裁判てげんなり

第7話 私達の罪状は?

私達はとても豪華な馬車に乗せられてから、かれこれ30分近く移動しています。



「罪人を連行しているんじゃなかったの?」


「なんで、こんなに静かなの?」


「逃亡を防ぐために手錠とかしてないの」



と、ちょっと不思議な気分になり、ウィリアムに聞いてみたけれど、


ウィリアムもレオナルド先生も分かるはずもなく、何も答えませんでした。



こうして1時間近く馬車の中でゆられていると言うのに


ウィリアムもレオナルド先生も、無言だったので私も何も話しませんでした。



工場が取られてしまったら、私達には借金しか残りません。


ウィリアムはそんな気分を払拭するように、狩りのときの笑い話を始めました。


その話が面白くて、私はクスクスと笑っていました。



ウィリアムは楽しそうな顔になって


「カオリは世界で一番かわいいなぁ」と言いました。するとレオナルド先生が


「カオリは世界で一番美しいんだよ、お前は分かっていないな」と言い出しました。


ふっ二人とも、何を言い出すのですか? 日本で生きてきた人生23年間でそんな事一度だって言われた事ないですが・・・


益々二人はヒートアップし始めて


「いやだから、可愛いから誰にも取られないうちに結婚したんだ」


「お前はずるいんだ、こんなに素晴らしい人をかっさらって行くなんて」


「そんな事は無いぞ、これだけ可愛いんだから、ホントは誰にも見せてやりたくない」


「誰にも見せなかったら、美の無駄遣いだ、ヴァヴィンチョの損失だ」


二人ともやめて欲しい、恥ずかしさで一杯です、もうこの馬車から降りたいです。


顔を真っ赤にして、この二人に会話を止めて欲しくて、抗議の視線を送っているのですが


全く気にもしてくれていません。


それどころか、私が真っ赤になっているのを楽しんでいるような気が・・・


「あ~、もう 二人ともからかわないでください」


「「本当に可愛いなぁ」」 二人とも美の基準がおかしい事だけは分かりました。



何を言いかえしても、二人からは、まともな返答が得られない事だけは分かったので


窓の外の景色を見る事にして、会話から離脱します。


「カオリ」旦那様が呼びます


「俺たちが捕まった理由分かったぞ」


「えっ」 どんな理由なんだろうかと、真面目に旦那様の顔を見る


「カオリが可愛すぎるから捕まったんだ」



おっ、おい・・・この状況でまだそんな事を言っているのか私の旦那様は・・・


 頭のネジを締めるだけじゃなくて、どっかのお話の中から聖女様を連れて来て、頭の中身を浄化して貰った方が良いような気がして来たよ。


どっと疲れが出てきたような気がしていたら



今度は、レオナルド先生までもが


「なっるほど、確かにそれは 罪が大きいな、こうなったらこの3人でずっと隔離されているしかないな」


もう、恥ずかしすぎてやめて欲しい ダレカタスケテ・・・



だんだんと建物が増えてきて、やがて街の中に入ってきました。


初めて見るこの世界の町は、石造りの建物が多く、中世のヨーロッパってこんな感じなのかなって言う雰囲気でした。


日本に暮らしている頃は、海外旅行どころか国内旅行もほとんどしなかったので、今更ながらあっちにもこっちにも行っておけば良かったなぁと思っているのでした。



たいそう賑やかな馬車で、御者さんはきっと苦笑していらっしゃったのではないかと思いましたが、どうやら無事に目的地に到着したようです。


着いたのは、大きなお屋敷でした。


そこでは、左右に整列した十数名の使用人の方々に暖かく出迎えてもらい、


ロマンスグレーの素敵な男性の案内で、素敵なお部屋に案内されました



そこは会議室かと思う広さの部屋でした。調度品の質が良すぎて、一体幾らなのか全く想像もつきません。


唖然としたまま3人で、立ち尽くしていますと


案内をしてくれていた年配の男性が頭を下げて言いました。


「先ずは強引にお連れいたしました事をお詫びいたします」



お屋敷に到着してから、ウィリアムもレオナルド先生も口を結んだままでした。


「どうぞおかけください」ソファーへ掛けるように案内される



「この屋敷は、あなた方の暮らしているの街の領主である、マルポンポン侯爵のタウンハウスになります」


「私はヨッシーといいまして、この屋敷と領地の管理をしております、あなた方の造られた工場の経理は私の息子が担わせて頂いております」



「ああ、フィリップさんのお父様でいらっしゃいましたか。という事はこちらのお屋敷の執事様でいらっしゃるのですね」さっきまで口を結んでいたウィリアムが返事をしてくれた。



