第4話 詐欺なの?それとも勘違い?
マチルダから「12以上の数は、沢山で済んじゃうんだよ」と聞いてからは、ここの世界の数字の数え方に対して気持ちが楽にはなっていたのだけれど、ある時事件がおこった。
いつもと違う業者が染物を買いに来ていたんだけど、
「金貨が少ない、いつもと違う値段だ」パティーが、苦情を言っている。
パティーは染物の技術がトップレベルに高くて、しっかり者だから、ここのみんなはパティーが間違う事は無いと思っている。
普段落ち着いて、みんなを指導している大人しめのパティーが、大声を出しているものだから
みんなも様子を見に集まって来た。
しかし業者は「お前たちの数え方が間違っている」と譲らない。
都会の業者が田舎者を見下している感じで正直気分良くない。
日本から来た私から見たら、どっちもどっちなんだけど。
そのうちに
「お前たちは詐欺師だ私たちを見下して買い叩いてる」
「お前こそ言いがかりだ」
とエスカレートして来てしまっていて
周りの人たちは黙ってはいるけれども、その眼はみんなパティーを応援しているし。
「こんな所まで来たのに、やってられるか」と吐き捨てるように
業者は、片付けて帰ろうとしていた。
こんな辺鄙な田舎までやって来て収穫無しと言うのは、業者も気の毒だ。
「あんた達になんて売らないわよ」とパティーは頑なに言う。
彼らは隣の国の通貨を持って来ているので、国境を越えてきたのだろう
本当は両替所を通じて両替するのが正しいのだけど、
なんせ辺鄙な集落なので、両替商なんて無いし
ここの染物が有名になったせいもあるけれど、ここの領地は隣の国との交易が盛んなので隣の国の貨幣も流通してしまっている、ここの通貨事情は本当にややこしい。
一応貨幣のレートがあるので、週末に隣町から届けられる換算表を見ながら交換をしているのが現状。
そんなものですら、この間まで必要無かったのだけど、
ここの集落は、殆どの物は、みんなで分け合って生きていたから、貨幣そのものが必要無かったのだ。
だけど、こうして外部と取引をするようになってしまったので、貨幣を使わざる得なくなってしまった。
もう少ししたら両替商も出来るらしいから、両替の問題は、それまでの辛抱っていう事らしい。
偶々歩いていた私が、二人が言い争っている場所に顔を出してしまったので、双方の話を聞いてみた、
そっか、ここの集落では大きなお金って縁が無かったから12以上の大きな数字を扱う数量だったり
大きな金額の数字になると、計算できないんだね。と思った。
思い返してみたらジョアンナたちと一緒に勉強した時にも、足し算と引き算は習ったけれど、掛け算割り算とかは習わなかった。
もしかしたら、マチルダやナタリー先生も知らないのかも知れない。
私は10進数に直してから検算をする。
10進数の計算を見た二人は、見た事のない文字(算用数字)に、はてなマークで一杯の顔になっていたけれど、業者の計算が間違っている事が判明した。
結局はパティーも若干間違ってたんだけど、とにかく業者が間違ってるのは確かだから、しっかりと理解して貰いたい。
そこで、彼らも分かるように、この世界の書き方で地面に計算しながら説明をしたら
業者も計算間違いを分かってくれた。
ちゃんと説明出来た自分偉いっ
そして、「こんな複雑な計算が出来るって、あんたは数学者か?うちの商会の経理を引き受けて欲しい」と言われてしまった。
交換レートの通りに掛け算しただけなんだけどねぇ。
それで数学者かって言われるって言うのは、ちょっと複雑な気持ちだった。
ただ、両替商が手数料とか色々発生すると、それはまたそれで、文句言う人が出てきそうだなって思った。
まだ起きていない問題に対して、悩むのはやめておこう。
業者に、お仕事の話をされたけれど、一応これでも新婚さんの私は、旦那様が寂しがるかもしれないし、この世界のルール自体も良く分からないからね。あんまり調子良く安請け合いしたら大変な事になりそうだなって思った。
それに、この行商さんお隣の国の商会なんだよね。
もしもウィリアムが私に愛されていないと感じて別れられてしまったら、この世界で稼ぐ方法を持たない私一人じゃ生きていけないのだ。
業者からのお給料がずっと貰えるなんて保証無いしね。
「私はウィリアムの妻なので、ウィリアムに許可を得なければ、ここを離れるようなお話には、お返事出来ません。」
と、説明をして業者には諦めてもらったのだけど、
「ここに来る時に事務員も連れて来るから指導をして欲しい」と言われたので、
つい、「私が出来る事であれば」と了解してしまった。
夜になって、ウィリアムに昼間にこんな事があったんだよって話をしたら、
「子供もいないんだし、引き受けても良かったんだよ」って言われた。
でもちょっとだけ、ウィリアムの表情が陰った気がした。
どうも、私が色々と活躍するようになってから、私の表情が生き生きして見えるので、
「楽しんで欲しい」という気持ちから、私の楽しみを奪いたくない思いが強いという事だった。
その事をぼそぼそと話すウィリアムは、緊張しているのだろうか、ちょっと顔が赤い気がした。
ウィリアムは私を引き留めないのかと思うとちょっと、気持ちが冷めたんだけど。
