自業自得の因果応報

仲村 嘉高

第1話:始まりは混乱




ゆらゆらゆら


ゆれる、ゆれる、揺れる


浮かんで、沈んで、また浮かんで



寒い



体が震える



痛い、寒い、指先が……冷たくなる



おきなきゃ


起きなきゃ


起きなきゃ駄目!




 バチッ!

 伯爵夫人であるマリアンヌ・コシェは目を覚ました。

 目の前には、心配そうに自分を見つめる若い女性。

 自分の娘と同じ位かと考え、マリアンヌは自分にはまだ子供はいないと思い直す。


 起き上がろうとして、体が上手く動かない事に気が付いた。

「奥様、頭を強く打っております!今、医師が来ますので動かないで!」

「……モニク」

 自然とマリアンヌの口から言葉が零れ落ちた。


「は、はい!何ですか?奥様」

 目の前の女性は、モニクと言う

 実家のジュベル伯爵家から、嫁ぎ先まで付いてきてくれたメイドだ。

 メイド?

 いつから日本はメイド制度が導入されたのだろうか。

 その前に、日本てどこ?



 マリアンヌは、酷く混乱していた。

 目の前のモニクは「頭を強く打った」と言っていた。

 そのせいで記憶が曖昧なのかもしれない。

 体が上手く動かないのも、そのせいなのだろうかと、そっと腕を持ち上げた。

 その細さに、マリアンヌは我が目を疑った。


 拒食症一歩手前、いや、もしかしたら既に拒食症なのかもしれない。

 活動に必要な筋肉すらも無いように見える。

 これでは、体が熱を作れなくて寒いだろう。

 体のだるさは極度の貧血だと予想出来た。

 先進国の日本で、こんなになるまで放置される事など……そこまで考えて、また、先進国?日本?と思考が止まる。



 バタバタと複数の足音が近付いて来て、「奥様はどちらですか?」と焦った女性の声が聞こえた。

「遅い!呼ばれたらすぐに来い!これだから女は」

 部屋に入って来た人物を怒鳴りつけた声を聞き、この部屋にもう一人男が居た事にマリアンヌは初めて気が付いた。


「少し躾をしたら、勝手に倒れた。そこに居るから、死なない程度にはしておけ」

 男はそれだけを言うと、部屋から出て行った。

 倒れたマリアンヌを心配する様子も無く、むしろ迷惑そうにしていた。


「何が躾よ。奥様を理不尽に殴りつけたくせに……」

 モニクが悔しそうに呟いた。

?」

 女性医師がモニクに問い掛ける。

「横に立っていた奥様がふらついてソファの背もたれに手をついたのを、不敬だと頬を殴ったのです」

 モニクの返答に、医師はマリアンヌを沈痛ちんつうおもちで見つめる。


「立っているだけでも辛い体調だと、何度も説明しているのに」

 医師が女性だからか、この家の主人は真面目に話を聞かない。

 その割に、自分の妻を男性医師には触れさせないのだ。


「昼間は家に居て、のんびり過ごしているだけだろうと、自分が居る間は奥様を椅子にも座らせません」

 モニクは倒れているマリアンヌの手を握り、涙を流した。



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