捨てられ召喚師の英雄譚~勇者パーティーから追放されましたが、古の竜と契約して幸せになります。戦いに負けて死にそうだから戻ってきてと言われても帰るつもりはありません~
青い盾の人
第1章─いにしえの神竜と小さな召喚師
第1話─竜と少年の出会い
「キルト。悪いが今日で君を我が勇者パーティーから追放させてもらう」
「そんな……何でですか! せめて理由は教えてください、フェルシュさん!」
宿の最上階にある、ロイヤルスイートルームに五人の男女がいた。その内の二人が、テーブルを挟んで向かい合っている。
片方は、見目麗しい顔立ちをした金髪の青年だ。豪華そうな衣服を身に付け、優雅にくつろいでいる。もう片方は、オレンジのジャケットと青いズボンを身に付けた幼い少年だ。
豪華な肘掛け椅子に座ってくつろぐ青年とは対照的に、必死の形相を浮かべている。そんな少年……キルトに、青年は言う。
「理由? そんなのは一つさ。君が勇者である僕よりも! 華々しい活躍をするのが許せないからだ!」
「そ、そんな理由で……僕を解雇するんですか?」
「解雇ではない、追放だ。君のような
あまりにも傲慢で、理不尽な物言いにキルトは空いた口が塞がらなかった。若干放心していた彼は、気付かなかった。
青年……フェルシュの視線が、自分の左腕に注がれていることを。そして、残りの仲間が自分を包囲するべくこっそり動いていることを。
「サモンカードだか何だか知らないが、あれはあまりにも目立つ。勇者であるこの僕よりもね。君は有能だが、だからこそ許せない。というわけで、さっさと荷物をまとめて出て行ってくれ」
「……そうですか。分かりましたよ、そんな言い分ならこっちだって喜んで出て行きますよ! 後で戻ってきてほしいって泣き付いてきても知りませんから!」
「おう、それならよ。お前の義手を置いてけや。なあ、フェルシュ?」
あまりにもふざけた追放理由に怒ったキルトは、そのまま荷物を纏めに行こうとする、が。彼の前に、仲間の一人である巨漢の戦士ゾルグが立ちはだかった。
「ああ、そうだ。君のその左腕……肘から先が義手だろう? 例の召喚をするのに使っているソレ、置いていってくれないか」
「!? な、何言ってるんですか! これだけは僕の命に代えても渡すわけにはいきません!」
「そうは言っても~、四対一じゃ勝ち目はないですよね~? わたし、知ってますよ~? お昼の戦いで、カードを使い切っちゃったってコ・ト❤」
フェルシュは立ち上がり、キルトの左腕を指さす。彼の左腕は、肘から先が義手になっているのだ。少年の使う召喚の力を用いるには、この義手が必須。
それを手に入れようと、勇者は目論んでいるのだ。彼の仲間の一人、女僧侶のメルムが意地の悪い笑みを浮かべキルトの退路を断つ。
「いつの間にか囲まれてる!? ……まさか、最初からコレを奪うつもりで」
「うるさいわね、早く寄越しなさい! どうせ行くアテの無いアンタが持ってても宝の持ち腐れでしょ? あたしたちが有効活用してやるって言ってんだから泣いて喜びなさい!」
仲間たちの意図に気付き、キルトはショックを受ける。黒いローブを着た魔法使いの女、エシェラがそう口にしながらキルトの腕を掴む。
「! は、離して!」
「うるせぇ奴だ、大人しくしろ! フェルシュ、俺がこいつを羽交い締めにする。その間に義手を外しちまえ!」
「なんなら~、わたしのメイスで手足をへし折ってもいいですよ~? 抵抗されると面倒ですしね~」
ゾルグが後ろからキルトを拘束する中、メルムが物騒なことを言い出す。もう、なりふり構ってはいられない。
仲間の裏切りに傷付きながらも、キルトは奥の手を発動させる。奥歯の中に仕込んでおいた、テレポートの魔法効果を宿す魔法石を噛み砕いたのだ。
「僕は……誰にも渡さない! コレだけは絶対!」
「あっ!? ちょっと、逃げられちゃったわよ。もー、フェルシュがノンビリしてるから!」
「あらら、これは予想外。ま、いいさ。別にアレがなくても魔戒王を倒すのに支障はない。僕らだけで旅をすればいいさ」
キルトを取り逃がしてしまったものの、フェルシュは特に気にせずそんなことをのたまう。彼を追放したことが、のちに自分たちの運命を狂わせる。
そんなことなど、まだ勇者たちは知らなかった。
◇──────────────────◇
「うわっ! いったたた、何とかテレポートは出来たけど……座標の指定なんてしてる暇なかったから、どこに飛んだか分からないや……どこ、ここ?」
一方、辛くも逃げおおせたキルトは見知らぬ洞窟の中に転移していた。着の身着のままで逃げたため、一夜を明かすだけの余裕もない。
下手をすれば、洞窟に住むであろうモンスターに襲われて食い殺されてしまう。とりあえずは出口を目指し、風の吹いてくる方向へ歩く。
「……どうして、こうなっちゃったんだろ。みんなの役に立ちたかっただけなのに……う、ぐすっ」
フェルシュたちとの思い出が、悲しみとやるせなさに塗り潰されていく。ポロポロと涙がこぼれ、足下を濡らす。
「やっぱり、どこにも僕の居場所なんてないんだ。……もう、疲れちゃったな。いっそ、モンスターにでも食べられて楽になりたいよ──!? う、うわあああああ!」
