第33話:契約内容変更




 時はさかのぼり、ラウルが生まれて10日程経った頃の事である。

 ラウルの瞳の色が金色と判明した。

 父であるシャルルの母方のエルランジェ公爵家の血が色濃く出たのだ。

 それにより、ラウルの後ろ盾になるとエルランジェ公爵家から連絡がきた。


「今、後ろ盾になられてしまうと、ジェルマン侯爵家とエルランジェ公爵家が手を組んだように誤解されてしまうから、お断りしましょう」

 マリアンヌの提案に、シャルルも同意する。


「ラウルはティボー伯爵家を成人と共に継承します、と書けば遠回しにその時は夜露死苦ヨロシクって意味になるかしら?」

 妙に気合いの入った「ヨロシク」に引きながらも、シャルルは頷く。

「ラウルは婚外子として届け出るんですよね?」

 今度はシャルルが確認してくる。


 後継者が生まれた後は、夫婦共に自由になる人が多い。

 その為に愛人の子を産む女性も多いのだ。

 下手に後継者問題で揉めたりしないように、婚外子として届け出る事も出来た。


 女性が爵位を持つ事も認められており、それを知らずに婿の愛人が後継者を産んだと騒ぐ事件が後を絶たなかった為に出来た制度と言われている。

 妻を殺して爵位を乗っ取ろうとしても、直系でない夫の婚外子は後継者になれないように、である。



「ラウルの瞳の色がバレる前に、ジョアキムの成人を目処めどに離縁すると契約書を交わしてしまいましょう」

 マリアンヌの言葉に、シャルルは難色を示す。

「期間が長過ぎませんか?」

 ジョアキムはラウルより2歳上なので、あと14年は離縁出来ない。

 成人は16歳だからだ。


「だって、あのシモーヌを侯爵家夫人に教育するのよ?私も協力はするけど、侯爵夫人が頑張ってもギリギリね」

 あぁ、とシャルルも納得した。

 マリアンヌの護衛として何度も顔を合わせているシモーヌは、下位貴族としても最低限のマナーしか知らない女性だった。


 本来はメイドとして雇われたくらいなので、親も最初から貴族に嫁がせる気は無かったのだろう。




「ジェルマン侯爵にハッキリと「後継者も産んでない女の意見は聞かん」と言われたから、そんな義理は無いんだけどね」

 そう。マリアンヌが離縁を決めた理由は、そこにあった。

 ラウルを妊娠する前に、将来を考え侯爵領の為の改善案をケヴィンとジェルマン侯爵に提案した事があった。


 そこでジェルマン侯爵は、ケヴィンの子を産んだとシモーヌを褒め、マリアンヌの事をケヴィンが殺しかけた事を棚に上げて、「後継者も産めない石女うばずめが」とさげすんだのだ。


 ケヴィンの子ではなく、ティボー伯爵家の後継者を産むと契約書を交わしていたからかもしれない。

 しかしそれはそれとして、マリアンヌは侯爵夫人としての仕事はしっかりと果たすつもりでいた。

 公の場では、ケヴィンを支えるつもりだったのだ。



「本当は今すぐ離縁しても私は困らないのだけど、侯爵夫人には色々と教育していただいた恩があるからね」

 ただそれだけの為に、マリアンヌは離縁する時期をジョアキムの成人まで延ばしたようだ。


「それに、ジョアキムの成人としておけば、シモーヌの教育が終わった時点で離縁出来るし、終わらなくても期間は有限だから」

 成人前日でも、成人5年前でも契約内になる。

 離縁したら結婚出来るわね、とマリアンヌは冗談として言っていたが、シャルルは「そうですね」と本気で頷いた。




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タグに「離縁/離婚」がありませんが、ネタバレになる為に、敢えて入れておりません。

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