誰かと一緒に寝るのが、好きでした。

Nekome

誰かと一緒に寝るのが好きでした。

私は、誰かと一緒に寝るのが好きでした。一緒でないと、怖くて寝れませんでした。

 毎日、母と一緒に寝ていました。


そんな私には小学2年生になると同時に一人部屋が与えられました。

その時の私の気持ちは、嬉しかったような気もするし、悲しいと思ったような気もします。

……まあ、急に一人部屋が与えられ、急に一人で寝れるようになるわけがありません。


「まま、こっちきて」


私はこんな文言で母を呼び寄せ、私が寝付くまでそばに居てもらいました。

そんなことを一年ほど続けたある日。いつも通りに私は


「こっちきて」


と母に言いました。いつものようにそばに居てくれるかと思ったのですが、母は私の顔にちゅっとキスをするだけで、そのまま部屋から出て行ってしまいました。

私は、寂しいと思いました。私に与えられた八畳もある部屋は、子供の私にとっては広すぎました。


放心する中、リビングからテレビの音と父と母の話声が、ぽつぽつと聞こえてきます。

疎外感。私は、自分自身が邪魔者のようになった気分になりました。

そんなわけはないのですけれど、当時の私は、そう思いました。


今思えば、『一緒に寝てほしい』と素直に言えばよかったと思うのですが、私は父と母がいるリビングのドアを開けることでさえ怒られるのではないかと恐れ、怖がるという神経質な子供でしたので、言い出すことなんてできませんでした。


それから、母に『こっちきて』ということは無くなりました。怖かったんです。母にとって私に付き添うことは、迷惑なんじゃないかって。

愛情表現であるはずのキスが、当時の私にはうるさい、邪魔だというような牽制の意を持つ刃物のように思えたのです。


ひと月のうち二回ほど、寂しさのあまり少しだけ泣きました。もちろん、声は出さず。

リビングから父と母の喧嘩する声が聞こえた日には、頭が痛くなり、掛け布団を強く握りしめました。



母が、好きでした。

優しい母が、大好きでした。骨ばっている細身な体に縋って寝ることは、大変気持ちの良い物でした。

私の気持ちを理解してくれ、察してくれる。そんな人でした。

いるだけで安心できる。そんな存在でした。

でも、父と母の喧嘩する声が聞こえることが多くなった時、母は、夜家を出ることが多くなりました。

それにより、おやすみという挨拶すら、しなくなりました。


さみしいさみしい。涙は出なくなりました。なれたのです、一人で寝ることに。

誕生日が訪れるたびに、寂しいとも思わなくなりました。なれたのです、一人で寝ることに。


私は、誰かと一緒に寝ることが、酷く恐ろしいものように思えてしかたがありません。

だって、いつまでも一緒にいれる保証なんてない。であれば、最初から一人でいた方がましじゃあないですか。

寂しさを抱くのはもう、いやなのです。


……だれに言っているのでしょう、私はだれに言いたいのでしょうか。

こんなの私以外が見ても、頭にはてなが浮かぶだけだというのに、面倒くさい奴だ。

ああ、イライラする。

みっともない。

 

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誰かと一緒に寝るのが、好きでした。 Nekome @Nekome202113

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