第33話 夜伽

「わー! 凄いです!」


 セドナは初めて見る露天風呂に感動しているようだ。アイオンが貯めたお湯に魔法で白濁色の温泉にしてくれる。


 俺は濁り湯じゃなくてもいいんだけどね。今日は透明に濁らせてみないか? 


「うぃぃぃぃいいいい、っあ〜〜〜〜」


 元々全裸の俺は、スムーズかつ情けないおっさん声を上げながら温泉に入った。後ろでアイオンの衣装がハタと落ちる音が聞こえる。


「失礼します」


 左側から入浴して、肩を並べる。


「セドナも、足だけでもいれてごらん」


 振り向き伝えると、服を脱ぐ最中だった。俺は急いで首を前に戻す。危ねえ、入るつもりに既になっていたのか。見たことに気付かれてたら気が変わっていたかもしれない。露天風呂の魅力をなめていた。アイオンも入ってることだし、抵抗はそこまでないかもしれん。


「私も、失礼します」


「勿論大歓迎だ」


 俺の右側に足先が伸びてくる。水位が上昇し、アイオンの胸がぷかぷかと泳ぐ。艶っぽいため息と共に、セドナも完全にお湯につかった。


 左右に美女!おっぱいが4つ!俺を含めると6つ!いや俺は含まない方がいいな。


 しかしここがひとつなぎの大秘宝で間違いなさそうだ。

 ゴール・D・○ジャーが公開処刑を笑顔で迎えられたわけだ。


「セドナお姉様、あちらをご覧ください」


 アイオンは夜空に咲く星々を指差す。今日は一段と空気が澄んでいて、星がよく見えた。 


「綺麗。空を眺めるなんて、いつぶりかしら」


「星もセドナの回復を祝ってくれてるんだな」


「守さん、たまには良いこといいますね」


「たまにはってなんだよ、いつも言ってるだろ!」


「いつもなら、おっぱいがどうとかお尻がどうとかですね」


 俺は言い返せずに、お湯に顔半分まで沈み、ぶくぶくと息をはいた。 


「あ! 私もやります」


「私も!」


 3人でぶくぶくと泡を作る。

 なんだこの時間。癒されすぎだろ。

 星空なんて見てる暇もない程に、二人の表情を楽しんだ。お湯に入ると、なんだか落ち着いて性欲もおさまる気がした。

 3人は顔を見合わせて笑い合った。


「今日アイオンが俺のちんちん掴んだ時はどうしようかと思ったよ」


「え、アイオンそんな大胆な」


「ご、誤解です! 言い伝えにあったんです。[勇者の輝く聖剣が、女神の苦しみを解き放つ甘美なる飴となるだろう]ってお父様から聞いてたでしょ?」


「それと勇者様の、その、あそこを掴むのとなんの関係が?」


「セドナお姉様が心を失っていた時に、守さんの股間が白く輝いたんです。これはきっと伝承に伝わる聖剣の輝きだと思い、セドナお姉様の口に近づけました」


「え?」


 セドナが凍りつく。


「お姉様覚えてないんですか? 自分から勇者さまの聖剣となったあそこを咥えて、白い光に包まれ___」


「アイオン!」


 俺はアイオンに水をパシャっとかけてとめた。

 セドナは茹で蛸のように真っ赤に顔を染めていた。


「私、勇者様にそんなはしたないことを」


 オロオロと腕にしがみついてくる。柔らかい何かに腕が挟まれる。あえて言おう、おっぱいであると。

 まてまてセドナ、今全裸なの忘れてないか? 


「まあ落ち着け。なんか変な感じでな、自分の体なんだけど、自分の体じゃないみたいな、なんとも不思議な感じで」


「そ、そうですよ! これは恥ずかしいことではなく、人命救助ですから!」 


 アイオンは立ち上がり言った。


「あ」


 俺とセドナは声を揃えた。

 アイオンの何も身につけていない裸を直視するのは、これが初めてだった。いや、夢で見たか。

 どちらにせよ、童貞の俺には刺激が強すぎて後ろに倒れこむ。

 すると、後頭部になんとも柔らかい感触が。セドナが体で受け止めてくれていたようだ。 


 断言する。俺は今片方のゴールデンボールを潰されても、顔のにやつきを抑えることはできないだろう。


「す、すみません」


 アイオンは素早くお湯に戻った。が、セドナにもたれかかる俺を見てムクれだした。


「ちょっと、いつまでくっついてるんです?」


 アイオンはお湯の中で四つん這いになり、俺をまたぐように顔を近づけて怒り始めた。一生怒られたい。俺の相棒も同感だと呼応した。


 ○

 風呂から出て、アイオンに魔法で乾かしてもらい、ベッドに向かう。

 アイオンと俺が同じ寝室だというと、セドナは驚いた。

 私はお邪魔なので……と、アイオンが使っていた寝室に向かう。 

 私もお姉様と一緒に、と言い出すかと思ったが、むしろアイオンが3人で寝ようと引き止めた。俺は首がもげるんじゃないかと思うほど縦に振りまくった。

 セドナはそれを見て、少し体を緊張させたが、何かを決意した表情を見せ、寝室についてきた。


 俺はベッドに寝転び、アイオンもかけ布団に入った。


「ロテンブロあとのお布団は最高です」


「そうだな」


 俺たちは顔を見合わせて子供みたいに笑いあった。

 気付くとベッドの端でセドナが正座をしている。


「夜伽の経験がなく、不慣れなところがあると存じますが、心を込めてご奉仕させて頂きます」


 深々と頭を下げ、服を脱ぎはじめる。


「お、お姉様何してるの?」


「何って、勇者様と3人で寝るってそういうことじゃ___」


 俺とアイオンの表情をみて全てを察したセドナは、ズルズルと布団の中に潜って顔を出さなくなった。 

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