第8話


 シャワーを浴びてから、コミネのシングルライダースジャケットを着こむ。これだってこだわりが無い訳じゃない。松本人志がクロムハーツの60万の革ジャンを買ったと聞いて、安くてもブランド価値のあるものを、と思ったのだ。

(何で松本人志が関係あるんだろう。人は人なのに。西武は西武なのに)

 階下に降りて、ホンダ N-BOXに乗り込んだ。昔はアコードに乗っていたが、所ジョージの世田谷ベースだの、ヒロミの八王子なんたらだのを見ている内に車に金をかけるのがバカらしくなったのだ。

(何で所ジョージやヒロミが気になるんだろう。他人は他人なのに。西武は西武なのに)

 そんな事を思いつつ、キーを回す。

 ナビに店の住所を入力すると案内開始ボタンにタッチした。

「ルート案内を開始します。実際の交通規制に従って走行して下さい」

 というナビの音声案内に従って、車を発進させた。

 SHOの”ヤクブーツはやめろ”を大音量で流す。

 表通りの中山道に出ると、ひたすら南下。高島平からは池袋線の下を走っていって、山手通り、新目白通りと走っていって、山手線の高架をくぐって右折すると目的地だった。

 走行距離キロ15.5キロでも全然疲れない。犬は獲物を追いかけている間は全く疲れを知らないというが、トラニーチェイサーもトラニーを追いかけている間は疲れないのか。


 高田馬場1丁目パーキング3時間1500円に駐車する。

(高田馬場というのは、坂が多くて路面電車が走っていて、丸でサンフランシスコみたいだな。変態が似合う街だ)などと思いながら、一通の裏道を歩いた。昼間なのに、人通りはまばらだった。途中セブンで2万円を引き出す。

 到着すると、オートロックで部屋番号を押す。

「14時から予約している小川ですが」

 アイホンのライトが付いてから、無言のままオートロックが解錠された。

 504に入るとそこが受け付けになっていた。

 玄関先にカウンターが据え付けてあって、身長180センチ体重100キロの巨漢のオカマが手をついていた。

「いらっしゃい」

 玄関右手には三段ボックスがあって、DVDが積まれている。裏DVDを売っているのだ。

 カウンターの向こうはダイニングで、応接セットがある。

 その奥に引き分け戸があって、向こう側が和室になっている。

 左手にもドアがあって洋間がある。

 その手前が洗面所で洗濯機が回っている。

 その左側がキッチンコーナー。

 マドンナの「Live To Tell」が流れていた。

 和室から、一人若いトラニーが出てきて、キッチンコーナーの冷蔵庫からドリンクを出すと持って行ったが、途中で止まって、ちらっとこっちを見た。

 そのトラニーが和室に帰ると、別のトラニーが顔を出してこっちを見る。顔を引っ込めると、部屋の中から、キャッキャッ聞こえてくる。

「誰が指名されるんだろう」とか話しているのでは。

 トラニー達の柑橘系の香水の香りが漂っている。

 目の前の巨漢オカマはチョコレートの香水を付けていた。

 それからマドンナの「Live To Tell」。

 一気に気分が高揚してくる。

 どんなに陳腐な景色でも若い性的な人間と、良い曲、マドンナの「Live To Tell」とか、と、香水の香りとでドーパミンが出るのではなかろうか。

「あんた、あの子をご指名ね」と巨漢オカマがタブレットを見せてくる。「それじゃあ20000円になります」

 さっき引き出してきた1万円札2枚を渡した。

 それと引き換えに、キーボックスから出した鍵を渡される。

「それでは206号室でお待ち下さい」


 206は504とは違ってリビングもなく、純然たるワンルームだった。

 真ん中にベッドがあるだけで後は造り付けのクローゼットがあるだけ。

 ちょっと蒸し暑い気がして、小川は自分でエアコンを入れた。室温はドライ24度。

 キンコーン。

「おじゃましまーす」

 鼻にかかった声で言いながら、アリス嬢が玄関を開けて入ってきた。

 ユーチューバーの元男の子の青木歌音が言っていたが、元男の子は女の声を出す為に「ワレワレハウチュウジンダ」と鼻声を出してだんだん高くしていくのだ、と。それで鼻声なんじゃなかろうか。