トボトボ歩いていたキルトは、地面に穴が空いているのに気付かなかった。穴の先は、広い空洞に繋がっていた。
地面までは、かなりの距離がある。まず間違いなく、墜落して死ぬだろう。
(あ、終わった……でも、これでいいのかも。ここで死んだら、お父さんたちのところに行けるかな……)
そんなことを考えながら、キルトは落下していく。その時……何かが視界に入り込み、彼をキャッチした。
「ほう……これはこれは。まさか、この霊峰に……それも、こんな夜半に人が我が寝床に降ってくるとは」
「え? へ? ど、ドラゴン!?」
キルトを受け止めたのは、三対六枚の翼を持つ巨大なドラゴンだった。魔法で作られた月の光に照らされ、真っ赤な鱗が輝いている。
どこか優しげな、知性を感じる瞳に見つめられ……キルトは先ほどまで持っていた、死にたいという感情を吹き飛ばされた。
「あの、助けてくれてありがとう。……あなたは、一体誰ですか?」
「ふむ、礼儀正しい子だ。我はエルダードラゴン。最も神に近い、六枚の翼を持つ竜の一角なり」
竜はそう答え、キルトを地面に降ろす。改めて、キルトは相手を観察する。寝そべった状態でも、ゆうに十メートルは超える体躯があった。
相手がその気なら、何の抵抗も出来ず捕食されてしまうだろう。だが、竜にそのつもりはないようだ。
「礼儀正しい人の子よ、次は汝のことを教えておくれ。どうやって、この人跡未踏のシャポル霊峰に足を踏み入れたのだ?」
「あ、はい。僕の名前はキルト。実は……」
キルトは竜に、これまでのいきさつを語って聞かせる。少年の受けた仕打ちに、竜は強く憤る。
「なんとも……許しがたき行い。献身的に尽くした者を裏切り、あまつさえ恩を仇で……う、ゴホッゴホッ!」
「わ! だ、大丈夫?」
「……ああ。我はもう、長く生きすぎた。じきに寿命を迎えるのだよ。ついぞ、同族に出会うことのないまま……一頭寂しくな」
怒りをあらわにする中、竜は苦しそうに咳をする。魔法で作り出した月を見つめ、竜は寂しそうに鳴き声を出す。
キルトは、そんな竜を哀れに思った。それと同時に、相手を助けてあげたいとも強く願った。自分のために憤ってくれた竜を、孤独な死から救いたかったのだ。
「……ねえ、竜さん。もし……あなたがまだ生きることが出来る方法がある、って言ったら。どうする?」
「なに? ふっ、それは無理というものだよ……キルト。我の命はもうじき尽きる。それを伸ばす手段など、あるわけが」
「あるんだよ。僕と契約すれば……寿命を分けてあげることが出来るんだ。そうすれば、あなたは僕の命が尽きるまで生きていられるよ」
「なんだと? 君は召喚師なのか。だが、にわかには信じられぬな」
キルトの申し出に、竜は驚く。そんな相手を信用させるべく、キルトは義手に魔力を流し込む。すると、腕の内側がカシャッと開き、一枚のカードが出てくる。
何の絵も描かれていないカードの上部には、『
「……不思議な札だ。とても強い力を感じる……神と魔の二つの力を。キルトよ、これはなんだ?」
「これはね、僕が作ったサモンカードっていうんだよ。僕と契約したモンスターは、このカードに宿り……契約主である僕と、命を共有するんだ」
「なるほど、そういう仕組みであるのか。……なれば、一つ賭けてみるのも悪くない。どうせ、後は寿命で死ぬだけなのだ。今更命など惜しまぬ」
キルトの取り出したカードから、不可思議な……それでいて、非常に強い生命の力を感じた竜は決意する。キルトと契約し、彼と共に生きることを。
「これも何かの縁だ。キルト、我と契約してほしい。我はまだ、生きていたいのだ」
「……分かった。一度契約したら、もう後戻りは出来ないよ。死ですらも、僕たちを別てない。それでもいいのなら、契約するよ」
「構わぬ。もう、孤独を味わうのは飽いた。共に生きる相手を得られるのなら、それ以上の喜びはない」
「……竜さんの意思、受け取ったよ。じゃあ、手……いや、脚かな? まあいいや、爪を出してカードに触れて」
「うむ。こうでいいか?」
キルトは竜の想いを受け取り、カードを差し出す。竜は前脚を伸ばし、爪でカードに触れる。直後、まばゆい光がカードから溢れ出す。
「……サモンギア起動! ……今、命を束ね魂の契約を成さん。運命のカードよ、二つの命を繋げ!」
「む、おおおお……! 力が、溢れてくる……これが、契約の力なのか!」
「いくよ、エンゲージ・エルダードラゴン!」
キルトが叫んだ直後、竜はカードの中に吸い込まれ姿を消した。何も描かれていなかった白紙のカードには、翼を広げた竜の絵が現れている。
『……不思議なものだ。さきほどまで消えかけていた我の命の灯火が、今は強く燃えている。やはり、君を信じてよかった。ありがとう、キルト』
「それは僕のセリフだよ、竜さん。あなたと出会えて、僕は……もう一度、生きてみようって思えたから」
カードの中から響く声に、キルトはそう応える。彼らは、世界はまだ知らない。一人と一頭の出会いが、壮大な冒険と戦いの始まりとなることを。
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