どうやら楽しんで欲しいって、言った手前、引っ込みがつかなかったみたい
だけど、ウィリアムは私が居なくなるのを恐れているようにも見えた。
それから一週間以上、家に居るときにウィリアムからのハグとキスが激しすぎて、
それだけでクタクタになりそうなのに夜もずっと抱きしめられた。
あまりに凄い甘えん坊っぷりに、どうして急にこんなになったのか聞いたら、私が町に行ってしまう事を想像したら、離れたくなくなっていたらしい。
普段、思っている事をちゃんと伝えるように言ってくるのは、ウィリアムの方だったのに、
ウィリアムが、一人でモヤモヤしていたのが、なんだか可愛かった。
「私は、ウィリアムの事を愛しているから、一人で勝手に決めて出て行ったりしないよ」と言い聞かせ、久しぶりにゆっくりと朝まで眠った。
翌朝かなり遅い時間まで眠ってしまって、目を覚ましたら、ウィリアムはまだ爆睡していた。
ウィリアムも相当疲れが溜まっていたみたいで、なんだかかわいく思えた。
トイレ用の浄化槽1号が出来てからも、改良と研究は続けられていて順調に2号3号と改良版が作られている。
ウィリアムは研究者体質だったようで、すっかり水道とか浄化槽とかの研究に目覚めてしまって、図面を作ったり模型を作ったり、浄化槽用のバクテリアを研究したり、毎日楽しそうだった。
が・・・問題は、実験用の小型の浄化槽がうちの前に幾つも埋められていて、建造中の穴がいつの間にか増えているのです
うちを訪ねてくる人が最近は増えているので、
下をしっかりと見てないと、浄化槽を踏み抜いてしまいそうで危ないのです
そこは何とかしないと、いつか踏み抜く人が出そうで気が気ではないのです。
浄化槽の中は、そう・・・集めてきた排泄物
日本みたいに蓋がきちっと密閉されてはいないから、わずかに臭いが漏れて臭いしタンクの上にコンクリートが被せていないから踏み抜いたら危険だし、まさか旦那様に家の周りに、こんなに穴を掘りまくられるとは思っていませんでした。
元々狩人だったのに、狩りもしないで実験しまくっていてどうするんだよ、まさか私が狩りをやれって事? 旦那さまって、言いたいけど凄く楽しそうな顔をしているので、今は我慢。
って思っていたけれど、浄化槽の成功でちゃんと収入になりそうなので、少しホッとしています。
浄化槽もトイレも、ウィリアムと医者のレオナルドさんと大工のオリバーさんが何度も改良を加えていて私は、建築とか科学の分野の事なんて何も分からないのにその度に意見を求められる。
「そーいえば、日本ではトイレ以外の生活排水も浄化槽に繋がってたよ」って
思い出したように話をしたら、トイレ以外の汚水も処理する合併浄化槽が出来た。
旦那様の実験で得られた知恵は相当に浄化槽の改良に役立っているらしい。
お願い、早く実験浄化槽が無い安全な家に引っ越させてって気分です。
大工さん達は、浄化槽の作り方も、こなれてきた事もあって、ますます制作に磨きが掛かっています。
一軒また一軒と家に浄化槽&トイレが設置されていってます。
日が暮れて、仕事が終わると3人でうちに来て、私の用意した食事を食べて
先日こっそりと作られた風呂に入ってから帰って行く
最近の生活パターンはこんな感じ、水道もどきの井戸が出来たおかげで
朝の水くみから解放されたのが嬉しいし、お風呂のお湯も毎日新しい水を入れられるので
後は3人が帰ってくる前にお湯を沸かしておけば良いし。
私も毎日綺麗なお湯で体を洗えて幸せ。
毎日お風呂に入る事で、毎日大量の排水を生み出して、浄化槽の実験に役に立っているという、
ええ、これも実験の為なんです。
トイレが設置された家の人達からは、沢山お礼を言われてるし、良い事なんだけど、
我が家の玄関付近は穴だらけで、本当に歩きづらいので、これだけは本当に何とかして貰わないと、私が家から出られなくなる気がする。
この集落のトイレは、元々何か所か掘ってある大きな穴だったので、
どの家にもトイレが無かったので
家にトイレを設置すると言っても、日本と違って家の外にトイレを新築することになるので
浄化槽の設置は楽だっていう事らしいです。
まだ電気工事も無いしね。
これも私がウィリアムに提案したものですが、大工さんと医者のレオナルドさんの協力のおかげで、井戸水を風車を使って高い所へ汲み上げたり、上手い事落差を使って蛇口から水が出て来るようになった。
ちゃんとろ過したりしてる所まで頑張って実現させてくれた、みんなに感謝なのです。
調理も洗濯も以前は、みんなで川辺に集まって水を使うか、
井戸のある近くにみんな集まって調理してたんだけど、水道が引かれた家から、その便利さを聞かされて、我も我もと水道を引く事になったんだって、ウィリアムと先生がニコニコ顔で今日からどこの家に浄化槽と水道を作るんだって、話してくれるから、私はあまり家から出てないけれど、水道の情報には詳しい。
水道が当たり前になって、電気も使えるようになって行くと、夢の便利な生活に近づくなって、一人でニヤニヤする毎日なのです。
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