■365 _コンビニ11/12/07:10■

 ヤタがステータスより大事な話があると言うので身構えていたが、内容はとにかく足が冷えるというものだった。


 なんだか肩透かしを食った気持ちになったが、確かにこんな寒そうな格好をいつまでもさせてはいられない。防寒対策はなによりも優先されるだろう。


 家に戻って再びバッタと遭遇するわけにもいかないので、この時間でも空いている場所に行くことにする。


「ゴンさんに何て言うべきか…」

「ゴンさん?」

「俺のバイト先の店長だよ。

 『365-one year-』ってコンビニ知らない?」

「頼りになりそうな名前」

「頼りになるけどテロ対策とかはしてないからね」

「ん?なに?」


 何年か前に流行ったドラマだがボケが通じない。これがジェネレーションギャップか…。


「あ、ほら、看板が見えてきた」


 話を強引に切り上げてコンビニの看板をあごで示す。


【―365―】

【酒.薬.銃】

【ATM.WC】


 タバコの文字が消えて、銃になっている…。

 夢であってくれればと思っていたが、コンビニに入る前から淡い期待は潰えた。


 これが現実だとすると何かおかしな世界に迷い込んだのか?


「ここは…何かの気配がして近寄らなかった場所」


 考えを巡らせていると、ヤタが気になる事を言い出す。


「何かの気配?危ない感じのもの?」

「力が強い者の気配…かな」

「店員に筋肉系の人がいるからその人かも?」

「うーん、そういう感じの気配じゃない…かな」

「他に心当たりは無いかなぁ。それに、今の時間帯はゴンさんしかいないなら気にしなくて良いと思うけど」


 納得いかなそうなヤタだったが、もうコンビニの駐車場あたりだ。このまま入ってしまおう。


「とりあえず靴下買おう、最近人気の雑貨屋と業務提携したとかでちょっとした衣料品も置いてるから。『無名良品』って言うんだけど」


 話しながらコンビニの自動ドアを抜けると来店を報せるチャイムが鳴り、レジまでゴンさんが出てきた。他に誰もいなさそうなので人目が無いうちに済ませてしまおう。


「いらっしゃいま〜って、なんや雨森ちゃんやん。今朝はありがとな」


 金色の短髪でニカッと笑うゴンさんはコンビニの店長とは思えない風貌をしている。これが許されるのは田舎ならではだろう。ヤタが怖がらなければ良いけど。


「いえいえ、力になれて良かったで――」

「…ッて!?

 なんやなんや、そのカワイ子ちゃん!!」


 ゴンさんが俺の話を遮り食いついてきた。


「メッチャ寒そうやん、え、何、拾ってきたん?」

「え、ええ、それで」


 ヤタに気付いたゴンさんは早口でまくしたててくる。犯罪者扱いされるかと不安だったけど、これはこれでやりにくいな。


 うまく話せずにいると更に俺の言葉は遮られた。


「もしかして貴方…プリンシパリティ?」


「「え?」」


 俺とゴンさんは固まった。




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