第2章 交わり始めるそれぞれの思惑

2-1章 朱莉の猛攻!!

第8話 「大胆になるのなんて当たり前じゃん」

「ヤバい、全然眠れなかった……………」

自分の顔に濃くついたクマを、鏡でみながら、俺はそう呟く。

昨日の夜は散々だった。母さんに「5人が俺に好意を寄せている」だとか、「女の本気は怖い」だとか色々言われた。それについて深く考えて、悶々としてしまったため、眠りについた時間は早朝3時。そこから5時半に起きているため、約2時間半しか眠れていない。絶賛、寝不足だ。


「とりあえず、朝ごはんを食べよう」

朝ごはんを食べれば、寝不足で働いていない頭も動くはずだ。ただ今の状態で料理すると、最悪の場合火事を起こしてしまう。だから簡単なものにしたい。

「トーストで良いか………」

幸い、母親のものであろう食パンがあったため、それを頂くことにする。後でなにか言われるかもしれないが、その時はその時だ。


トースターに食パンをセットして、焼き上がるまでの間にバターや牛乳、ヨーグルトなどをテーブルの上に用意する。それから学校の制服に着替えて身だしなみのチェック。

そんなことをしていれば、あっという間にトースターからチンっという小気味よい音が聞こえてくる。

焼きあがった食パンをトースターから取り出し、テーブルに持っていく。それからバターを塗れば立派な朝食になる。


「いただきます」

手を合わせ、食前の挨拶をする。

バターを塗ったトーストを勢いよくかじれば、サクッという音と共にバターの風味が口いっぱいに広がる。控えめに言って最高だ。


「────ご馳走様でした」

デザートとしたヨーグルトまで食べ終わった俺は、食器の片付けを始める。これくらいの量ならこの時間に片付けまで済ませてしまった方が、帰ってきてからが楽になる。

朝ごはんのおかげか、頭も先程よりはだいぶ動いてきたような気がする。


「フーっ……」

学校の準備と、朝ごはんの片付けを終えた俺は、ソファに座って精神統一を行っていた。これからあの5人が俺の家へやってきて一緒に学校へ行く。それまでの間に気持ちを落ち着けておかないと取り乱してしまう。それを防ぐための精神統一だ。


────ピーンポーン

(来た………!)

いつもの時間にインターホンが鳴る。それと同時に玄関の方からガチャとドアの開く音がして俺のいるリビングへ足音が近づいてくる。ここまではいつものことだし驚きはしない。後は俺の対応だ。なるべくいつも通りにしないと…………


「おはよー!虹くーん!」

「あぁ、おはよう朱莉…………あれ?1人か?」

後ろから挨拶をしてきた朱莉に返事をしながら振り返ると、そこには朱莉しか立っていなかった。

「ふふーん。ビックリしたでしょー?」

「あ、あぁ。なんで朱莉しかいないんだ?」

朱莉はドヤ顔で胸を張っているが、俺には理解できない。今までずっと5人一緒だったのになんで急に1人になったのだろうか。


「実はねー、昨日5人で話し合って決めたんだー。これからは1日1人が虹くんを独占するって」

「え?」

なんで急にそんな話になったのだろうか。そこが俺には分からないし、そもそも5人が別れる事自体が珍しい。今まで俺のそばを片時も離れようとしなかったのに。


「虹くん。昨日、彩さんから聞いたんでしょ?私たちが虹くんに好意を寄せてるって」

「え!?なんでそれを………」

確かに聞いたが、それをなんで朱莉が知っているんだ?

