタガタと体を震わせながらこちらに目を向けてきた。
「あああ飛鳥馬くん? ホホホホラーはちょっと……」
「嘘だよ嘘。二人で楽しく見れる映画にしような」
「なんだ……よかった……」
実莉はホッと安堵の息を漏らし、胸を撫で下ろす。
本当に怖いものが苦手なんだな。校外学習の時にわかってたけど。
「とりあえず二つ借りとくか。恋愛映画とアクション映画で大丈夫?」
「うん」
その後二人で面白そうな映画を選び、俺の家へ向かったのだった。
家の鍵を開けて中に入ると、奥から大きな足音が聞こえてくる。
「お邪魔します……」
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「実莉ちゃんいらっしゃい! 昨日はごめんなさいね。京也が迷惑をかけて」
「いえいえ! 全然大丈夫です。あの、初めまして! 京也くんの彼女の
実莉が自己紹介をしてお辞儀をすると、母さんと父さんは口に手を当てる。そして二人同時に「いい子……!」と漏らして、目を潤ませた。
「実莉ちゃん、上がって上がって! 今日はご馳走用意しておくから楽しみにしててね!」
「あ、私手伝ってもいいですか? 一応その気でエプロン持ってきてるので」
「「いい子……!」」
またしても、母さんと父さんは口に手を当てて目を潤ませる。
俺はそんな二人を見て苦笑しつつ、実莉の手を引いて自分の部屋へ向かったのだった。これ以上、二人に絡まれて時間を無駄にされるわけにはいかない。
「へー! ここが飛鳥馬くんの部屋なんだー!」
部屋に入ると、実莉は目を輝かせた。
「……すんすん」
「お、おい!? お前また……」
「……ん? この部屋、飛鳥馬くんの匂いして落ち着くから匂い嗅いでただけだよ?」
実は同じようなくだりが以前にもあった。
それは男子として女子にされて嬉しいこと『お家デート』をすると決まった時だ。
「いや、実莉は前にも来たことあるだろ」
「懐かしいね。でも、まだ一ヶ月前くらいだよ。あの時」
「あっという間だったな……」
実莉と関わるようになってから、時間が経つのが早く感じるようになった。
まだ約二ヶ月しか経っていないが、それも一瞬のように感じられた。
「まだまだこれからでしょ。さ、早く借りてきた映画見よ? まずは飛鳥馬くんが選んだアクション映画から見たいな」
「実はこのアクション映画、ホラー要素あるんだよな」
「えっ……!?」
「嘘だよ」
「ん!」
実莉の反応が面白くて、思わず笑ってしまう。
すると実莉は頬をプクッと膨らませ、俺の体をポカポカ叩いてくる。あまり痛くはない。
「ごめんごめん。許して」
「……やだ!」
あまりの可愛さに悶絶しそうになるが、頑張って堪えてテレビの電源をつける。
そして二人で寄り添いながら、映画を見始めたのだった。
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