Final Phase 羅生門の鬼 -Demon of The Gates-

 1週間後。僕は神戸羅生門が運営していた闇カジノ及びキャバクラを一斉摘発した。もちろん、ガサ入れには管轄である生田署の警官や刑事も関わっていた。仁美が、僕に話を振ってくる。

「古谷さん、こんな事をしていたんですね」

「ああ。僕は『深井章博』として神戸羅生門に潜入していた。奴らのシノギは広告代理店で、僕は、その売上を管理していた」

「なるほど。組織犯罪対策課の大泉警部から聞いた話だと、なんでもそのシノギは風俗店の広告や違法マッチングアプリの広告を作成していたらしいですね。例えば、どんな広告なんですか?」

「そうだな。『この出会いは、運命かもしれない』というキャッチコピーで、違法なマッチングアプリの広告を作成していた。僕の『深井章博』としての同僚に、櫨染啓太という腕利きの広告デザイナーがいた。なんでも、前の会社をクビになって神戸羅生門のシノギへと就職したらしい。もちろん、彼も一連の摘発の影響で逮捕されている。ちなみに、彼に対する罪状は『わいせつ物頒布等罪』だ」

「それぐらい、過激な広告だったんですか?」

「一応、現状の法律で裁けるとしたらわいせつ物頒布等罪が妥当だからな」

「なんだか、櫨染啓太さんが可哀想になってきますね」

「まあ、彼にはこれを機に反省してくれたら良いと思っている。あとは、濡羽将平と蘇芳貴志に対する罪状だな」

「色々ありすぎて、兵庫県警側も困っているんじゃないでしょうか?」

「それはそうだが、一応神戸羅生門は『準暴力団』だ。罪状は明らかにせざるを得ない。半グレ集団というのは、法で裁けないグレーゾーンな組織ではあるが、いずれ奴らに対する法律は整備されるだろう。僕たちは、その日が来るまでひたすら検挙するしかないんだ」

「そっか。じゃあ、私も善太郎さんに協力してもいいかな?」

「好きにしろ」

 結局のところ、僕は何の手柄も上げていない。寧ろ、手柄を上げたのは大泉警部や仁美じゃないか。そんなことで、僕に組織犯罪対策課の潜入捜査官が務まるのだろうか。

 摘発が終わった頃になると、空はすっかり暗くなっていた。その暗さは、まるで濡羽色のように暗い。そう言えば、神戸羅生門のリーダーの名前は濡羽将平だったな。もしかしたら、これも「自分が黒い組織である」ことを示す偽名かもしれない。そんな事を思いながら、僕は煙草に火を点ける。紫煙が、月すら見えない濡羽色の闇に消えていく。この闇の中に、新たな半グレ集団の胎動があるかもしれない。その時は、「鬼」になって半グレ集団を壊滅させればいい。


 ――そんな事を思いながら、僕は夜の三宮へと溶け込んでいった。(了)


 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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