「彩さんが私たちのお母さんにその事を教えてくれたんだよ。それで、それぞれのお母さんがそのことを私たちに教えてくれたの」

「あ、あぁ。なるほど…………」

どうやら母さんが昨日のうちに手を回していたらしい。母さんが昨日のことを5人の親に話し、その事をそれぞれの親が自分の娘に話したということだ。


「でもそれだけだと、俺と一緒に過ごすのが1日1人になった理由が分からないんだけど?」

「んー、それについては学校に行きながら話すよ。そろそろ遅刻しそうだし!」

「げっ!マジだ」

時計を見るとそろそろ家を出ないと、家から学校まで全力ダッシュで行かないといけなくなってしまう。それは嫌だ。

だから俺たちは、学校に向かいながら話の続きをすることにした。


「それでね、さっきの質問の答えだけど」

家を出てすぐ、朱莉がさっきの話の続きをする。

「私たちは5人全員、虹くんと付き合いたいと思ってるし、結婚もしたいと思っているの」

「お、おう………」

正面切って言われると、さすがに恥ずかしい。言う方も聞く方も同じはずだが、朱莉にそんな様子はみられない。堂々としている。

「虹くんもそれを知ったことだし、これからは遠慮する必要がなくなったの。だから私たちは、これからどんどん虹くんにアピールをしていくつもり。それは5人全員同時より、1人1人の方が虹くんも気楽でしょ?」

「確かに……………」

5人全員からアピールをされるというのは心身ともに持ちそうにない。母さんが昨日「女の本気は怖い」と言っていたし。

「私達もそれを分かってるから、こうやって1日1人が虹くんを独占することにしたの。順番はあみだくじで決まった順でローテーションって感じでね」

どうやら俺は、5人に気を遣われたらしい。それは男としてどうなのかとも思うが、今の俺は5人全員の好意を一斉に受け取れるほどの器は持っていない。だから5人のこの気遣いはありがたい。


「それじゃ、事情も話したことだし、ここからはいっぱいアピールしちゃうぞ!ただでさえ時間をロスしてるんだから」

「ああ、それは良いんだが。アピールって具体的にどうするつもりだ?」

「そんなの、こうするんだよぉ!」

「うわっ!?」

俺の問いに、朱莉が元気よく答えたかと思うと、次の瞬間には俺の右腕に抱きついてきた。その瞬間、女の子特有の甘い匂いが、俺の鼻腔をくすぐる。加えて、右腕に柔らかい感触を感じる。……ん?柔らかい?……これって…………なんか別の女の子特有のものも当たってない!?


「ちょ、朱莉。さすがにこれはマズイって!人の目もあるし何よりも、なんか柔らかいものも当たってるから!」

俺が困り果ててそう言うと朱莉は

「あー、虹くんってば照れてるー。

そんな虹くんにはいい事を教えてあげるよ」

そう言って、俺の耳元に口を近づけてきて、小声でボソッと

「────当ててるんだよ?」

「っ!!!?」

と言ってきた。

それを聞いた自分の顔が赤くなっていくのを感じる。


「虹くん、顔が真っ赤だよ?そんなに照れてるの?可愛いなぁ」

朱莉は嬉しそうに笑いながら、そう煽ってくる。………いや、照れるだろ。こちとら健全な男子高校生だぞ?それに加えて朱莉はとんでもない美少女なんだ。照れない方がおかしい。


「あ、朱莉。なんで急にこんな大胆になった?」

前まではこんなことはしなかった。いくらアピールのためとはいえ、普段の朱莉からは想像できない。

「やだなぁ、虹くん。大胆になるのなんて当たり前じゃん」

そう言って、後ろ手で手を組み前から俺の顔を覗き込んでくる。いわゆる上目遣いだ。(………美少女の上目遣いの破壊力ヤバくね?後、この体勢はマズイ。色々と見えてしまいそう………)

そんなバカなことを考えている俺を、さらに下から覗き込みながら朱莉は言う。

「虹くん。女の子はね、好きな人に振り向いてもらうためなら、すっごく大胆になるし、ちょっぴりエッチにもなるんだよ?」

────私も含めてね?

そう言いながら、朱莉はニコッとする。

(あぁ。これからこんなことを5人全員してくるのか…………。耐えられる気がしねぇや)

これから来るであろう未来に、早くも絶望する俺なのであった。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━初めてR15っぽいこと書いたかも…………

今まで友達とかに遠慮して書いてこなかったんだけど……………

この小説、ちょっとだけ好評だし、記念ってことにでもしとこうかな…………


読まれること考えたら死ぬほど恥ずかしいんだけど。

世の中のラブコメ作家さんでこういうこと書いてる人、恥ずかしいとかあるのかな……?


あ、後7‐6話と番外編の順番を入れ替えてます。ご確認ください

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