 一週間ぶりだが、見た瞬間(いい)と思った。

 顎はともかく、目が蒼井優似の切れ長で、しかも鼻すじは通っている。

 走ってきたのか、息が荒く、小鼻が収縮している。

 息のニオイはピーチとかフルーツの香り。

 ベッドに一緒に腰掛けると、こっちの太ももを撫でてきた。

「今日は”ところてん”やろうか」

「”ところてん”?」

 小川もアリスのぴっちりデニムの太ももを撫でた。

「前立腺のそばの精嚢をつつくと、たらたら精液が垂れ流すの。勃起しないまま。そうすると、プロラクチンが出ないから賢者タイムにならないからオーガズムが続いてトランス状態になるの。その時に、何かをイメージすれば、その世界にトリップ出来るから」

「ふーん。気持ちよさそうだなぁ」

「ねえ、さっきショートメールで、足場の下敷きにになりたいなんて言ってきたけど、なに?」

「いやー、西武系の警備会社に入るかも知れないんだよねぇ。入れないなら追い出されるんだけれども。

 俺、西武って大嫌いなんだよねぇ。公園通りは西武セゾンが作ったなんて聞いただけで渋谷に行きたくなくなるんだよね。今いる池袋も、ダイヤゲートだのサンシャインシティだの西武色が強いけど。とにかく西武が嫌いだからさ、西武系の警備会社に入るぐらいだったら、あの足場の下敷きになって死んだ方がマシだ、と思ったんだ」

「へー、珍しいわね、つーか偶然ね。そういうお客さんが居たわよ。60歳ぐらいで、警察官なんだけれども、西武が大っ嫌いなんだって。

 その人が20歳の頃、埼玉のfラン大学の食堂のテレビで、西武の堤オーナーがライオンズの広岡監督を公開処刑したのを見たんだって、記者会見で。広岡監督は、選手に、肉は食べたらいけないとか言っていて、野球選手によ。そんな独特な食事療法を押し付けておいて、その癖自分が痛風になったうえに成績もふるわなくって。それで、記者の前で、オーナーに、「痛風になる人は精神がぶったるんでいるそうですなぁ」と言われたんだって。それが、すっごい動物的な迫力があったっんだってさ」

「それでそのおっさん、桜田門に入ったのか。桜田門なら西武より格上だからな。俺も桜田門に入っていればよかったよ。そうすれば西武系の警備会社に入る事なんてなかったのに。あんな警備会社に行くんだったら死ぬよ。ロボコップみたいに。鉄骨の下敷きになって。西武の警備会社に反乱するロボコーップ」

「あのDVD早く返してよ」

「今度持ってくるよ」

「あの映画、私大好きなんだから」

「へー」

「じゃあ、今日はそういうプレイにする?」

「え?」

「あの、廃工場の水たまりで鉄骨の下敷きになるシーンからスタートして。マーフィは、修理をしないといけないのね。特殊合金で隠れているけれども、顔とお尻だけは、人間のままなの。お尻を手術しないと…みたいな展開」

