第24話 魔族のオモチャ
○
「は? 御冗談を」
ベルフェゴールは伝言に来たアポカリプスの言葉に耳を疑った。
ベルゼブブ城が突如破壊され、ベルゼブブも死亡した。
こんなこと、信じられるわけがない。
侵攻はほぼ完了し、残るは神域に住まう人類とそれを守る数名の騎士。といっても戦闘に特化した者たちはほぼ四天王の我々が駆逐済み。
2柱の女神は我々の城に幽閉されており、残るは女神アイオンと、召喚された勇者___まさか。
アポカリプスが勇者召喚の妨害に失敗してから、まだ1ヶ月もたっていない。アイオンが命を賭して勇者に力を授けていれば、共有能力で死を知った2柱の女神はなんらかの反応を示すはず。
つまり、まだ召喚された者は異世界のただの人間であり、勇者の固有スキルを得ていない。
神域に防具や武器を置いていたとしても、それらはすべて我々が殺した人類軍が身に着けていたものだ。
やはり、ありえない。
となると、アポカリプスが魔界での政治力を強めるために手を下した可能性が最も濃厚だ。
一体何のために、どうやって? なぜ私に相談もなく? 魔王様への申し開きは?
しかし、ベルフェゴールの予想は一瞬にして砕かれる。
「残念だけど、本当よ。魔王サタン様のもとに還られたもの」
「な、なんだと!」
魔王サタン様の名を出した。その名を口にした話が偽りであるほど、アポカリプスは馬鹿ではない。忠誠心からしても、それだけはありえない。すべての憶測が無意味である証明には十分すぎる言葉だった。
しばらくの沈黙の後、口火を開く。
「……みな、すまんが席を外してくれないか」
「畏まりました」
部下たちの声は震えていた。ベルフェゴールの私室付近で待機していたものも含め、すべての部下たちは扉の前で丁寧に一礼し室外に出た。
「サイレント」
それを確認したアポカリプスは即座に室内に静寂の魔法をかける。これでここの空間の会話が外に漏れることはない。
「ふふふふ」
「はははは」
ベルフェゴールとアポカリプスは互いを見つめ合う。
徐々に二人の距離は近づき、ベルフェゴールはアポカリプスの両手を取った。そして___
「「どおしよおおおおおおおおお!!!!!」」
間抜けな絶叫である。二人は抱き合い、膝は震え、目には涙が溜まっていた。
「ベルゼブブは我ら四天王にして」
「最強!」
「もう一人の四天王は人類軍との戦闘で」
「殉職!」
「「あははははははははは」」
一通り震え終わった後、二人は膝をつきうなだれた。
「遊んでいる場合ではありません。おそらくやったのはアイオン率いる勇者で間違いないでしょう」
蚊の鳴くような声で、なんとかひねり出す。
後少しでもか弱くなれば、ベルふぇえええゴールだ。
「ベルフェ~ごめんね、私がしくじったばかりに」
「過ぎたことは仕方ありません。神域での活動限界の短さは熟知しております」
「うう~ありがと~」
二人はお互いを認め合った同期であり、友人であり、それ以上だった。こんな姿、部下たちに見せるわけにはいかない。
「ねえねえ、ベルゼブブが城ごと破壊されたってことは、私たちもいきなりそうなるかもしれないってことよね?」
「その可能性は否定できませんが、アイオンの姉妹を人質に幽閉しています。我々の城を予告なしに破壊はしないでしょう。アポちゃんのところの女神の様子は?」
「なるほど、さすがベルフェ! ちょっと不安が解消されたよ。大丈夫、快楽漬けにして思考を奪ってる。ベルフェの女神は?」
「よろしい。あのオモチャはもう壊れてしました。再生の女神セドナのスキル、どの程度か楽しみだったんですがね」
「殺したの?」
「まさか。魔王様の許可なくそのようなことは。ただ何をしても動かなくなっただけです。そのまま人質として利用させていただきます」
「おー怖。ベルフェが味方でよかった」
「私こそアポちゃんが味方でよかった。対策を練りましょう」
「うん! 持つべきものは友達だね!」
「アポちゃんは一度城に戻って一応女神の様子を見てきてください。確認でき次第連絡を」
「わかった!」
これが交わす最後の言葉になることを、二人はまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます