ガーネットに揺られて

犬屋小烏本部

第1話-1 明日は

明日は特別な日だからね。今夜はゆっくりとお風呂に浸かるの。

最後に会ったのは四十八日前になるのかな。大好きなあなたに、私は明日会いに行く。明日だから、会いに行く。







シャンプーで髪を洗っていく。頭を真っ白にして、綺麗にする。

コンディショナーで整えてサラサラにする。何も残らないように、水に流していく。

石鹸を泡立てて体を洗う。爪の先から指の間、細かなところまで忘れずに。

歯もよく磨く。爽やかなミントの味のする歯みがき粉を使って。キスなんて期待していないけど、あなたに会うのは最後だからしっかり磨く。




そうしたら、熱めのお湯を湯船に溜めていく。お茶やコーヒーを淹れる時みたいに、じっくりじっくり注いでいく。




子供の頃はこの時間がつまらなかった。早く早くと急かして、急いで、焦って、転んで。おとなしく待っていることもできなかった。

待つことを覚えて、この時間が楽しくなった。本を読んで、歌を聴いて、映画を観て、同じ時間を楽しむ方法を知った。

そこでやっと、待つ間の時間も楽しいと知った。




湯船にお湯は溜まっていく。




大人になって自分を磨くことが楽しくなった。好きなことを学んで、お化粧をして、服で着飾って。スポーツもした。旅行で行ったことのない場所の景色を見た。

他人の意見を聴くようになった。自分の意見を言うようになった。

もちろんお金もかかるようになった。でも、その時にはもう大人だったから。自分でお金を稼ぐようになった。稼いだお金を自分の好きなように使うようになった。

お金の価値を知った。働くことの意味を知った。お金の使い方を学んだ。自分の使い方を学んだ。

私は大人になった。

私たちは、大人になった。




ほら、もうすぐお湯が溜まる。

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