「左様にございます。 皆様の開発された 水道や浄化槽と水洗トイレのおかげで、この屋敷も、ヴァヴィンチョ周辺の水も綺麗になりはじめています。」


「今年は既に疫病の発生が減少しているという報告も上がって来ているのです」



「ちょっとお待ちください、私達はヴァヴィンチョの町に水道や浄化槽を整備していますが、まだそれ以上には手を広げていません、どうしてこのお屋敷に浄化槽があって水が綺麗になったと言われるのでしょうか」



私たちが水道と浄化槽を開発したおかげで、水が綺麗になったとお礼を言われましたが、


既にこの家は浄化槽や水洗トイレが設置されているのだそう。


全く理解できません。




話を聞いて私が驚いていると、ジョージさんが顔を出しました。


集落で一緒に浄化槽を設置していたあのジョージさんです、


「素晴らしい浄化槽は街にこそ普及を図るべきです」と説明してくれましたが、


「確かに普及して欲しいけど、私たちに無断で、設置されるのは心外だよ、少なくとも説明して欲しかったなぁ」とジョージさんに言うと、


その場で大きく頭を下げて謝罪してくれた。


「謝罪されてもさぁ、開発費とか色々あるんだよ、私は夫のせいで毎日落とし穴地獄を味わってるんだぞ…」




って、ぶつぶつ言っていたら、メイドさんが、ケーキと紅茶を差し入れてくれた。


美味しい…


なんにも考えずに出されたケーキを口に入れてしまったら、美味しくて思考が止まった。



すごく美味しい、なんていうか、日本でも美味しいケーキあったけど


なんていったらいいのだろう、本場感が強いんですよ、ああこのケーキだけでも美味しいのに、この紅茶がとってもマッチしてるの、メイドさんも凄く美人さんで、なんか癒されるし~、もう幸せです。



私の口が止まったのを見たのか、すかさずヨッシー様からは、改めてお礼の言葉を頂いて、防火、防災の町づくりや防災訓練などについて、話を聞かれました。



そこで、先日皆に説明をした、防災に関した話を大まかに話しました。


旦那様やレオナルド先生は、良く聞いている話なので、補足などを説明してくれている。



あ・・・すっかり不機嫌だったのにケーキでごまかされていた事に気が付いた。


ケーキのおかげでしっかりと、話題を変えられてしまった。悔しい。



話が終わった頃、ドアがノックされた コンコンコンコン・・・コンコンコンコン


ノック多いわって思った


 で、思い出した ベートーベンの運命って曲、あれってジャジャジャジャーンって言う部分が運命の扉をノックしている音なんだったよね。


高位の貴族だと4回のノックなんだって言う話、という事でこのノックは高位の貴族の人=領主様って事ね。



ヨッシーさんが直ぐにドアを開けに行った。


そして一人のすらっとした男性が現れた。


うわっ、ライトノベル定番の超絶イケメン貴族様だわ。


思わずじっくりと見てしまうが、ウィリアムが怒りそうなので、けっして鼻の下を伸ばしたりはしませんわ



「ここの領主のオリバー・マルポンポンだ。街を綺麗にした功労者が、罪人のように連れられたと聞いて急いで、保護させてもらったよ。


ヨッシーと話をしている所に急に入って来て悪かったね。」



ヨッシーさんが男性の後ろにまわり、上着を受け取る。


「とは言っても、訴えられていることに変わりはないので、こちらの方で弁護人を用意するから、


裁判まではここでゆっくりと過ごして、ヨッシーや弁護人と打ち合わせてくれ」



それだけ言うと、領主様は部屋を出て行かれました。



私は、思い出したように言いました。


「浄化槽は、他に勝手に作って無いのでしょうか」



「はい、今の所は」ジョージさんが答えた。



「今の所って、他にも作ろうとしていたんでしょうか?」



「いえ、まだ具体的には」



「人手が足りていないのだから、製造して頂くのは結構ですが、勝手に商売をされては困ります」



「いえこれは無償でやったもので、領主様にいち早く見て戴く為に」と口ごもったが



「無償であろうが、何であろうが、開発した私たちに無断で設置しないでください」


話の流れ的に良くないと判断したのでしょう、ヨッシーさんが、頭を下げて言いました。



「私の勝手な判断で、設置を依頼してしまいました。申し訳ありませんでした」



あちゃ~、領主様の執事さんに謝らせちゃったわ、なんかこっちが悪いみたいで、気分よろしくないです。



「この件については、後ほどしかと保障させて頂きますので、ご容赦いただけますようお願いいたします」


なんか、不満だけどうちらの領主さんの所だからね。



「分かりました。」


まぁ弁護士さんも用意してくれるって言うし、なんだかんだ言って、私達の見方ではあるので、


波風は立てない様にお付き合いして行きましょう。

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