第7話 エバー・グリーン
私は
「スケベィ〜!」「スケベイクよって言え!」
小さな子供は残酷だ。言わねえだろって事を平気で言う。私の名前は子供の嗜虐心をおおいに刺激した。小学校1年生で既に私の人生はどん底の暗闇にいるような気分だったが学校には毎日行かされた。母親はなにかあるとすぐに私を叩いた。ゴミが落ちてるから、部屋が汚いから、手伝わないから、理由はなんでも良かった。彼女は偉ぶりたいだけなのだ。私を叩いて気持ちよくなりたい、クラスの子供達と一緒の存在だった。
7月になり新しく転校生が来た。その転校生は変わっていた。自己紹介の時は「コンゴトモヨロシク・・・」それしか言わず自分の名前も話さない。おかしな奴って私は思った。
夏休み前のちょっと浮ついた空気が流れるある日の事だった。クラスのリーダー的ポジションに居る女子が取り巻きを連れて転校生の机の前で喚いている。私はそいつに虐められてるから無視しようとして寝たふりをした。
「アハハッ!!あんた
くっだんね~。と思いながらもおにみ?別に普通じゃん。私なんて一文字変えればスケベエイクヨだなんて自虐マウントをとった。だけど本人からすると名前をイジられるのはムカつくものとわかってるから顔をあげて鬼魅さんの方を見てみる事にした。
瞬間、リーダー格の女子が鼻から血を出して崩れた。鬼魅が殴ったのだ、鼻っ面を。喧嘩に慣れてる奴は鼻を先に殴る。痛みで体が萎縮するからだ、後で知った知識だが。
取り巻き達が鬼魅に襲いかかるも一瞬で畳まれる。強いなんてもんじゃない。鬼だ。
拳から返り血を流す鬼魅は何故かとても、綺麗だった。
鬼魅は2週間の停学になった。夏休み前だったので彼女は他の人よりも長い夏休みになるななんて他人事の様に思った。
夏休みに入って私は近所の公園に遊びに行った。大きい公園では学校の女子が居るので街から少し離れた小さな公園だ。
そんな公園に辿り着くと鬼魅が砂場で遊んでた。
「なに作ってるの?」
「・・ジャッ◯フロスト・・・」
話しかけてみると驚くことに返事が返ってきた。教室では他の女子に何を言われてもうんともすんとも返事をしなかったのに。
「ペル◯ナだっけ?すごいね、水で固めてるんだ。」
「・・可愛いから・・・」
「アハハ、変なの」
それから私達はなんとなくいつも一緒に居るようになった。まるで二人で行動するのが当たり前の様に。何かの歯車がカチリとハマったかの様に。いつも一緒だった。助角コンビ爆誕だ。
中学に入って
高校に進学するくらいの時期になると体が異常に大きくなった。私も鬼魅も。進路はこの体格を活かした職業に就くために訓練校に3人で入った。
厳しい訓練だったが息抜きの宝津荷歌劇団を見ることによってなんとか頑張れた。鬼魅はずっとゲームしてた。ゲームすると強くなれるらしい。三戸は夜な夜な訓練校を抜け出して峠を走ってるとの事だった。
私達は無事に卒業してヤルヨックと言う大手の警備会社に入社する事が出来た。
今日は初の任務。初めての護衛対象は最悪の一言だった。
私を見るだけで顔が引き攣り脂汗を流す男性。会話はおろか視線すら合わせない。
いつの間にか私達は男性の警護につくことが出来なくなり雑踏警備の人員に回される様になった。
そんな日々が数年続いた。
転機が起こったのはこんな話が上司から打ち明けられた時だ。
曰く、容姿外見的特徴は厭わないから強い女性を用意して欲しい。
最高の戦力を用意してくれるなら男性の住む屋敷の敷地内に有る離で住み込みも可。
お手つきはNG。そんな内容だった。
チームリーダーの私は二つ返事で了解した。
その男は天使だった。
こんなデカい私にも挨拶をしてくれお礼まで言ってくれる。空想上のウィンクをしてくれた時は熱い視線を向けてしまった。お手つきしたら首だ。無職は嫌だ。太ももを触られた時は護衛専用紙パンツを履いていてどれほど良かったと思ったことか。人生初の男性との食事。粗相してしまったが朽木聖夜殿は笑って許してくれたのだ。そう、私に向けて笑顔で話すのだ。震えた。
そんな楽しい時間も終わり新しい住居の離に入ると鬼魅と三戸に捕まった。
「遅い・・・」
「どうした?遅いから昼飯食ったよ?ていうかあんたスーツ真っ赤じゃないか!?襲撃でもあったのか?」
えへへ、これは違うんですよ、朽木殿とご飯を食べて、スープ溢しちゃってでも朽木殿はずっと笑顔で私に笑ってくれて、あれ?何処に連れてくの?個人指導?や、やめて、ご飯戻しちゃう。
三戸の嫉妬の指導によりズタボロになった私がシャワーを浴びてリビングに戻ると三戸が慌てて焦燥した顔を浮かべていた。
「三戸?」
「ああ、助平、大変だ、朽木さんが炎上してる」
朽木さんが炎上?
