14

 おれだけでなく、晴もなかなか眠ることができないらしかった。九時前にはもう風呂に入って歯みがきもトイレも終えてしまったのに、いざ「寝ようか」と言うと晴は「ねむくない」と抵抗する。

 居間で炬燵に足を突っ込み、今日できなかった勉強をみてやっている間に、おれの方が眠くなってきてしまった。車移動に加えて色んなことがあったから疲れているのだろう。昼間おかしな寝落ちをしてしまったのも、疲労のせいだろうと思った。

「晴、もう寝ない?」

「もうちょっとー」

 膝の上に乗られている間に、暖かさでますます眠くなってきてしまった。そのうちすっと意識が落ちて、がくんと首が落ちる勢いで目が覚めたときにはもう夜の十一時を回っていた。晴はおれの膝に乗ったまま、炬燵の天板に突っ伏して寝ている。

(やば……いつの間に寝てたんだ)

 晴を抱っこして立ち上がり、電気を消しながらおれの部屋に向かった。ひとまず先に敷いておいたおれの布団に寝かせ、客用の布団を出して戻ってくると、晴はもう掛布団にくるまって完全に寝床を乗っ取っていた。

 仕方がないので、おれが客用の布団で寝ることになる。まぁどっちでも同じか――晴を起こさないように、静かに布団を敷いて寝転がった。

 そのとき、妙な違和感があった。背中がちょっと浮くというか、不安定な感じがする。

 おれは起き上がると、そーっと布団を畳んだ。さっき敷いたばかりだが気になって仕方がない。たぶん、何かをうっかり布団の下に敷いてしまったんだろうと思った。とはいえ元々ものの少ない部屋で、畳の上に何かが落ちているということもなかったから、それもおかしい気はした。

 案の定、布団の下には何もなかった。が、よくよく見てみると、真下の畳が少し浮いている。

(前からこんな風になってたっけ? ないよなぁ)

 一度気になり始めると駄目だ。晴の布団をそーっと隅の方に避け、マイナスドライバーを持ってきた。畳べりと畳の間にドライバーを入れ、少しだけ上げてみる。畳の下に、何か白いものが見えた。

(紙だ)

 左手を畳の隙間に入れ、右手で白いものをそっと引っ張りだした。畳を元の位置に戻したとき、晴が「うー」と唸って寝返りを打った。起こしてしまうと面倒だ。

 部屋の明かりを消して常夜灯だけにし、出てきた紙は別の部屋で確認することにした。

 廊下に出て襖をそっと閉め、居間に向かうことにした。途中で取り出したものをちらりと見た。

 紙だ。何枚かの便箋を四つ折りにしたもので、真っ白な表に何か書かれている。


「文坂聖 様

 危険なものです。必ず一人で読むように。 文坂昭」


 見覚えのある字だった。間違いなく昭叔父が書いたものだ。

 おれは足早に居間に駆け込んだ。扉を閉めると、立ったままもう一度紙に目を落とした。そこに改めて昭叔父の名前を確認すると、胃がギュッと痛んだ。

 昭叔父は本家の鍵を持っていたから、おれたちがいない間に手紙を隠すことはできただろう。でも、どうしてあんなところに隠したのかがわからない。布団を敷いたら見つけるだろうと思ったのだろうか? ずいぶん面倒なところに置いたものだ――そんなことを考えている傍から、手紙がどんどん汗で湿っていく気がする。早く開かなければと思っているのに、どうしても手が動かなかった。

 きっとこの手紙には、おれが知らなければならないことが書かれているはずだ。でも、なかなか読むことができない。怖いのだ。どんな恨み言が書いてあるだろうと考えると、怖くて仕方がなかった。

 でもこう書いてある以上、晴にはよほど見られたくない内容なのだろう。今読むしかない。

 覚悟を決めて炬燵の横に座った。こんなに緊張したのは初めてかもしれない。何が書かれていても受け取める覚悟を今、すぐにしなければ。

 目を閉じ、深呼吸をして、もう一度目を開く。目の前に手紙がある。一気に開くと、昭叔父の几帳面な文字が並んでいた。

『皆から少しずつ情報が集まってきた。聖君に託します。晴君に見られないように。危険です。俄かには信じられないでしょうが昨日とうとう実花子のところに』

 そのとき、突然部屋の明かりが消えた。

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