優しい煮込み料理店の繁盛記の世界で

第2話 オリーさんと出会えた?!

あまりに美味しいのでしっかりコロッケを完食すると、料理を運んできた人が一歩近づいたので

ふと顔を見上げると、背の高い可愛らしい女の人で、にこやかに微笑んでいます。

手には木でできたコップを持っています。


「あっ、あの・・・もしかして・・・ オリーさんですか?」


「アニャホニャハニャー」

相変わらず何を言っているのか分かりませんが、

頭の中で「この人がオリーさんだ」ってそう思ったら嬉し涙が出てきちゃった。


私は「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」と言ったけれど

目の前の女性には通じていないようだった。

けどね、そんな事どうでも良かったくらいにホント美味しかった、ホッとする味でした。


私の好きな小説の中の主人公オリーさんも、とてもほっとする美味しい料理を作る人だから

私はあこがれの主人公と出会えたって言う気持ちで、心が温かくなるのを感じていました。


屋外にテーブルを置かれての食事だったけれど、テーブルはちょうど樹の陰になっていて、気温もそんなに高くなくて、時々吹いてくるそよ風が気持ち良くて、時々聞こえてくる鶯の声が爽やかなBGMで、何もかもが最高の食事でした。


お腹が落ち着いたら、気分もかなり落ち着いた。

でも裸足だし・・・いくら整地されてある集落の中だとは言っても、小石とか色々と落ちているので歩きたくはない。


オリーさんの持って来てくれた水は、美味しかったけれど、コップの底の方に砂みたいなのが沈んでた。ここの水はあまり衛生的ではないのかも知れない。


しばらくしたら、サンダルっぽい物を持って来てくれたので、履いてみる。

サンダルじゃなくて、これ・・・下駄だぁ

温泉旅館とかで、外出用に用意されてる奴と同じだよ、ほっとするなぁ、

温泉旅館の物よりしっかりしていて、しかも軽くて歩きやすいです。

おかげで、自分の足で歩き回れるようになりました。


嬉しくて、沢山お礼を言いましたが、多分言葉としては全然通じてないよね。

でも嬉しい表情は通じたと思う。

人に気持ちを伝えるために、こんなに表情に気を付けたのって、あっちの世界にいた時には多分一度もなかった。きっと今夜は表情筋のマッサージをしないと今夜か明日、顔が攣ってるぞ自分


という訳で、本当に今まで如何に、顔の筋肉だけじゃなくて、人とのコミュニケーションにずぼらだったかをこんなところに来て知ったんだというのが、今日の一番の驚きかも知れない。


食べるものも食べたし、お手洗いに行きたいと思ったので

オリーさんに股の間を指さして、「トイレに行きたい」と小声で聞いてみました。


ちゃんと意味が通じてくれたようで、案内されたところは、小川に板を2枚渡した場所でした。

周りに囲いも無くて恥ずかしいというのが第一印象。


見ている人はオリーさんしか居ないので、意を決して、そこで用を済ませました。

ウォシュレットとか、トイレットペーパーとか無いので、頑張って手を伸ばして川の水で洗って


最後に手をごしごししっかりと洗いました。

「石鹸が欲しい~」って思いました。

何故かハンカチが、お尻のポケットに入っていてよかった。




結構ビックリな、お手洗い事情でしたが、日本だって昔は水洗トイレなんてなかったんだもんなって

そんな事を考えながら、オリーさんを見つめていたら

そのままついて来るように手招きされて、

15分位ついて行ったら、平屋の物置のような建物に案内されました。


横でずっと、なにかしゃべってくれているんだけど、全く理解不能で聞いているけど聞こえてないという、でもしっかり脳は疲労してました。


なんとか少しでも理解できる言葉だと有り難いんだけどね。今はまだ全部がチンプンカンプンです。


日本に生まれて、日本に住んでいた時には清潔な空間は当たり前って感覚だったけれど、この世界に来て、ああやっぱり日本は特別だったんだなって事を思って感謝しまくりです。