「ああいいよ」

「じゃあ、私脱ぐよ」

 アリスは、デニムジャケットを脱ぐとクローゼットに入れた。

 ぴっちりとしたカジュアルシャツに、スリムなジーンズ。

 ほんのりと乳房のふくらみもわかる。

 それも脱ぐと、ブラとパンティになった。

 おっぱいはかすかに膨らんでいるのに、股間は盛り上がっている。

 喉がカラカラになってきた。

 クローゼットからバスローブを出すと、「小っちゃんもこれに着替えて」と渡してくる。

「なんか飲むものないかなあ」

「なんで? 喉乾いてきちゃった」

 アリスは冷蔵庫から、ジャスミン茶のペットを2本だしてきてくれた。

 バスローブ1枚でベッドに座るとブラにパンティのアリスが横に座った。

「じゃあ、上、脱ぐよー」と言うと、ぺろんとブラを外す。

 白い水泳選手の様な肌にかすかに膨らんでいる乳房、そしてピンクの乳輪がある。

「いいなあ」

 アリスはうずくまる様にしてパンティも脱ぐ。ダビデ像の様な包茎が現れた。まさにダビデの包茎。

「アリス、最高!」

「小っちゃんも脱いで」

 小川はバスローブを脱ぐ。

 小川は「いいねえ」を繰り返しながら、アリスの背中をまさぐると、胸の方に手をまわして、微かに膨らむ乳房を手のひらでおおい、ピンクの乳首をつまむ。

 手を尻にまわすとお尻のほっぺを開こうとする。

「ああ、まだシャワーを浴びていないから」

「いいよ、そんなもの」

 ここで、ひらりと身をかわすとアリスはベッドの上で四つん這いになった。

 猫の伸びのポーズ。

 色素沈着していない肛門と、股にはさまれた金玉とペニスをいいと思う。

「いいねえ」

「どこが?」

「顔と、ちょっと出たおっぱいと、大きすぎないダビデのペニスが」

 四つん這いで、肛門が見えていて、股間に金玉を挟んだ状態で、蒼井優似のアリスがこっちを見ている。

(俺は何をいいと思っているのだろう。顔がいいと思うっているのか。絶対にマッド・ディロンじゃダメだから、女を求めているのか。みんなボーイ・ジョージに何を求めているんだろう。しかし、絶対にそこにまんこがあったらダメだから、女を求めている訳じゃあない)

「マッド・ディロンみたいなのはごめんだからな」小川は呟いた。

「えー、なに、それ」

「いやー、エロ動画のシーメール物で、マッド・ディロンみたいに顎の長いのがズラをかぶったのがあって、ああいうのはかなわないな、と」

「ふーん。ホルモンが遅かったのね。かわいそうに。私もエラはっているから気にしているんだけど」

「そんな事ないよ。ちょうどいいよ。つーかそれより細かったら歯並びが悪くなるよ」

「じゃあ、小っちゃん、”ところてん”希望だよね」

「”ところてん”、やられたい」ジャスミン茶を飲みながら言った。

 興奮して喉はカラカラだった。

 アリスは前面に立つとペニスを見せた。

「じゃあ、逆AFしないと…」と言って自分の股間を見下ろす。「あー、どうしよう、まだ私の立っていない」

 勃起していない包茎のペニスをこちらに寄せてくる。

「ちんぽおおきくして」とアリス。

 アリスのを見ると、勃起はしていないが、立ったら小川のより2、3センチはでかかろうというサイズだった。

(舐めたい)と小川は思う。(肛門性愛だけじゃない。包茎のちんぽも好きなのだ。何でだろう。何で包茎のちんぽが好きなんだろう)

 謎が脳内でうずまいて、それでテンションが上がる。

 最初手で持ち上げてみたが、触らないまま空中にある状態のダビデの包茎を口で受けてみたい、と思った。

 アリスの前に跪くと目の前に包茎ペニスがあった、朝露に濡れる朝顔の蕾の様な。

「じゃあ、吸うよ」

 アリスのペニスを口に含む。

 口の中で徐々に勃起してくると、包皮が剥けるのも分かった。

 勃起してくると、アリスは手を伸ばしてきて、こっちの乳首を強めにつまんだり、なでたりした。

 完全に勃起すると、ハモニカみたいに横を舐めたり、リコーダーの様に縦に舐めたりする。

 今やアリスのペニスはぎんぎんにいきり立っている。

 そして上半身には小さい白い乳房とピンクの乳首があるのだ。

「じゃあ、逆AF行く?」とアリス。

「行く」

「じゃあ、最初、ほぐしてあげる」

 アリスは体を離すと、トートバッグから短めのアナルビーズとローションを出してきた。

「じゃあ、お尻にこれ塗らないと」

「え、何それ、新しいやつ?」

「これ教えてもらったの。SODローション ロングバケーションタイプ。これが一番いいんだって」

(SODってそんな物まで作っているのか。「マネーの虎」の高橋がなりは。そんなものを作るんじゃあ生産設備も必要だろう。そんな資産があるのか。それともOEMで名前だけ貸しているのかなあ。なんか、西武の堤一族みたいな勢力の大きさを感じて、嫌だなあ)

 そんな事を考えている間に、ローションは塗られて、アナルビーズの一個目は既に吸い込まれていた。

「ほら一個吸い込んだ」とアリス。「お尻を緩めて、緩めて。ほら、又一個吸い込んだ」

 そうやって、すぐに5個まで吸い込む。

「じゃあ、抜くわね」

 ずるずるずるーと引っこ抜かれる。

 そして、指2本でアナルをぐりぐりする。

(感じるー)

