第6話 好きな人は誰?
「久しぶりの休み、あっという間だったわー!
「どうして俺に言うんだよ……監督に言えよ」
「だって言っても絶対休みにしてくれねーんだよー!」
昼休み、俺と
明沙陽はモテるため、食堂に行けば必ず周りの視線が気になる。しかし教室だとこちらを見てくる者は少なからずいるが、食堂ほどは気にならない。
だから教室で昼飯を食べていると、ものすごく気が楽なのだ。
「言っておくが、俺も休みなんて全然ないぞ。先週の土曜日の休みなんていつぶりだったか分からん」
「土曜日に休み? ふざけんな。俺たちなんて練習試合だったわ」
「お前が練習試合で頑張っている間、俺はソファーの上で休みを満喫してた」
「羨ましいぜ……」
「まあ春大が近いし、それまで頑張ろうぜ」
「京也はどうせ関東大会まで行くだろ? なら休みとかほとんど取れないんじゃないか?」
「俺は別に部活が苦しいわけじゃない。走るのが好きだからな」
「そりゃ俺もサッカー好きだけどよ。少しくらいは休みたいんだって」
明沙陽の言いたいことはわかる。
俺だって休めるなら休みたい。
だけど休んだら。ライバルたちがその間練習を頑張っていることを考えたら。いてもたってもいられなくなる。
「はぁ……部活頑張れてんのは唯一、可愛いマネージャーの応援のおかげだわ」
「へー? 明沙陽、好きな子以外の女子には興味ないって言ってたけど、あれは嘘だったのか? それともそのマネージャーが好きな子なのか?」
「違ぇよ。確かに好きな子以外には興味ないけど、マネージャーは嫌でも関わるじゃん? それに俺がマネージャーに変な対応取れば、チームの雰囲気が悪くなりかねない」
「じゃあ誰なんだよ。お前の好きな人」
もう何度聞いたか分からない。
一年の頃から、ずっと教えてくれないこいつの好きな人の名前。
「いくら京也でも言わねぇよ。話したところで何も変わらないだろ」
「明沙陽の恋を応援してやる。なんでも相談聞いてやることだってできる」
「お前、散々俺の愚痴言ってたくせによくそんな事言えるな……」
「残念イケメン。ケチ。クソ。ヘタレ。ほんとこの世から消え去れ」
「また言ったなこの野郎!!」
明沙陽は持っていたおにぎりからご飯粒を取り、一粒ずつ投げてくる。
小学生でもこんな事しねぇよと内心思いながら、ほんと残念イケメンだなと再認識した。
「俺のことよりさ、お前はどうなんだよ。京也」
「……え、俺?」
「おう。京也はいつも俺の好きな人について聞いてくるけどさ、そういえば俺って京也の好きな人について聞いたことないなって思って」
俺の好きな人、か……。
実は俺にも、以前好きだった人がいる。
その子とは仲良くなり、二人でデートもするようになって、順調に恋人になるべくステップを踏んでいった。
でも最終的には…………。
『ごめん。私好きな人ができたんだ。だから、
『好きな人って、誰……?』
『
俺が好きになった人は、最終的に明沙陽のことを好きになった。
デートまでした俺ではなく、話したことすらほとんどない俺の隣にいた明沙陽のことを。
正直に言うと、あの時は一瞬にして明沙陽のことを嫌いになった。お前のせいで俺の恋は実らなかったって。なんで俺じゃなくて、お前なんだよって。
だから一時期、明沙陽に対してすごく冷たい態度を取ったことがある。
でもこいつはそんな最低な俺のことを心配して、相談に乗ってくれた。明沙陽は何も悪くないのに、「ごめん」と謝ってくれた。
だから俺はこんなにも優しくイケメンな親友を一生大事にしようと心に決め、明沙陽に取られないようにと一生彼女を作らないことに決めたんだ。
「いないよ。好きな人なんて」
「そうか。最近のお前、変わったからさ。やっと好きな人できたのかなって思ったけど、違かったか。すまん」
「…………俺が、変わった?」
「気づいてないのか? 京也、最近になって学校での顔随分と楽しそうだぞ。雰囲気も少し明るくなった気がする」
「……そうか?」
「おう。俺たち何年一緒にいると思ってんだよ。さすがに少しくらいの変化でも分かるぜ」
「仲良くなってからまだ一年しか経ってないけどな」
俺、学校で楽しそうにしていたのか。
雰囲気が明るくなったとかも、全然気づかなかった。
好きな人ができたら人は変わる。
結構前にそんな事を聞いたことがあるが、生憎俺には今好きな人なんていない。
胡桃沢と関わるようになってから変わったのかもしれないが、胡桃沢を好きだなんて思ってないし。
――だって胡桃沢は、恋愛相談から始まったただの
そんな相手に恋愛感情を抱く方がおかしい。
俺は胡桃沢と明沙陽が結ばれて、みんなが笑顔で終わるハッピーエンドが見たい。
胡桃沢の努力が報われて、胡桃沢が心から喜んで可愛らしい笑顔を浮かべるシーンが見たい。
二人の恋を応援したい。
たとえ俺が胡桃沢を好きになったとしても、その気持ちは変わらない。
「まあ、京也に好きな人ができたらいつでも教えてくれよ。相談に乗ってやるから。ただ、好きな人が被った時は真剣勝負だからな」
「そんなの俺が負けるに決まってんだろ。てか、俺が好きな人教えるよりお前が先に教えろよっての」
「考えとくよ。教えることはないだろうけどな」
「なんだそれ」
俺たちは揃って腹を抱えて笑った。
これからもずっと、こんな関係でいたいと願いながら。
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