ある日、清楚可憐な親友の幼馴染に恋愛相談をされるようになった。
橘奏多
本編
1. 恋愛相談、そして練習
第1話 すべてのはじまり
「ねぇ
親友の幼馴染に突然呼び出され、こう言われたことがすべてのはじまりだった。
元々俺たちには共通の知り合いがいるだけで、話したことなんてあまりない。
しかし今日、こんなにも意味のわからないお願いをされたことで俺たちの関係が大きく変わるなんて、この時の俺は思いもしなかった――。
***
俺――
名前は
明沙陽とは入学式の日に仲良くなり、二年生になってからもクラスは変わらずいつものように一緒にいた。
「明沙陽、昼飯どうする?」
「学食で食うわ。京也も一緒に行こうぜ」
「もちろん」
今日は弁当を持ってきていなかったため、俺も学食で食べようと思っていたからちょうどいい。
だが学食に行くと必ず直面する、俺みたいな非モテ男子にとって最悪な問題があった。
「明沙陽くんだ……かっこいい……」
「明沙陽くんって、どうしてあんなにもイケメンなのかしら……」
「やっぱりいつ見てもかっこいいわ……」
周りからこちらに向けられる視線。そのほとんどが女子からのものであり、俺ではなく親友である明沙陽に向けられたものだ。
別に一度も羨ましいなんて思ったことはない。そう、一度も……一度も…………。
しかし明沙陽は向けられた視線なんて気にもせず、頼んだカレーライスを普通に食べているのがまた腹立たしい。
「なぁ明沙陽。お前のイケメンな顔、俺に少しくらい分けてくれよマジで」
「急になんだよ。顔を分けろとか意味分かんないこと言ってんじゃねぇよ」
「だってもったいないだろ。知らない女子からもすげぇモテてんのに、女子には興味無いとか」
「前から言ってんだろ。女子に興味が無いって言うより、好きなやつ以外に興味が無いだけだって」
そう、こんなイケメンでモテまくっている明沙陽には好きな人がいる。
誰かはいつまで経っても教えてくれないが、その子以外の女子には興味を示さないほどに一途だ。
「誰なんだよ、好きなやつって。そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
「やだよ。誰にも教えないって決めてるからな」
「残念イケメン。ケチ。クソ。この世から消え去れ」
「なんでそこまで言われなきゃいけねぇんだよ!?」
だってそうだろ?
イケメンで女子からモテまくってるのに、どうして誰も相手にしないで好きな人に一途でいられるんだよ。俺なら、間違いなくハーレム人生を楽しむね。
「てか、そんなに好きなら告白しろよ。明沙陽ならいけるだろ」
「……無理だな。振られた時のことを考えると、どうしても告白できない」
「さっきのにヘタレを追加しよう」
「うるせ。そういう京也はどうなんだよ。好きな人とかいないのか?」
「いるわけない。そもそも関わってる女子すらいない」
「同じ部活の人がいるだろ」
「んー、まあいるけど、特別仲が良いってわけじゃないし」
「可哀想な奴だな……」
うるせぇな。いいんだよ、もう恋とか諦めてるし? 俺なんかと関わってくれる女子なんているわけないし? どうせ関わっても親友である誰かさんにすぐ取られるし? (既に何度も経験済み)
「ド畜生めが」
食堂でモテモテになっている親友に悪態づいていると、俺のスマホから珍しく通知音が鳴った。
友達と呼べるような相手は明沙陽しかおらず、母親または公式アカウントからしかメッセージが届かない俺のもとに届いたメッセージ。それは…………。
『今日の放課後、少し時間ある?』
思いがけない人からのもので、思いがけない内容だった。
放課後になり、俺は指定されたカフェに足を運んだ。
店内にはあまり客がおらず、とても静かでソファー席とテーブル席があり落ち着いた雰囲気だ。
「飛鳥馬くん、突然誘ったのに来てくれてありがとう」
「全然いいけど……俺なんかに何の用?」
昼休みの時間に思いがけない内容のメッセージを送ってきた主。それは今、俺の目の前に座っている明沙陽の幼馴染――
肩下まで伸びた栗色の髪に、エメラルドのように綺麗な翠眼が特徴的で超美少女。清楚可憐で大人しめな女の子といった感じだが、胸に関しては全く大人しめではない。
そして同じクラスだが、あまり胡桃沢とは話したことはない。でも明沙陽の幼馴染であるということから、連絡先は結構前に交換していた。恐らく、ちゃんと話すのは今日が初めてだろう。
「今日はね、飛鳥馬くんにお願いしたいことがあって呼んだの」
「……お願いしたいこと? どうして俺に?」
「飛鳥馬くんにしかできないお願いだから」
俺にしかできないお願い?
「私の恋愛相談の相手になってほしいの」
「……なるほど」
今の一言で全てを悟った。
何度も同じようなことがあったし、俺に近づいてくる女子なんてどんな人かは分かりきっている。
胡桃沢は幼馴染の明沙陽に恋心を抱いている。だから明沙陽の親友ポジションにいる俺に、相談兼協力をお願いしたいのだろう。
でも胡桃沢は幼馴染なんだし、俺なんかにお願いしても何も変わらないのでは……?
「わかった。いいよ。俺でよければだけど」
「ほんとに!?」
「うん」
「やった! ありがとう!」
明沙陽がこれ以上モテて、そんな姿を毎日見ているのはいい加減にうんざりしていた。
なら、早く彼女ができて他の女子が手を出せない状況を作り出した方がいい。
そのため俺は、胡桃沢のお願いを全て聞くことに決めた。
「早速なんだけど、飛鳥馬くんは女の子にどんなことをされたら嬉しい?」
「……え、俺が?」
「うん。男の子は女の子に何をされたら嬉しいのかなって思って」
女子にされて嬉しいこと……そんなの考えたこともなかった。
一人の男として、女子にされたら嬉しいことは……。
「料理とかかな?」
女子に料理をされて嫌に思う男子は一人もいないだろう。料理が下手なら話は変わってくるかもしれないが、男子なら誰もが好きな女子に一回は料理を作ってもらいたいと思うはずだ。
「なるほどね。他には?」
「他には…………甘えられたりしたら嬉しいかも」
「『甘えられる』。他には?」
胡桃沢は俺の言ったことを、クローバーのシールか何かが付いている可愛らしいメモ帳にメモしている。
やばい。すげぇ恥ずかしい。
まるで自分の性癖が女の子にバレていくような感覚。
どうしてこんなことになったんだ……。
結果、その後も数多くの男子として女子にされて嬉しいことを教える羽目になり、俺は恥ずかしすぎて死にそうになっていた。
「なるほどなるほど。飛鳥馬くんは女の子にこういう事をされたら嬉しいんだ」
「……もう止めてくれ。恥ずかしい」
「ふふっ……可愛い」
「かわっ……!?」
「そんな可愛い飛鳥馬くんにはもう一つ、お願いしたいことがあるの」
「……なんだよ」
胡桃沢はすーっと息を吐き、深呼吸をした。
「私男の子にこういう事したことなくて、もしよかったら飛鳥馬くんで練習させてほしいな」
「それって……今俺が言ったことすべてを俺にやると?」
「うん。ねぇ飛鳥馬くん、私のお願い聞いてくれる……?」
「……はぁ、わかったよ」
「ありがとっ」
斯くして、俺と親友の幼馴染である胡桃沢の妙な関係が始まったのだった。
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