 しかし不思議な事に、ちんぽは萎えていた。

「さあ、お尻の方はバックオーライ」

 アリスは、コンドームを取り出すと、器用に装着した。

 小川のちんぽを見て、「あれぇ、勃起していないのにお汁がたれている。勃起していないのに感じているの?」と言う。

 手を伸ばしてきて、こっちのちんぽに指を絡めてくる。

「じゃあ、四つん這いと正常位とどっちがいい?」

「四つん這い」

 言うと小川はベッドに手をついて尻を出した。

 アリスが尻のほっぺを広げてじーっと視姦する。

「丸見え」

 SODを内部にまで塗りたくった。ぐりぐり、ぐりぐり。

「さあ、じゃあ、あなたはマーフィ巡査ね。あの廃工場でクレーンで鉄骨の下敷きになって修理が必要なの。特殊合金で見えないけれども、顔とお尻だけは人間の肉体のままなのよ。じゃあ、肛門の治療をしないと」

 言うとアリスは指を突っ込んできた。ぐりぐり。

「これじゃあダメだわ。こっちの道具で」

 と、ペニスを入れてきた。

 SODの協力な粘度のせいか、ずるんと入ってくる。

「はぁ」と小川は息を漏らした。

 アリスは、一回深めに入れてから浅めにして、鬼頭で前立腺の位置を探す。

「ここでしょう? ここをペニスで擦ると漏れるんだから」

 ゆっくりとピストン運動が始まる。ずぶずぶずぶ、ずぼずぼずぼ。

「は~ぁ、いい」

 入れる時には、精嚢を擦る様に入れる。

 勃起していないちんぽから本気汁が垂れている。

「いい、すげーいい」

 本気汁に混じって精液がにじみ出てきた。

「ほら、たらーんと出てきた」

「あ~あ、いい」

「ほら、突いた時に出るんだから。いいでしょう」

「いー」

「トランス状態よ。

 さあ、マーフィは記憶を失った訳じゃないのよ。クラレンスの一味に、鉄骨の下敷きにさせられた時の事が脳裏によみがえるの。どんな感じだった? 鉄骨が、足場が落ちてくる時の感じは」

 ずぶずぶずぶと挿入する。

 ちんぽの先から精液が垂れてくる。

「あー、いい。でも、死ぬんだ、アン・ルイスを守る為に。アン・ルイスはアンヌ隊員に似ているな。「ロボコップ」の元ネタは「ウルトラセブン」なんじゃあにの? モロボシダンも死ぬでしょう。あ~あ、いい」

 ずぶずぶずぶと突いてくる。

 たらーりと精液が垂れてくる。

「ほら、鉄骨が胸の上に落ちてくるのよ」

「あーあー」

 精嚢を突かれる度に、たらーりと、”ところてん”をする。

 長いオーガズムが続いた。

 もう十分だ、という頃なると、アリスは後ろから右手で小川のペニスを掴んでしごき出した。

「あっ、あっ、あっ、行く、行く」

「さあ、治療は終わりよ、行っちゃって」といいながらピストン運動を激しくする。

「あっ、あっ、行くー」

 そして小川ははてるのであった。


 シャワーを浴びてもまだ時間が余っていた。

 ベッドに腰掛けてジャスミン茶を飲む。

「俺は、何を求めているのかなあ。女を求めているのにペニスを求めている。何でちんぽが欲しいのかぁ」

「3つ説があるの。

 第一の説は、ペニスをクリトリスに見立てている感じ。

 ペニクリっていって、バイブを鬼頭に当てて、行きそうになると離して、おさまると又当てて、って、何回もやると、じわーっと精液が滲み出てくるっていうプレイもあるんだけれども。

 第二の説。女にペニスがあるのは面白いという説。

 第三の説。女性性器嫌悪説。気持ち悪いじゃん、おまんこって。内臓みたいで」

「インターフェースが変わったって事かな。つまり、相変わらず女を求めてはいるのだが、つながる箇所が女性性器から男性性器に変わったという事?」

 何気、関根惠子巡査のナニを想像してみたら、内臓が剥きでている様で(嫌だな)と思えた。

(という事は第三の説かも知れない。いやー、それがペニス羨望の理由とは思えないなぁ)

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