第35話:元凶現る
ラウルとエレオノールの婚約発表は、エルランジェ公爵家が中心で行う事に決まった。
それはまだラウルがティボー伯爵家を継承していないので、マリアンヌが行うとどうしてもジェルマン侯爵家として仕切る事になってしまうからだ。
それは今後の為にも避けたかった。
「招待状の記載は、ラウル・ティボーにしておいたぞ!」
招待状の発送が終わり、会場や料理の打ち合わせでエルランジェ公爵が別邸を訪ねて来た時、開口一番にそう言った。
「それは詐称になりませんか?」
マリアンヌが問うと、ニヤリと公爵が笑う。
「実はの、会場を王宮にして、婚約発表と継承式を同時にする許可を貰ったのだよ!」
凄い得意気な顔で言う公爵を、マリアンヌは「はぁ!?」と怪訝な顔で見る。
前世なら「あぁ!?」と威嚇していただろう。
「許可とは、誰にですか?」
答えが判っているが、一応確認の為にマリアンヌが問う。
「陛下に決まってるだろう。継承式は陛下無しでは成り立たないだろう」
あぁ、やっぱり。
マリアンヌは頭を抱えた。
お義母様、貴女の甥っ子は馬鹿ですか?
エルランジェ公爵は、シャルルの母の甥だが、年齢は上だ。
多産だと長子と末子で、
エルランジェ公爵仕切りの元決まった式の流れは、まずはラウルのティボー伯爵家継承式である。
これは国の儀式なので、招待状とか関係無く貴族は参加出来る。
次に、招待状の無い人間を排除しての、ラウルとエレオノールの婚約発表式だ。
料理は基本的に公爵家が用意する。
菓子類に関しては、別邸のパティシエであるピエールが担当する。
打ち合わせなどでマリアンヌが「公爵邸に伺います」と言っても頑なに訪ねて来ていたのは、ピエールの菓子目当てだったようだ。
「本当にこれで良いのだな?」
招待客の一覧を見ながら、公爵に念を押される。
「はい。私の方の招待客は問題ございませんわ」
にこやかに答えるマリアンヌへ、公爵も「そうか」とにこやかに笑った。
式が目前に迫ったある日。
侯爵家本邸から、執事がマリアンヌを呼びに来た。
本来応える必要は無いのだが、後々面倒なのは嫌なので、マリアンヌは素直に呼び出しに応じた。
シャルルを含む護衛
執務室に呼ばれたが「全員入れないので断る」と勝手にマリアンヌは応接室で待っていた。
護衛から渡された鉄扇を手に、呼び出した相手を待つ。
「勝手に部屋を変えるとは何様のつもりだ!」
ノックもせずに部屋に入って来たのは、ジェルマン侯爵その人である。
ケヴィンの父で、マリアンヌには義父になる。
パトリック・ジェルマン侯爵。
男尊女卑の権化のような人物で、倒れる前は余り接点が無かったので気付かなかったが、ケヴィンがDVモラハラクズ男になった原因は、おそらくこの男を見て育ったせいだろう。
領地発展の為のマリアンヌからの提案は、まず否定から入る。
「何かくだらない案があると、馬鹿な事を言ってるらしいな」
毎回、その台詞から始まる。
そして見た
なぜフリだと判るのかというと、書類を見ている視線が一点から動かないからだった。
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