ツネさん
あけぼの
第0章
田舎のショッピングモールで幼女のはしゃぐ声が響く。
「つねさぁ〜んっ」
まだおむつも取れていない幼女が「さん付け」で誰かを呼んでいる。その姿が不自然で可笑しくて周りの大人たちは笑う。どうやらかくれんぼをしているようだ。子供服売り場の陳列棚の影に隠れる大人がひとり。幼女が気付きやすいよう、わざとらしく顔を手で覆い、体はほとんど隠れずにその場に立っている。
「つねさん、いたぁ」
幼女が指を差しながら近づくと、彼は顔を覆っていた手を広げる。途端に満面の笑みが漏れる。
「おー、みっかっちったなぁ」
彼の笑顔を見て幼女は安心し、彼の足元に抱きつく。すると彼はいつもしているように幼女を抱き上げ、自分の肩に乗せ肩車をする。
幼女はきゃっきゃと喜び、視線の先にいた女性に手を振った。
「おばあちゃ〜ん」
視線の先にいた中年の女性は、幼女の祖母のようだ。その隣にいる若い女性は幼女の母親だろうか。ということは、幼女を肩車している「つねさん」と呼ばれる中年の男性は幼女の祖父だろうか。しかし、祖父ならば幼女は彼を「おじいちゃん」とは呼ばないのはなぜだろうか。
とても幸せな家族の光景だ。幼い孫にあれほど懐かれているということは、頻繁に会っているのだろう。または同居しているのかもしれない。平日の昼間のあまり人気のないショッピングモール。簡素なBGMだけが繰り返し流れるフロアに、はしゃぐ幼女とその家族はある意味注目を浴びていて、見る人たちを和ませていた。
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