第15話 「虹くんと2人きりの思い出が欲しかったなって」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
俺のモデルの話を受けて、4人は黙ってなにかを考えているようなそぶりを見せている。その間、俺と朱莉も4人の様子を見守るように黙っている。
(そもそも、話しかけられるような状態じゃないし・・・)
ここで話しかけると、さっきまでのようにとてもドスの効いた声で「は?」と言われるのは目に見えている。だから迂闊には話しかけられない。
「・・・・コウはその話を受けたの?」
最初に口を開いたのは白亜で、俺に質問をしてくる。心なしか、さっきまでとは違って、声に含まれていた怒気がなくなっているような気がする。
「一応受けました・・・・」
俺の返事に「そっか」とだけ返事をして、また何かを考え始めた。
「・・・・なんという名前のお店ですか?」
次に口を開いたのは翠で、こちらもまたいつもの柔らかい口調に戻っている。
「3駅先のショッピングモールにある『Colorful』というお店です」
翠もまた、「そうですか」と返事をして、何かを考え始める。
「・・・・いつモデルをするのよ?」
まだ若干怒気を含んだような声でそう聞いてくるのは紫夕だ。さっきまでの怒気とは違い、柔らかくなったような気もするが、いつも同じような口調のせいで正直よくわからない。
「まだわかりません。店長さんが連絡をくれるようです」
俺の返事に「そう」とだけ返してまた何かを考え始める。
というかさっきからみんな同じような反応しか示さないんだけど?
「・・・・朱莉はどうしたの?」
最後に口を開いたのは蒼だ。俺だけじゃなくて、朱莉のことまで気にするのはなんとなく蒼らしい。
「私も一緒に参加するよー」
質問を受けた朱莉がいつもの感じで返事をした瞬間————
「「「「は?」」」」
とまた4人の顔がすごく歪みだす。
「あぁ、いや違うんだ!俺がモデルを引き受ける代わりに、朱莉も一緒にやるっていう条件になっていて・・・・」
「「「「抜け駆け?」」」」
慌てて俺が庇おうとするも、失敗。むしろ火に油を注ぐ結果になってしまったような気がする。
「と、とりあえずみんな落ち着いてくれ。そして話を聞いてほしいんだ」
「はぁ、わかったわよ。モデルの件についてもう少し詳しく聞かせてくれるかしら?」
俺のとっさにでた言い訳に蒼はしっかりと反応してくれた。ほかの3人も蒼の意見には賛成したようで、少し静かになる。どうやらやっと、ちゃんと話ができるみたいだ。
「えっと、実は―――――」
「————ということなんです」
「なるほどね」
「ふーん」
「そういうことですか」
「へー」
俺がことのあらましを話し終えると、4人は四者四様の反応を見せる。俺が話しているときはみんな無言だったし、今も無言で何か考えている。
「虹の話は概ね理解したわ。ただその上で1つだけ言わせてちょうだい」
「私も言いたいことがあるわ」
「私もです」
「私も」
蒼の言葉にほかの3人も反応を見せる。特に断る理由もないし「なんでしょう」と問い返す。
「おそらく私たち4人とも言いたいことは同じだと思うから、一斉に言わせてもらうわね」
なんだろう。4人が言いたいことが一致するなんてほとんどないことだ。そんなに重要な話なのだろうか?
「「「「朱莉だけずるい」」」」
「・・・・・・は?」
重要どころか、しょうもなかった。
「は?ってなによ」
俺の反応に真っ先に反応したのは紫夕だ。
「いや、なんでもない。それよりもずるいってどういうことだ?」
(やべぇ。つい言っちまった・・・・)
内心で焦りつつも、何とか冷静に返事をする。
「なんで朱莉だけアンタと一緒にモデルをやるのよ?」
幸い、紫夕は、俺の失言についてはあまり深く追及をしてくることはなかった。ただ、同時に別の問題も発生してしまった。
「なんでって言われても、その場に俺と朱莉しかいなかったからだけど・・・」
「ふーん。そうやってコウは朱莉を特別扱いするんだ」
俺の答えに今度は白亜が不機嫌そうに返事をする。というか特別扱いなんてしたつもりはないんだが。
「べt————」
「別に虹くんは特別扱いなんてしていないよ。ただ事実を述べただけだもん」
俺が否定をしようと口を開きかけた瞬間に、しばらく黙っていた朱莉が先に否定をする。
「朱莉はコウと一緒にモデルができるからそうやって言えるんだよ。私たちからしたらそれは特別扱い以外の何物でもないの」
朱莉の言葉を受けてなお、白亜は堂々とした態度でそう言い放つ。ほかの3人も同調するように頷いている。
「・・・・じゃあ、4人は何が望みなんだ?」
これまでの話からあらかた予想はできるが、一応確認のために聞いておく。
「それはもちろん虹と一緒にモデルをすることね」
俺の問いに蒼が代表して答える。まぁ、そうだよな。大体予想はできてたけど。
「でも、それにはお店側の許可がいるぞ?それはどうするんだ?」
俺がそう聞き返すと、4人はニヤッと余裕の笑みを浮かべる。
「忘れたんですか?私たち5人はそろって『5大美少女』なんですよ?朱莉がモデルをすることができるんですから、同じくらいの美貌を持つ私たちでもモデルはできるはずです。そこを盾に店に自らを売り込みに行きます」
翠の言葉は、かなりの正論だ。モデルの枠に制限がなければ、翠たちの言い分でも十分モデルの話しは通る可能性がある。
「4人の言い分はわかった。俺からは特に止めることもしない。ただお店には迷惑をかけないでくれよ?」
「「「「もちろん」」」」」
俺の注意にそろって頷く4人。まぁ、この5人はたまに暴走しがちなだけで、基本的に外面はいいわけだし、お店に迷惑をかけるようなことはしないだろう。
「それじゃあ、さっそく明日行きますか。明日虹ちゃんを独占する権利を持っていた蒼に関しては、別日に移動という感じでいいですよね?」
「問題ないわ」
4人はすでに売り込みの話し合いを始めている。その様子をボーっと見ていると、横からツンツンとつつかれる。
「ねぇ、虹くん。なんで売り込みの話、許しちゃったの?」
つつかれた方を見てみれば、朱莉がそんな風に聞いてくる。
「まぁ、特に断る理由もなかったし。こうした方が楽かなっておもったんだけど。嫌だったか?」
元はと言えば、朱莉が、今日俺を独占し、あのブティックに連れて行ってくれたから今回のモデルの話が起きたわけで。朱莉目線からすると、俺が独断でアピールのチャンスを潰したわけだから、朱莉に不満があってもおかしくはない。そう思って聞き返したのだけど
「嫌ではないんだけど。ただ、虹くんとの2人きりの思い出が欲しかったなって」
(ぐはっ!)
心の中で俺は吐血してしまう。美少女の上目遣いは反則だって何回言ったらわかるんだよぉ。しかも瞳が少し潤んでるんだよ。こんなのキュンとしてしまうだろぉ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
朱莉の仕草に悶絶していた俺は、いつの間にかこっちを見ていた4人にさっきまでと同じような顔でにらまれていることに気が付くことはなかった。
――――――――――――――――――———
明日からテストが始まるので、午前中で学校が終わります。なので時間に余裕ができるため、もしかしたら明日から毎日投稿を再開できるかもしれません。
この作品を追いかけてくださっている皆様、お待たせしました!!
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