メッセンジャーガール
それが発見されたのは、二十年余り続いた世界大戦が終わり、人々が復興に尽力していた頃のある昼下がりのことだった。
海辺で発見されたそれは、一メートルくらいの大きさで、白い卵のようであった。
やがて大勢の大人がそれを調べて研究するようになった。研究の結果、それは一万年ほど前に作られたとても古い機械である事が分かった。
研究者達はその機械を動かすべく、叩いたり、撫でたり、殴ったり、放置したりした。試行錯誤の末、ついにその時が訪れた。「音声入力によって起動するのではないか」という若い研究者の意見が的中したのである。
その機械に向かって、一万年ほど前の時代に使われていた言語で、挨拶を意味する言葉を試しに言い放ってみたところ、それは大きな音を立てて変形し、機械は一つの瓶を彼らに差し出した。
瓶を開けると、中には一枚の手紙のようなものが入っていた。書かれている言語は機械の起動の際に使ったものと同じだった。
研究者は、翻訳した手紙の内容を世界中に公開した。そうすべき理由がそこにはあったのだ。
手紙にはこうあった。「一万年後のあなたへ まずはこれを読んでいるあなた、ご挨拶ありがとう。挨拶されたら、返すのが礼儀ですよね。こんにちは。私は今十四歳の女です。この手紙を入れた機械はパパの会社が作ってくれたもので、どんな水圧にも耐えられるんです。そして、海へ投下された後、一万年経ったら自動で陸へ上がってくるそうです。なんだかびっくりですね。話は変わりますが、今、私達の国では戦争が起こっています。それも世界中を巻き込んでの戦争です。戦争はとても怖いもので慣れないものです。兄も友達もみんな死んでしまいました。これを読んでいるあなた。どうか、平和な世界を目指して、強く、そして優しく生きてください。とにかくそれだけが言いたくて、私は一万年後のあなたにこの手紙を送ったのです。変でしょう? でも、それだけ大切な事だから。それでは、最後に別れの挨拶を。もう誰も争わなくていい世界を願って。さようなら。一万年前の私より」
西暦一万二千四十五年。二十年余り続いた世界大戦が終わり、人々が復興に尽力していた頃のある夜の事だった。少女が一人、自室でペンを手に取り手紙を書いていた。もう人々が二度と過ちを繰り返さないために。手紙の書き出しはこうだ。「一万年後のあなたへ」
愛と幻想のショートショート 一文字零 @ReI0114
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます