第21話 結末
SIDE A. 報告
担任である古田に説明すると言った手前、しないわけにもいかず早めに登校し、今は生活指導室の中で担任である古田と校長、教頭を前に吉田がしたことの説明を求められている。
『俺じゃなく親に聞けよ』と言いたいが、説明すると言ったこともあり、この状況から逃げられる術もなく『はぁ』とため息を吐き、話し出す。
「吉田がしたことなんですが、あくまでも俺から見た意見と言うか私見として捉えてくださいね。詳細なんかは吉田本人なり警察に問い合わせてください。じゃ、話します。え~と、あれは……」
担任達を前に教室での吉田の様子がおかしかったこと。そして電車待ちをしていた時にいつもと違う向かいのホームに吉田を見かけたところから、昨夜の土田家襲撃までを掻い摘まんで話す。
「なら、お前が駅で吉田を説得しておけばここまで大きくはならなかったんじゃないのか?」
「先生、それ本気で言ってます? 対して親しくもない単なるクラスメイトを見かけ、たまたま様子がおかしかったから、近くに行って『お前、おかしいぞ』ってそう言ってどうなるって言うんですか!」
「ぐっ……」
担任の言葉にムッとしながらも、感じたままをぶつけると担任も口ごもる。
「まあまあ、古田先生。田中君の言うとおりですよ。なんなら、田中君のお陰でことが重大化する前に抑えられたと言ってもいいくらいだと私は思いますよ」
「校長! それは甘いんじゃないですか! 昔から喧嘩両成敗ともいいます。この田中にもなんらかの処罰を与えた方がいいと私は思いますが!」
「ほう、教頭は傷害事件に発展しそうになった生徒を救った田中君を罰しろと言うのですね」
「ええ、そうです」
「では、どういった理由で彼を罰しますか?」
「それは……古田君、君も何か言いたまえ! 両方共に君の生徒でしょ!」
「え? そんな急に言われても……それに私には田中が何かをしたとは思えませんし」
「甘い! 甘いですよ! では、何もしなかったことを罰すればいいでしょ」
何を言ってるんだと、思った。何もしなかったのが罰と言うのなら、あれだけ様子がおかしかった吉田に対し担任も教科担当の誰も注意どころか気に掛ける様子もなかったじゃないかと、気が付けば立ち上がり両拳を握りしめツバを飛ばしながら担任と教頭に向かって、思っていた全てを口に出して怒鳴りつけていた。そして、俺が言い終えた後、教頭も立ち上がり怒鳴りつける。
「な、何を言うんですか! 責任を擦り付けるつもりですか!」
「待ちなさい教頭。田中君、では君は教室内でおかしい言動を続ける吉田君に気付いたが、回りの生徒どころか、担任や他の先生達も何も気に掛けることはなかったと、そう言うんだね?」
「ええ、そうです。誰も……です」
「そうですか、では他の先生方にも話を聞かないといけませんね」
「校長! 校長はこの生徒の言い分を信じるんですか?」
「ええ、そのつもりです。何か問題でも?」
「いえ、校長がそう仰るのであれば、特に私からは何も……」
「そうですか。では、この辺でお開きとしましょう。そろそろHRも始まりますしね。田中君も早くからありがとう」
「いえ」
「では、私達はこれで失礼するね」
「……」
校長は終始穏やかな感じで話を聞いてくれたが教頭は俺もなんとか罰しようとしていたのが気に掛かる。何か教頭の気に障ることでもしたのだろうか。
「はあ、なんとか校長達も納得してくれたみたいだが……」
担任の古田が俺をチラリと見る。
「お前、教頭にあんなこと言って大丈夫かよ」
「何がですか?」
「いや、あの教頭は粘着質だからな。注意した方がいいってことだよ」
「ああ、それが分からないんですよ。なんで俺があんなに目の敵にされるんですか? 俺には身に覚えがないんですけど」
「それは俺にも分からん。まあ、しばらくは気を付けるんだな」
「担任として庇ってくれないんですか?」
「勘弁してくれよ。俺まで目を付けられるじゃないか」
「はぁ……」
担任の古田の言葉を聞いて呆れてしまう。まあ、担任とは言え上司に逆らうことは出来ないよな~と。
そして、教室に入ると吉田が急遽入院したと古田の口からクラスメイトに伝えられると「アイツ、落ちたな」そんな嘲笑混じりの声も聞こえた。
SIDE B.過剰な愛情
昨夜の騒ぎの後に吉田の両親の訪問もあったが、謝罪というよりは「何かの間違いだった」と警察に話して欲しいとの嘆願だった。その警察関係者であるお父さんに向かってだ。
お父さんも親として分かるが前置きして吉田の両親に言う。
「一度目なら許したかもしれませんが、通算で三度目となると私も娘の親として何もしない訳にはいきません。分かってくれますよね。悪いのは私の娘ではありません。それは分かってくれますよね?」
「は、はい。それは重々分かっていますが、そこをなんとかして頂く訳にはいかないでしょうか」
「無理です。それにあなた方は息子さんの監視が必要な時に二人して、田中君を糾弾しようと学校に向かった。違いますか?」
「「……」」
「お分かりですよね。そんなあなた方を信用して娘を傷つける訳にはいかないんです。あなた方も親として子供を守りたいという気持ちは同じだと思います。重ねて言いますが分かって下さい」
「「はい……」」
吉田の両親が家を出てからお父さんが私に話す。
「やっぱり、お婆ちゃんのところに行ってくれないか」
「わかったよ。あのご両親もなんだか信用出来ない感じだし」
「分かるか?」
「うん……なんとなくだけど。お父さんの私達に対する思いとは違って、吉田のことがすごく大事なモノって感じた。少し怖いくらいに……」
「そうだな。あれも愛情だとは思うが行き過ぎると危ういな」
「お父さんも私のことをもっと愛してくれてもいいよ?」
「いいのか? 亜美がお嫁にいくのが難しくなるぞ」
「ソレはダメ!」
「でも、お相手がまー君なら俺は何もいわないがな」
「バカ!」
と、そんなことがあったとまー君のことをぼかして奈美に話す。
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