開かれた世界

坂上啓甫

開かれた世界

ある者が息を引き取る寸前に思った、

正直に言えば決して褒められた生き方では無かったが生き馬の目を抜くような世界では仕方がなかったのだ、少なくとも家族には良い暮らしをさせた、親にも良い家を建てた、完成した時の両親の喜ぶ顔を思い出し少し誇らしさも感じる、天国とまではいかないにしろ地獄へ落ちることもないだろう


 やがて起き上がると見覚えのある風景が広がっていた、高層ビル。せわしく行きかう車、急ぎ足の人々、

 背広もサイズがきっちり合っていて仕立ても良いようだ、ピカピカに磨かれたビルのガラスで自分の姿を確認する、肌には張りがあり体は生命力にみなぎっている。

 やった、ここはもしかして天国なのかもしれない

その時後ろから声を掛けられた

「おい、新入り」

見ると手に錫杖を偉丈夫、ただならぬ姿に思わず

「あなたが神か」と聞いてみた

「神か、だと」涼やかな目を少し不快気にして

「お前は生前神の事を一度でも考えたことがあるのか?、そのお前が神を問うとはな、わたしは神でも仏でもない、いかなる時間、いかなる空間にも存在しあまねく慈悲を垂れたもうわが師に使えるものだ、お前は今天国か地獄かそれを気にしてるのだろうが、そういった決まった場所はどこにもない、ここはお前が理想としてきた場所だ、お前が望んで生きてきた世界そのものだ、ここにはお前と考えを同じくした者たちが集まっている、生前と同じくお前も励むが良い」

そういうとスイと消えてしまった、あるいは自分が一瞬眠ってしまい夢でも見ていたのかもしれない

 どうやらここは天国でも地獄でもないらしい

先ほどの言葉によるとここは私が理想としてきた世界らしい

私と同じような理想を抱いてきたものたちの世界であるらしい

 そうして暗澹たる気持ちで高層ビルの方へ向かって行った


注・・・この文章ではいかなる人物、宗教、宗教的なものを具体的に示してはいません、たとえてもいません

注2・・・小説家になろう様にも投稿しています。

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開かれた世界 坂上啓甫 @semimaru_waraya

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