第33話
雨が降り始めて20日目。女神の言った一ヶ月後まで10日を切る頃、ヴァルターとコルネリアはサルシア国とちょうど中間地点に位置するゲーラ国に来ていた。
非公式の訪問となるため、ひっそりと王宮の門を通されると中でラウラと夫であるゲーラ国王が出迎える。
「コルネリア!」
「ラウラ姉さん」
夢の中ではなく実際に会うのは数年ぶりとなる。コルネリアにラウラが飛びつくと、ゲーラ国王が苦笑をする。
「こら、ラウラ。落ち着きなさい。ネバンテ国王にはお恥ずかしいところをお見せし、申し訳ありませんね」
「いや。妻も喜んでいるようだ」
ゲーラ国王はヴァルターと握手をすると、部屋の中に案内する。
「サルシア国王は中にすでにいますので、話し合いを始めましょう」
「ああ。コルネリア、少し行ってくる」
振り返ったヴァルターに返事をすると、ラウラがコルネリアの手を引いて王宮の温室へと案内する。こじんまりとした王宮ではあるが、色とりどりの花が咲いておりラウラの明るい雰囲気に合っていた。
「カタリーナ姉さんには、もう中で待ってもらっているよ」
温室のドアを開けると、中には優雅に紅茶を飲んでいるカタリーナがいた。そばに控えていた侍女がラウラを見て、礼をすると部屋から出ていく。
「コルネリア。久しぶりね」
「お元気そうで何よりですわ」
先ほど部屋を出て行った侍女が、コルネリアの分のティーセットを持って現れる。コルネリアが席に座ると、目の前に温かな紅茶と一口サイズのケーキを置いた。
「みなさんの国の王は、法国の奪還についてどうお考えですの?」
「私の国の王は、とても喜んでいたわ。戦いにならないなら遠征の費用しかかからないからね。それで災害がなくなるなら、得しかないと言っていたわね」
カタリーナがそう話すと、ラウラもうなずいている。
「戦争になるなら話は変わってくるけど、女神様の条件なら私の夫もやると言っていたよ。コルネリアのところも?」
「ええ。なくなる災害というのがどこまで当てはまるのか、というのは気にはされていましたが。ネバンテ国としては得るものが多いみたいですわ」
ティーカップを手に取り、こくんと紅茶を飲む。国としては問題はない話ではあったが、三人の聖女の表情は暗い。
「王様は無事かしらね」
カタリーナが心配そうな表情で言う。コルネリアは同じ質問をレオンハルトにしており、その時に言われた内容を思い出した。
「レオンハルト様が言うには、王様に対してパトリック様は固執しているところがあるみたいですわ。認めてほしい気持ちが強いから、おそらく殺すことはないだろうとおっしゃっていましたわ」
1番近くでパトリックと王様を見てきたレオンハルトが言うのだから、信憑性は高いんだろう。コルネリアの言葉にカタリーナは、少しだけ安堵したように微笑んだ。
「法国と帝国の被害はすごいみたいだね」
ラウラが言った言葉に、コルネリアとカタリーナが重くうなずく。帝国と一時停戦中のネバンテ国には帝国の情報が多く入るため、帝国民たちの状況も耳に入っていた。
「女神様はどこまでやられるおつもりかしら」
「そうですね。おそらく、第三王子が法国の王位に戻るまでは続くと思いますわ」
女神は初代国王を除けば、愛する人と同じ色の国王、そして第三王子、水色衣の聖女たちを第一に考えて愛している。その他の国民のことも愛の対象ではあるが、死んでしまっても命は繰り返すだけだと思っている節があった。
(――可愛らしい方ですが、私たち人とは違いますわね。パトリック様が、人知を超えた存在にあらがったのが間違いだったのですわ)
ふう、とコルネリアがため息を落とす。パトリックもマリアンネもプライドが高く、考えなしなところがあるとは分かっていたが、ここまで愚かだとは思っていなかった。
「法国奪還が成功した後、ユーリエ様が聖女たちを連れて帰るまでは私たち3人でできる限り治しましょう」
カタリーナの言葉にラウラとコルネリアが頷く。
王たちの会議は1日かけて行われ、その間に彼女たちは奪還後の国民の治療について語り合った。
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