第1章 家の中の知らない人々

第1話

「やっぱり、ダメだったね…」

 舞佳はスマホをバッグにしまってから、ゆっくりと歩き出した。

 アイドルの面接なんて、そうそう合格するものではないと分かっていた。

 しかし、いざ落選と分かると…ショックを受けた。

 …彼女は、ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。

 彼女のすぐ横を、何台もの車が通り抜けた。






 気が付けば、商店街に入っていた。

 舞佳は、その真ん中を歩いている。

 彼女の両側には、お惣菜屋だけでなく、雑貨屋や本屋も並んでいた。

「いらっしゃいませー」

「今日は、タイムセールで…」

「いつも、ありがとうございますー」

 それは、当たり前の風景だった。

 …ごく普通のとある日に流れる、ごく普通の時間。

「ねぇ、あれみていこうよー」

 舞佳の目の前を、一人の少年が横切った。

「ちょっと待って!」

 母親らしき人物が、急いで少年を追いかける。

 少年は、そのまま嬉しそうに玩具屋へと入って行く。続いて、その母親も。

 少年は玩具屋に入るなり、母親に「これがほしい」「あれがほしい」とねだった。

 母親は、人差し指で”1”を作ると、「じゃあ、一個だけね」と微笑んだ。

 少年は両手を上げて喜んだ。

 そして、母親と一緒に玩具をまじまじと見つめていた。

「あれもいいなー、これもほしい。…どうしよう、きめられないよー」

「ふふっ…ゆっくりで良いからね」


 舞佳はそんな親子を横目に見ながら、その玩具屋を通り過ぎた。

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