第50話 30
混沌から
それは体長四メートルを優に超える大熊だったが、
ラファは
戦狼のラライア=イルヴァは、あの獣が混沌からやってきたと言っていた。そうであるなら、守人がやらなければいけないことはひとつしかない。ラファは精神を研ぎ澄ますと、構えていた弓の
矢は大気を切り裂きながら飛び、気色悪い体液を吐き出していた化け物の頭部に突き刺さる。が、全身から粘度の高い体液を垂れ流している化け物の動きは止まらない。それどころか身を起こして後足で立つと、足元に転がっている倒木を拾い上げ、飛び掛かってくる戦狼の動きに合わせて木を叩きつけた。
化け物の予想外の攻撃に反応できなかった戦狼は、凄まじい打撃を受けて吹き飛び、
けれど異形の化け物は統率のとれた戦狼の攻撃にも
その様子を遠くから確認していたラファは、弓弦を引き絞り慎重に狙いを定めると、標的に向かって矢を射る。狙いすました一撃は化け物の背中、気色悪い体液を吐き出す
強力な酸によって溶かされる植物や木々から蒸気が立ち昇り、たちまち視界が悪くなる。ラファは攻撃の視界を確保するため、地面に飛び降りて化け物に接近しようとするが、兄弟たちの背中を見て思い直す。腕輪の異空間には、この場所から攻撃が続けられるだけの矢が収納されている。無闇に接近するよりも、兄弟たちの支援に
夜の闇を切り裂きながら飛ぶ矢が、鋭い
厚い体毛に
人間相手なら決着がついていたのかもしれない。けれど化け物を侮ることはできない。素早く化け物と距離を取ると、体内の呪素を練り上げながら次の攻撃に備える。
ルズィには、炎の苦痛から逃れようとして暴れる化け物の大きな影が地面で揺れ動くのが見えた。しかし次の瞬間には、まるで地面に
苦痛に
ベレグは〈
凄まじい速度で飛んできた矢が眼球に突き刺さると、化け物は一瞬だけ動きを止め、また走り出そうとする。しかし次の瞬間には、ルズィが放った火球が直撃して地面に倒れ込む。そこに戦狼が飛び込み、鋭い爪で化け物の
戦狼の
化け物は血液を吐き出しながら叫び、折れ曲がった異様な足で起き上がろうとする。しかしベレグの呪術により、ふたたび拘束されることになる。そしてルズィがその機会をふいにすることはなかった。呪素を練り上げながら化け物に近づき、火炎で焼き払っていく。
熱風で上昇気流が生じ、炎の
ラライア=イルヴァの判断で戦闘に参加せず、遠くから仲間たちの様子を確認していたアリエルは、不吉な気配に鳥肌が立つのを感じた。
なにか近づいてくる。この世界に存在していてはいけないモノが。
アリエルは無意識に抜刀すると、暗闇に視線を向けた。すると深い闇に沈み込んだ樹林の間に、ひとつの影があらわれた。それは豹人の姿をしていたが、彼にはソレが
ソレの頭部は縦に割れ、まるで
ラライアは混沌の生物に――あるいは菌類に寄生された豹人に飛び掛かろうとしたが、アリエルは彼女の動きを制止する。ある種の直感に過ぎないが、あの豹人に接近することの危険性を感じ取っていたのだ。
彼は目を
アリエルが
あれがお前の敵で、お前が自由になるために
その黒い
アリエルはその様子をじっと見つめながら、夜の闇に支配された森に意識を向ける。しかし彼らの脅威になる存在は確認できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます