バス亭の人魚
坂上啓甫
バス亭の人魚
利用しているバス停でたびたび会う女性がいた
毎朝同じ時間に乗るのだからそういう人は幾人もいるのだが、
彼女は特別にそのバス停の雰囲気に馴染んでいる
帰りも同じバスを使うのだがなぜか一度も会ったことがない、
しかし朝出会えば季節ごとにその日ごとにそこにいるべき様に彼女はいた。
僕らは挨拶を交わすようになり、そしてバスから降りて地下鉄までのほんの数分、10分にも満たない時間話をした、憂鬱な人の流れの中で二人の間には光が差していると僕には感じられた。
ある朝小雨が降りだし傘を忘れてしまった僕は軽く走りバス亭に向かい着くとすぐ目の前に彼女がいた
彼女は「降られてしまいましたね」と言った
僕は笑顔で
「ええ、ぬれてしまいました」と雨で色の変わったそでの部分をひらひら見せた
彼女はバッグの中から折り畳みの傘を出して
「よろしかったら」と傘を僕の手の方に差し出し僕は彼女の親切をすんなり受け入れた、それは真新しい黒の折り畳み傘であった。
ところがその日を境に彼女を見ることがなくなってしまった、バスの時間が変わったのかと少し早めに家を出たり、時間ギリギリまで遅い便に乗ったりしてみたが再び彼女と会うことはなかった。
彼女が貸してくれた傘はいつでもかばんに入っている、急な雨でも決して使うことはない。
バス亭の人魚 坂上啓甫 @semimaru_waraya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。バス亭の人魚の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます