第12話 デュエリスト

 俺は思わずアイオンの手を掴み、ぐるぐると回り子供のように喜んだ。

 体重の軽いアイオンは俺を中心に浮き、回転する。


「魔法だ魔法だー!」


 アイオンの胸が風に遊ばれて踊る。ああ、南から北へと遠路はるばるやってきたそよ風達も、今日この日を喜んでいるに違いない。知らんけど。


「おめでとうございます! 戦いの唄は、戦闘能力を底上げしてくれます。小石召喚はそのままですね、いちいち小石を探さずともよくなりました」


「俺にうってつけだな。早速試してみよう。【小石召喚】」


 発声とほぼ同時に小さな魔方陣が浮かび上がり、ちょっとした疲労感と共に手のひらほどの大きさがある小石が現れた。

 思っていたより大分大きい。充分すぎる。

 それを遠くにいたレッサーゴブリンめがけて投げる。

 初めの頃はなかなか当たらず苦労したが、投石技能という能力が上がるにつれて、それは100発100中の矢となった。

 見事にクリティカルヒットしゴブリンは消えていく。既に1体倒した程度ではレベルアップしなくなっていた。


「これ、めちゃくちゃ強いのでは」


「そうですね、もっと強いモンスターとも戦えるはずです」


「よ、よし。その前に試したいことがある。ちょっと待っててくれ」


 俺はそう言い残し、レッサーゴブリンに近づく。

 3日ぶりの接近だ。あの時の痛みを思い出す。

 俺は竦みそうになる体をなんとか奮い立たせ、レッサーゴブリンに声をかけた。


「おい! この凡骨野郎!」


「キキィ!」


 レッサーゴブリンは振り向き、木の棍棒で俺を殴打した。俺は反射的に歯を食いしばったが……


 いたくなぁ~い。


 おっひょー!

 痛いっちゃ痛いが、覚悟していた痛みと比べたら、まったく大したことない!

 向上したHPと防御力、そして戦闘の覚悟から、俺は明らかに戦士として成長していることを実感した。


「【戦いの唄】」


 レベルアップの時とは少し違う、気分が高揚するような音楽が脳で再生される。全身がほのかに光を纏った。体が軽く、柔軟になった感覚を持った。バランス感覚にも補正がかかっているのが如実にわかった。心なしか、出ていた腹と全身の筋肉が引き締まった気がする。


「キキィ!」


 またレッサーゴブリンが棍棒を振りかざす。しかしそれは、まるでスローモーションだった。

 見える、私にも見えるぞ!

 楽々その棍棒を回避し、一歩大きく踏み出す。その一歩でゴブリンの背後をとり、そのまま重心を乗せ、回転し、軸足の反対の足で蹴り上げた。

 水の呼吸___1の型!


「おらぁ!」


 振り上がる足とともに、俺のむき出しの相棒が風に踊る。南から遠路はるばるやってきたそよ風さん、すまんやで。

 その蹴りはゴブリンに直撃し、一瞬で消えていった。

 アイオンの方を見る。

 慈愛に満ちた表情と共に、拍手を送ってくれていた。

 俺は今世紀最大のどや顔で親指を立てた。

 今夜は寝かせないぜ。


 ん?

 なにやらアイオンが血相を変えて後ろを指さしている。

 なんだろう。まあ、どんなレッサーゴブリンが来ても、今の俺の敵ではない。

 余裕をもって振り返る。


 しかし、俺の考えは甘々の甘だった。

 筋骨隆々、200cmはある巨大なゴブリンが俺の後ろで仁王立ちをしていた。



心の杏子 次回予告


テレレレテッテッテレー!


やめて!


バカでかい炎タイプのゴブリンの棍棒で相沢守の相棒を焼き払われたら、性欲と勢いで生きてる相沢守の精神まで燃え尽きちゃう!


お願い、死なないで相沢守!


あんたが今ここで倒れたら、女神アイオンと創造神との約束はどうなっちゃうの?


ライフはまだ残ってる! ここを耐えれば、ゴブリンに勝てるんだから!


次回、相沢守 死す!

デュエルスタンバイ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る