「え!?火事か!?」
「馬鹿言ってるんじゃないこれを見ろ」
火事なら逃げなきゃここも危ねえだろと思いつつ黙って三戸のスマホを覗く。それにはモザイクがかかって朽木殿が一人でプレイしてる動画の切り抜きだった。
「ッ!?」
「ああ、顔がバッチリ写ってる。顔にもモザイクがかかってる動画が大半なんだが少しググれば簡単にこの動画が表に出てくるんだ。しかも裏なら全モザイク無しだ。調べたら100 万人以上の人間がリアルタイムで見てたので収集がつかないのだそうだ」
ちょっと何言ってるか分からないっす。
てか男性って一人でするの?
そんなのエロ漫画だけの話では。
私は混乱しとりあえず自室に戻って裏サイトへと飛んで励んだ。
「郁代は?・・・」
「ああ、角村、暫くほうっておいてやれ、猿になってるだろうからな」
「理解・・・」
「角村はオナらないのか?」
「私は大丈夫・・・今日視姦されてる・・・」
三戸は飲んでたお茶を吹きこぼした。
:聖夜視点
やべえ・・・死にてえ。全国展開オナ◯ーショウをカマしてしまった。少しググると出るわ出るわ。モザイクの考慮が一切されてない動画を見て俺ってイク時こんな顔してんだなって他人事の様に思った。現実逃避してるとも言う。
ツブでは『聖夜の鳴る音』の事を誰かセンスのあるやつが『聖夜のオナる音』だとか性夜降臨とか好き勝手言ってやがる。このままで良いのか?いや良くない。俺に今出来る事、それはひっそりと忘れられるのを待つことのみ。
亀の様に待つのだ。亀を晒してしまった俺に出来る事は耐え忍び潜むのみ。
トレンド1位が男性のオナ◯ーになってやがる。男性の自慰とは?っつー特番も今夜急遽放送されるらしい。勝手にシコらさせてくれよと思ってもそうは問屋が卸さない。男性の自慰は天然記念物らしい。なんでやねん。
どうする?世間がここまで騒ぐとなると元ネタになった俺をネタに励んでる女性が山の様に居ると思うとクルものがある。
これはチャンスなのでは?ピンチはチャンス、誰かが言ってた・・・
「こんばんはーッ!」
逆境をバネに。俺は配信のスイッチを押した。
先ずは視聴者達、女の子達の反応やいかに??
・wwwwww
・好きです結婚してください
・キターーーッ
・聖夜くんっ!抱いて!
・全裸じゃない?だと?
・よくまた配信出来たなw
・ありがとう聖夜様
・草
・こんばんは!
・おかず助かった
・あれ服着てる
・昼間のオ◯ニーはどんな理由でしたんですか?
・こんばんは~好き
・マジでイケメンじゃん
・ヤバイ、ヤバイ、好きすぎる
・ティッシュ送るから欲しいモノリスト作ってくれ
・高校生ですか?会いたいです
ふむ。若干の煽りはあるものの高評価だぞ。
コメ返しっつーのをやってみるか。えーとログがこれっと。
「ごめんね皆不慣れなもんで返信遅いかも、昼間は粗末なもん見せちゃってごめんねハハハ、オ◯ニー男もするんだよ!理由はなんとなく!高校生だよ!今日入学式でした!」
・可愛いしゅき
・手取り腰取り教えてあげたい
・聖夜くん大丈夫大丈夫、お姉さんだけどちょっとびっくりしちゃったよ
・は?神かよ
・男のオ◯ニー発言助かる
・粗末所か凄い大きい・・・です
・謝らないで!好き!!!
・私の糞コメ拾っただと?一生推します
・なんとなくでオ◯ニーてうちらと同じじゃん
・現役DKヤバいな
・聖夜さんと何処に行ったら会えますか?
・↑会いたいじゃなくてやりたいだろw
・神よ尊い
・↑お前はやりたくないんか?私はやりたい
・やりたくない女子いないんじゃないか?
・禿同
・ハゲしく同意
・ハッキリイッテ私のモン
・待て争うなもちつけ
「皆ありがとう!会いたいって言ってくれてる人が多いのでオフ会とか開きたいけどめちゃんこ人が来ないかな?収容できる施設とか抑えないと無理じゃない?」
・これにも激しく同意
・なんだ神様って本当にいたんだ
・聖夜くんお姉さんの家に来れば?
・オフ会に男が参加だと?血の雨が降るぞ
・会いたい!会いたいです!
・誰か東京ドーム抑えろよ
・いくらかかんのよw
・会いたいけど金がないorz
・東京ドームてなんで名古屋ドームでも良いだろ
・こんな男性居たんですねえ・・・
・↑情弱乙。聖夜くんは関東住み。
・↑その情報詳しく
・男性に感謝されるとか生まれて初めてです感動
・↑聖夜くんのクラスメイトから情報が出た。顔射された顔写真アップ付きでな
・は!?
・!?
・まじかよ
・は!?
・マジデジマ!?
・なに!?
・ちかみにそのアカウントはもう凍結されてるからな。聖夜くんが通ってる高校の名前もわかってるが言ったら流石に暗部案件だわ
・まじかよ・・・
・出遅れたくやちい
・オ◯ニーで忙しかったんだが
・同じくw
・明日からお姉さん聖夜くんの学校を覗いてから会社行くんだ♪
・強者は皆そうだろw
・うらやま
おっと電話が鳴ってコメ欄見れなかった。配信前にオフっとけって話だよな。朱音からライムで私も出るって送られて来たけど俺はそっ閉じした。
「ごめんね電話、皆許して。今日は!ちょっと皆に俺の
両手を合わせて頭を下げてからテンション高めにラップしても良いか確認する。
・全然問題なし
・謝らないで大丈夫だよ〜
・電話なる時あるもんね。お姉さんならなんでも聖夜くんのお願い聞いてあげるよ?
・まさかのヒップホップ
・ラップてなんぞ?サランラップか?
・ラッパー聖夜だと?
・待てお前ら頭を下げる男性なんて初めて見たぞ
・いいよー!
・ググれカス
・ババアだろwww
・聖夜くんはちょっと何かがおかしいのでw
・聞かせてー!!
・こんな良い子日本にいたんやな
・ラップとは斬新。期待
・耳をダンボにして聞きます
・楽しみ!!
ヨシヨシ滅茶苦茶好感触じゃん。
歌おうとするのはオリジナルじゃなくて前世で流行ったレゲエちっくな曲だ。
「皆ありがとう!では聞いてください。タイトルは無題でアカペラだけど、
もう一度、君に会いたいよ〜
もう二度と君に会えないの〜
・・・・・・・・・・・・・・~」
「以上です!聞いてくれてありがとう!」
ふぅ。アカペラキツイけどやりきったぜ。
さて米欄どうだ?
・結婚式予約しました
・うぉおおおお!!!
・しゅごい
・感動した!!!!
・素敵!お姉さんを抱いて!
・会える!!会いたい!!
・ヤバいwwwwwかっこよすぎwww
・また会える。会いたい
・イスを汚したので責任とって結婚してくれ
・素敵な歌声でした
・子宮にビンビン来た
・発売はいつですか?
・悲しい曲の筈なのに熱い思いで溢れてたそんな曲だった
・これ一生リピートします
・可愛い顔なのに男らしい声なんて反則だよ
・死んだ婆ちゃんと会って今帰ってきた
・素晴らしい!!!涙が止まらないわっ!!!
・もの凄く良かったです
・会いたい。素敵でした
・他の曲やらないの?とても良かった
「ありがとう!聞いてくれて感謝です、他の曲はまた今度ね、今日はこの辺でまた!また会おうね皆!」
行っちゃやだとかいつ会えるの等のコメントを軽く見てから新しく買ったパソコンの電源を落とす。電源ボタン押せばなんとかなるだろの精神だ。流石に切り忘れてないよな?スマホの電源を入れてツブッターを確認するとトレンドに聖夜の鳴る音が入ってるのを見てニヤけた。俺の部屋に入ると配信終了の文字。うん安心だ。
「お兄ちゃーん!!!」ドンドンッドンッ!
うおっ!気が抜けた所にドアドンの音で体がビクついた。
ガチャ。
「朱音どしたの」
「お兄ちゃん!酷い!ライム無視したでしょ見てたんだから!だけど歌良かったよ~えへへ」
なんつって抱き着きながら話す朱音。あっ、スルーしたのバレテーラなのね。
「ごめんごめん笑。ラップ歌いたくて、今日のはレゲエよりだったけど、ほんとに?良かった?」
「最高だったよお兄ちゃん!晩御飯までまだ時間あるし私の部屋で歌聞かせて〜」
「しょうがにゃいにゃあ」
なんつっても朱音の部屋で気持ちよく12曲熱唱してしまった。母さんと凪紗姉ちゃんが帰って来たら歌を聞かせてと何故かせがまれて喉が潰れかけたが凪紗姉ちゃんにマッサージされたら元気になった。
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歌詞をそのまま載せると問題になりそうなのでこの物語に出てくる元ネタと思われる曲は全て一部変えています。元ネタ全部わかるぜって方。友だちになりましょう。
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