第34話 眠りにつき方の癖強
しばらくしてもセドナが出てこないので心配になり布団をめくってみると、スヤスヤと眠っていた。
アイオンが浮遊の魔法で枕の位置まで運ぶ。
「お姉様ったら、私が聖女なの忘れてたのかしら?」
アイオンがクスクスとこちらを向いて話してくる。なんやかんやいって、この時間が一番幸せを感じているかもしれない。
「俺が勇者契約してないからじゃないか? というか、勇者契約しないなら、エッチなことしてもいいのでは?!」
「静かに! お姉様が起きちゃいます!」
囁き声で怒られる。俺の耳に唇が触れた。エッチ確認。
「す、すまん」
しかしセドナの安眠は妨害したくない。気が利かない自分に少し喝だ。
あんな環境で過ごしてたんだ。今日がどれだけ安心できて極楽だと感じているのか想像もつかない。
セドナの方を見ると、変わらずにスヤスヤと眠っていた。
「聖魔法は、勇者召喚だけでなくタイムリープに関わる魔法でもあるんです。だからまだダメです」
「そうか、仮に思いがけず戦死しちゃっても、またセーブポイントからやり直すためか」
「そういうことです」
大した覚悟だ。素直にアイオンを尊敬した。18歳前後に見えるこの少女の肩には、一体どれほどの重圧がかかっているのだろう。
「じゃあ、がっつりエッチなことは俺が魔王を倒したらだな」
「そういうことです」
「え、そういうことなの?」
言い間違えたな!
いじってやろう、と思いアイオンを見るが、顔を真っ赤に染めて天井を見つめていた。
そういうことなの?!
そういうつもりなの?!
いつから?いつからなの?!
聴きたくなる気持ちをなんとか抑える。童貞の俺にも、それだけは聞いちゃいけないとわかった。
「お姉さんは夜伽しようとしてたけど、あれはいいのか?」
「どういう意味ですか?」
あれ、ジト目だ。もしや会話の流れ的にお姉さんとならしてもいいか?って感じになってる?
「深い意味はなくて、単純な疑問だよ。だってセドナも女神なんだろ?」
「聖なる力と女神の力が直結してるのは、タイムリープと勇者召喚ができる私だけです」
「なるほどな。そうだ、タイムリープってどういう感じなんだ? もう一つ別の世界を作るとか?」
「私だけ記憶を維持した状態で、時間が逆向します。なので世界は恐らく一つのままです」
「なら安心だな」
「私がタイムリープをおこしたら、この世界が消えると思いましたか?」
「いや、もしまたタイムリープしたら、別の勇者が召喚されるってことだろ? そしたら俺はアイオンとは、もう会えないんだなと思って」
アイオンが抱きついてきた。おいおい、エッチなことはいけないんじゃないか? 隣でお姉さんが寝てるのに?
「10回のタイムリープで毎回違う勇者が召喚され、アポカリプスの策略ですべて私とは契約できなかった、って言いましたよね。あれ、嘘です」
「ええ? そうなの?」
「召喚陣を作成してからセーブポイントを作成したんです。なので、もし今回の戦いで勝てなくとも、私の勇者様は守さんだけですよ」
「なんで嘘ついたんだよ、結構気にしてたんだぞ」
「すみません。でも初めましてで、あなたは10回召喚されて、10回とも騙されてましたって言えなくないですか」
「たしかに。すまん、アイオンの美貌には勝てなかったようだ」
でも、アイオンに化けてたアポカリプスも、10回のタイムリープを繰り返しって言ってたよな。なんでわかっていたのだろうか。
「そうですね、私のこと守さん大好きですもんね」
うん。いっぱいちゅき。言葉にするのはなんだか恥ずかしくて言えなかった。
「まあ、大丈夫だよ心配すんな。今回で俺が終わらせる。もし万が一タイムリープすることになっても、戻った世界で成功するまで何度でも戦うよ」
アイオンは顔を俺の胸にうずめて顔を隠した。
「守さんは、ズルいです」
「何がだよ」
「何にもわかってないところが」
「そりゃ悪かったな」
「はい、悪いです」
悪態をつきながらも、俺の腕に完全にしがみつくアイオン。
「ずっとこうしていたいです」
「そうだな、魔王倒したらだな。その時は毎日おっぱい揉んでもいいか?」
返事がない。無視か。と思ったが、俺の耳元で、スヤスヤと寝息を立てていた。
俺も寝るかあ……って寝れるかよ!!!!
気づけばセドナも俺に抱きついている!
アイオンはもう俺を抱き枕だと思ってるくらいしがみついてる!
俺の股間も満点の星空に届く程に天をついている!
なんとか興奮をおさめなければ、このままだと睡眠が取れずにいつか死ぬ。
落ち着け、落ち着いてなんかくだらないことを考えるんだ。
そうだ自分で出したウンコを食べて、またそれでウンコを作って出して食べて、ウンコが1個、ウンコが2個、ウンコが……
○
「いやああああああああ!!」
セドナの絶叫で、ウンコのことを考えていたらいつのまにか寝ていた俺は飛び起きた。
「どうした?」
周りを見渡したが、何もない。アイオンも起きて、すでに精神安定の魔法をかけている。
「はあ……はあ……ああ!」
セドナが抱きつき泣きだした。そうか、ベルフェゴールにされたことを夢に見たのか。もしくは目覚めた時にまた地下にいると思い込んでパニックになったか。
勇者の鼓動で一体どう精神回復しているのかわからないが、記憶を消失するものではないため、心の傷がどこまで残っているかはわからない。
「大丈夫だ。あいつは俺が殺した。もう居ない。目覚めれば必ず俺とアイオンがそばにいるから」
俺は背中をさすりながら、大丈夫だ、と繰り返した。アイオンがかけ続けてる魔法の効果もあってか、少したつと落ち着いた。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「気にすんな。いつでも頼っていいし、起こしてくれて構わない」
女神たちは泣いてばかりだ。俺は股間を立ててばかりだというのに。
「ですが、やはり私は勇者様とアイオンと一緒に眠ることは許されません」
セドナはシーツをつかみ、震えていた。
「誰が許さないんだ、そいつも俺がぶっ飛ばしてやるから連れてこい」
「私自身がです。私は……私はベルフェゴールに弄ばれました。汚れた人間なんです」
ポタポタと涙がシーツに沈む。アイオンは何も言えずにいた。聖女であるということは処女であるということ。セドナが受けた苦しみは想像することすらできない。
これは、言葉でどんだけ俺が言ってもダメそうだな。
「セドナ、アイオン、ちょっと外に出よう」
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