第69話

 舞佳の足元は、みんなの顔で埋まり始めた。


 身体も、首も残さずに…丸く切り取られていく…。


「嫌…嫌…」


 舞佳はみんなの顔に囲まれ、一向に動けない。


「舞佳は、私のものなの!気安く関わらないでよ!!」

 急にスズの声が聞こえた。

「きゃ…!!」

 最初は、スズが自分のことを追いかけて、追いつかれたと思った。

 だが…スズの姿は見えない。

 真っ暗な闇から、姿を現す様子もない。


「みんな、友達だって言ってる人たち、全員…いなくなってしまえば良いのに!!!!!」


「絶対、悪い人たちだ…!舞佳を守れるのは、私だけ…」


 ただただ、スズの声が響くだけだった…。




「舞佳…舞佳…」


「舞佳…いなくならないでよ…私は、一人なの…サチもお父さんもいないの…」


 それを最後に、スズの声は途絶えた。

 写真が舞い落ちては、丸く切り取られていく…そんな光景もピタリと止んだ。


 周りがゆっくりと、明るくなっていく…






 舞佳が立っていたのは、見覚えがある景色の八百屋の前だった。

 高校の制服を身に纏っており、ただ呆然と立っていた。


 カタン…


 固い物が舞佳の近くに落ちた。

 舞佳の腕から黒い何かが剥がれ、地面に打ちつけられた時には、

 その姿は…スマホになっていた。


 そっとスマホを拾った。


 あれほど痛かったはずの腕の傷は治っていて、今までのことが全て夢の中…嘘だったようだ。

「た、助かったの…?」

 舞佳はフラフラとしながら、八百屋に設置されているベンチに座った。




 そして、そのまま寝てしまった。

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