CHAPTER12「絶望の理由―SHADOW―」
《絶望は、自由への第一歩である。》
《リストランテ・フィースト》での任務は、思わぬ展開を見せていた。
「はじめまして、イケメンさん。」
「ステラ……どうしちゃったんだよ!」
変わり果てたステラの様子に動揺しているブルーウィング。
「ステラ?……ああ、
自分の名前を、まるで誰かの名前のように語るステラ。
「私はあんな子とは違うの、一緒にしないで。
私の名前はアナスタシア──アナスタシア・アリソン。」
ステラ──いや、
黒い瞳でアルフレッドを見据えた。
「さっさとずらかるか──」
気を失っていたウィーバーは意識を取り戻し、
気付かれないように、その場を去ろうとした。
「今度会ったら、その時は逃がさないからね。」
逃げ去るウィーバーの背中を、アナスタシアの言葉が突き刺した。
「さあ……遊びましょ、アルフレッド。」
アナスタシアが妖しく笑みを浮かべ、掌を地面に
巨大な黒い結晶がせり上がってきた。
結晶は調理場を破壊しながらブルーウィングに迫り、
ついには彼を取り囲み退路を絶った。
《先の襲撃者との戦闘によりアーマーの損傷58%──
特に翼の損傷が激しく、シールドの形成はおろか
退避も不可能。》
AIの冷静な音声が、却ってブルーウィングを絶望の淵に落とす。
「……知ってる。」
ブルーウィングは力なく答えるしかなかった。
「分かってはいるけど……ステラは僕の仲間だ!
彼女に何が起きたのか知りたいし、救いたい!」
「
簡単に吐くもんじゃないわよ……お坊ちゃん!」
彼女は声を荒らげて、殺意を込めて更なる力を解放した。
先程よりも勢いを増してブルーウィングに迫ってくる黒い結晶。
彼はそれを叩き割ろうと幾度となく殴り続けた。
「無駄なことを。何をしてもあの子は戻らないのよ!」
更に攻撃の手を強めるアナスタシア。だが彼女が突然、
頭を抱えて苦しみ出した。
「うっ……な、何よ!」
(私……の身体……を使……って仲間を傷つけ……
な……い……で……やめなさい!アナスタシア!)
アナスタシアの脳内に、ステラの声が響いた。
苦悶の表情を浮かべながら、地面に膝をつくアナスタシア。
ブルーウィングはアナスタシアの放った結晶を破壊しながら、
その内面にいるステラを必死の想いで呼び覚ます。
「ステラ!目を覚まして!」
一方、《保管庫》では──
「ウガアアアアアア!」
野獣の咆哮が雷鳴のように《保管庫》に轟いた。
騒ぎを聞きつけて《保管庫》に現れた数人のボディガードは
野獣に向けて数発、発砲した。だが、その身体は
傷一つつかなかったばかりでなく、ただ刺激を与えただけだった。
ダンテ──アシッドはある事を思いついた。
(今ならこの混乱に乗じてここから逃げられるかもしれない!)
アシッドは仲間たちに合図をした。全員が
アシッドの意を汲み、頷く。
「喰らえ!」
ノーチラスは水槽から這い上がり、水流を
敵にぶつけた。
「吹っ飛ばしてやるわ!」
テンペストラは両手から突風を起こし、
敵を撹乱。
アシッドは、泥のように身体を変化させて
絡みついた。
「よくもこんな暗い場所に閉じ込めやがったな!」
敵は、怯えつつも銃を彼らに向けた。
「お前ら何しやがる!たかが《製品》の癖に!」
クイックボルトは敵に立ち向かう彼らの姿を見て
満身創痍の中、身体を奮い立たせてスーツを装着した。
「アイツら……やるじゃん!よし、俺ももう少し頑張るか!」
クイックボルトは、力を振り絞り光速で走り出した。
手首のブレスレットから小型テーザーを放出させながら
目にも留まらぬ速さで残りの敵を倒していくクイックボルト。
「このまま、オークション会場までひとっ走りだ!」
「ステラ!目を覚まして──!」
ステラに向けて必死に問いかけ続けるブルーウィング。
「やめて!……出てくるな!私はあんたを小さい頃から知っている!
一人じゃ何も出来ない弱虫よ!……あんたなんかに──!」
(それは
確かに昔の私なら、貴方に立ち向かうなんて考えもしなかった!
でも、今の私には対策課の仲間がいるの!
だから……だから、貴方なんかに私は負けない!)
「うっ……ぐあああああ──!」
アナスタシアの叫びが、調理場にこだました。
アナスタシアは力尽きてその場に倒れる。
「ステラ!」
倒れるアナスタシア──ステラに駆け寄るブルーウィング。
「任務……完了、ですわね。
「もう、夫婦のふりはしなくていいんだよ。」
涙を堪えながら笑う彼を見つめるステラの瞳は、
元の青く輝く瞳に戻っていた。
「チーフ──こちらブルーウィング。任務完了、バリアントを逮捕。
サンドリヨンと共に、本部に帰還します。」
「ノクターンアレイにお住まいの皆々様!
今宵も、お集まりいただき誠にありがとうございます!」
闇オークションの会場では舞台上で競売人がマイクを手に、
オークションの開始を宣言していた。
黒い襟が付いた赤い燕尾服に、黒いパンツ。
髪はべったりと整髪料で固められ、いやらしい笑みを浮かべて
ピンと張ったカイゼル髭を生やしている。
「今宵は、スペシャル!皆様に世にも不思議な生物をお目にかけましょう!
まだ誰も足を踏み入れたことがない
深いふかぁい森の中に住んでいるという
謎の種族──《オルタリ族》。
我々はその未開の地を探検し、ついに《彼》を見つけました!
ご覧下さい!」
舞台袖から部下が、野獣の入った檻を持ってくる……はずだった。
部下が競売人の下へやってきて、耳打ちした。
「怪物が消えた?!どういう事だ!!あいつが
いないと今夜の稼ぎが
競売人の男は部下に怪物を探すように指示した。
オークションの参加者も、何かに気づき
ざわめき始めている。
「もう少し!もう少しお待ちください!」
観客を宥める男。と、何処からか物音がした。
「きゃあああ!」
観客の一人が悲鳴を上げる。司会者はその
視線の先を見た。
巨大な怪物が咆哮をあげながら舞台に現れる。
光速で一足先に会場に到着していたクイックボルトは観客達を避難させた。
「慌てずに!落ち着いてください!」
続いて会場に現れた《保管庫》のメンバーも
避難誘導を始めている。
クイックボルトが叫ぶ。
「君たちも早く避難するんだ!」
「分かった!」
アシッド達の逃げ道を野獣が塞いだ。
「──この野郎!俺の商売を邪魔しやがって!」競売人がナイフを手に野獣に向かっていった。
野獣は競売人の首を掴み、大きな口で食らいついた。
「待って!」
クイックボルトが野獣に語りかける。
「君は本当は暴れたくないんじゃないのか?」
彼の言葉に、野獣の動きが止まった。
「そりゃそうだよな……いきなり自分の
故郷から引き離されて訳わかんないトコに
閉じ込められりゃ、誰だって混乱するよ。」
野獣は、ただ混乱していただけだった。
野獣は少しずつ、怒りを鎮めていく。
「オレノナマエ、ジェリ・シンヴィ。」
「よろしく、ジェリ!」
二人は握手を交わした。
「ウチ帰ル。」
「……ああ、お帰り。」
野獣──ジェリ・シンヴィを見送るクイックボルト。
「任務完了か?」
ダンテが聞いた。
「ああ、あとは君たちに任せていいかな?」
「もちろん!ここは俺たちの街だ。じゃあな……
おっと、そういえば本名を聞いてなかった。」
「そうか!色々あって忘れてたよ!俺の名前はビリー……ビリー・ヤマモト。」
「また会おうな、ビリー!」
「ああ。みんなもね!」
彼らは互いに再会を誓い合った──。
「ダンテに、コナー、リードにカイル。みんな
いいヤツらだったな。また、会いたいな。」
クイックボルト──ビリーは新しい仲間の事を思い出しながら、
チーフに任務完了の連絡をした。
「チーフ、こちらクイックボルト。任務完了。今から本部に戻りま──」
「クイックボルト!どうした?クイックボルト!応答しろ!」
クイックボルトは意識を失い、ノクターンアレイの道路で倒れていた。
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