ビニールのゴミとかは無いけどね。

分解しないからプラスチックごみって本当に厄介だけど、ここは捨てられて腐りかけているものがあちこちにある。


ずっとここに住むんだったら、掃除用具を借りて、掃き掃除でもするかなぁ、って思った。

田舎の集落だし、そんなにたくさんゴミが落ちている訳じゃないんだけど、やっぱり日本の方が全然綺麗だと思った。





それにしてもさ、こんなに不便なのに、なんで異世界に召喚されてるんだよ私

なんていうかさ、異世界に転生するお話って、みんな言葉にも不自由しないし

魔法が使えるようになっていたりさ、お話によってはスマホが使えちゃったりするじゃないのさ


でも、私はコロッケ以外手ぶらでさ、言葉も通じないしさ

ホント人生ハードモードじゃんって感じですね。


でも救いはこのオリーさんが、めちゃくちゃ親切な事です

寂しく過ごしていたら、オリーさんに添い寝して貰えたりするかなぁ・・・

なんて事を考えていたんだけど、そこで気が付いた、そうか、


オリーさんの話って別に”転生もの”でも”召喚もの”でも無い、ただの”異世界物”だったわ

そりゃ私がオリーさんの言葉を覚えないと、いつまでもオリーさんと会話できないね


遠目にはかなり小さく見えた平屋の建物に入ったら、意外と広くて10畳くらいはあった。

どうもここが私の部屋として提供されたみたい。


電気は無いけど、代わりにオイルのランプがあって、湿気ったようなマッチがなかなかついてくれないので、私がランプに火をつけようと悪戦苦闘していたらオリーさんが火をつけてくれて、

何か言って、出て行ってしまいました。


勝手にオリーさんだと思っているけれど、ずっとついて世話をしてくれている、本当に親切な人。


ランプの光でとても薄暗い部屋でしたけれど、海外旅行でレストランに来たみたいで、

とっても豪華な気分になるのでした。


2時間位、一人で家の周りをぐるぐると散歩してみたけれど、やっぱりゴミが落ちているのがきになったので、掃除用具はなかったけれど、熊手っぽい形の木の枝が落ちてたから、

ゴミとか葉っぱをかき集めておいた。

少しすっきりしたかな


そうしたら、隣の建物からオリーさんがトレーに乗った夕食を持って来てくれました。


夕食は、ドライフルーツとか、クルミが入った、かなり硬いパンと、カボチャっぽいスープでした。

やっぱり水は美味しかったけれど、コップの底に砂が沈んでました。


夕食が終わって、歯を磨きたかったけれど、さっきの小川までは多分10分位歩きそうだったので、

コップの水で口をゆすぎながら、指で歯をこすって歯磨きを済ませました。


オリーさんはそばにあった布で歯を拭いてから、私にも渡してくれました。

う~ん、私は、迷ったけれど、使っていない方を使って歯を拭きました。


えっ、意外と良いかも知れない、歯ブラシより綺麗になった気がする。

ちょっと驚きでした、でも歯と歯の隙間は布切れじゃ拭けないから、やっぱり歯ブラシの方が良いかも知れないって思い直しました。


藁の上にシーツを掛けたベッドに案内されて

そこに寝転ぶと

分厚い毛布を掛けてくれました。

重たい・・・

でも、そんな事を思ったのは、ほんの一時で気が付いたら日が昇っていました。


ノックも無しにオリーさんは家に入って来て

「ピスッ」って言いながら、私を揺り起こそうとしましたが


私が目を開けて振り向いて

「おはようございます」

って言ったら、すっごく驚いた顔をしてました。

ビックリ顔が可愛いなぁ


昨日は、お風呂に入って無いからか、藁のベッドがチクチクしたのか、なんとなく身体が痒い感じがしました。


昨日に引き続いてオリーさんは、朝ごはんを一緒に食べてくれました。

朝ごはんは、なにか穀物を潰した物に、臭いの強いミルクを掛けた物でした。


オリーさんは、普通に食べていましたが、私はミルクの癖が強かったのと穀物がべちゃべちゃになっている感覚が、イマイチでなかなか進みませんでした。


その後、ちょっと催してしまったので、お腹を押さえて、股の間を指して

「トイレに行きたいんです」と言ったら


手招きをされて、家の外に出て3分位歩いた所に、樹の影になった所を案内されました。

いかにもトイレですって言う、臭いがしていて


おおきな深い穴の上に木の板を渡してあるトイレでした。

用を済ませて、横に積んである葉っぱで拭いて

辺りを見渡しましたけれど、


手・・・手・・・

手を洗う場所がないです。。。


家に戻る途中、水場があったので、何度も水を汲んでは手に掛けて洗いました。

怒られました。


人の家の物を勝手に使ったからかなと思ったのですが、のちに言葉が分かるようになったら

違いました、朝、井戸や川の水をみんなで汲んできているので貴重なんです。

だから水は小さな器に溜めた物に手を突っ込んで洗う事が基本だっていう事でした。


その後、私はまた別の建物に連れて行かれました

そこで服を全部脱がされました。


何を言っているのかまだまだ理解不能だから、何をされるのか分からなかったこともあって、下着まで脱がされそうになった時は、とても抵抗したのだけれども、結局全部脱がされて、恥ずかしがっていたら、お風呂を見せられた、そして凄く納得した、そりゃ、お風呂には服を着て入れないよね。


お風呂はちゃんと壁で囲われていて、外から見えないようになっていました。

湯船は、鉄でできたお釜のようで、底にすのこを固定してある感じ

鉄の部分に触れないように、木が内側に貼ってある

一人用の湯船だけど、本当に気持ちいい。


ただ、シャワーも水栓も無いから、横にためてある水を浴びるか

湯船からお湯を汲みだして掛けるかしかない、お湯が勿体ないので、出来るだけ少量のお湯で体を洗いました。

次にいつお風呂に入れるかもわからないしね。


ここの世界に来てから緊張しまくっていた事もあって、

初めてのお風呂はとても気持ち良くてリラックスできたんだけど、30分は湯に浸かっていたのに

途中からお湯が冷めて来る事も無くて、ずっと適温だったの、私がお湯に浸かっている間ずっと火を焚いてくれてたなんて随分後になって知った時は本当に恐縮しきりでした。


そしてお風呂から上がった今、もうね、なんていうか、のぼせちゃって、ふらっふらなのです。


この集落にシャンプーリンスは無くて、石鹸だけなのでそこは、物足りなかったけど

手もしっかりと洗えたし、顔もすっぴんになってしまって、なんだかスースーしている気分だった。


もっとも、周りの女性もみんなすっぴんだから、郷に入れば郷に従えだって事ですよね。

お風呂から出たら、脱衣所では10人位の女性が私の下着を手に取って試しに付けてみたり


伸縮する素材が珍しいのか、みんなが引っ張って伸ばしてその様子を確かめていた。

恥ずかしすぎて、やめてと言ったのに誰も気に留めてくれないです。


こればかりは、風習の違いだから仕方ないんだろうけど、本当に泣きたかった。


そして体の大きな女性が、私にみんなと同じ服を着せてくれた。

ここの集落の服装は、大きな布に袖をつけてを体に巻き付ける感じで浴衣の変形みたいな感じ

そして麻を編んだベルト、下着無しで、落ち着かない

私の着ていたTシャツとジャージは下着共々どこかへ持って行かれてしまいました。


でもごわごわしたりしなくて、結構快適な服です。

昨日は染めた服を着ていたマチルダですが、今日は私と同じ生成りの服でした。


男も帯の代わりにベルトの浴衣風で、襟が女と逆なのは、洋服と同じねと思った。

猟師は、皮の服を着ている人もいたりしてるから、着る物も多少バリエーションがありそう。


最初は何を言われているのか全く分からなかったけれど、数日経つ頃には多少の会話が出来るようになってきた。

片言でも通じれば良いじゃないって事で、全く何もわからなかったストレスからは解放されたけれど、

思っている事は、通じない事だらけ、もどかしいけど思いつめる暇はないです。


朝は目覚めたら、みんなで井戸からの水くみとか、洗濯、飯炊き、食事の下ごしらえだけでも午前中終わっちゃう位、ホントやる事いっぱいあります。

合間を見てみんなそれぞれ自分の事をやっているみたいだけど、オリーさん達が花で布を染めている所を見て、これって、糸で縛ったら絞り染めにならないかなって、こっそりとやってみたら

微妙に失敗作だったけど、一緒に居た人たちは喜んでくれた。

喜んだ顔を見て少しだけ、役に立ったんだって思えた。


そうそう、オリーさんだと思っていた人は、全然違う名前で、マチルダさんと言いました。

ここの集落は本当に食べ物が美味しい。

きっと素材が良いんだと思う。


自分は未だ、何もこの集落に貢献していないから、何かやらないと行けないかなと思い始めていたのですが、マチルダさんに聞いてみたら、首を横に振られた。

まずは言葉をちゃんと覚える方が先って事なのかな?


コロッケを棄てた様に見えた事も違っていて、山の神様に献上したって事らしい。

細かい風習とかは良く分からないけどね。

山の神様がいるっていう事は、日本みたいに、海の神様とか色んな神様がいるのかも知れない。

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