第16話 これって運命ですか
SIDE A.お前って呼んでた
警察署を出て、伸びをする。
「やっぱり、送ってはくれないか。まあ、ドラマやVシネでもそうだったし、しょうがないか」
その場で軽く屈伸を済ませ、家に向かって走り出す。
走り出したところでスマホが鳴るので、画面を見ると由美だった。
「今度は由美か? どうした?」
『どうしたじゃないよ! まー君。心配したんだからね』
「だから、心配することじゃないって奈美にも言っただろ? 現にこうやって、解放されて走っているところなんだし。あ、そうだ。土田さんは? 特に怖がってたりとかしてないか?」
『なに? まー君は私と電話で話しているのに他の子を心配するの!』
「由美? お前、なにを言ってるんだ? 土田さんはお前の友達だろ?」
『そうだけどさ~なんでまー君が心配するの?』
「なんでって、成り行きとはいえ、俺のクラスメイトが迷惑掛けたみたいだし、それにお前達の友達でもあるからな」
『へ~じゃあ、私達の友達じゃなかったら、心配はしないってことなの?』
「なんで、そういう捉え方をするかな~まあ、知り合いでもなければ、知らないところで起きていることだと思うだろうな」
『ふ~ん、そっか。私達の友達だからなんだね』
「ああ。もういいか。じゃあ切るぞ」
まったく由美の奴はなにが言いたかったんだ? 俺だって土田さんの心配をしたっていいだろうに。まさか、ヤキモチか?
まさかな。そんな馬鹿なことがある訳ないか。それこそ、今更だよな。
また、もやもやしてきたな。
電話をするために立ち止まっていたが、また家に向かって走り出す。
そういや、この曲がり角から始まったんだよな。
そう思っていると、女子数人の話し声が聞こえてくる。
まさかな、出来過ぎだろう。そう思っていた。
「あ! まー君だ!」
「お、おう。由美か、どうしたんだ?」
「亜美が家に帰れることになったから、駅まで送っていくところ。あ、そうだ! まー君、お勤めご苦労様でした」
「「由美!」」
由美が両隣の奈美と土田さんから、頭を叩かれツッコまれる。
「まあ、ありがとうな。気を付けて帰れよ! 痴漢にも注意しろよ!」
「な、なんてこと言うのよ!」
「だって、あ! すまん」
「まー君。もう亜美から聞いてるから、いいよ」
「なんだ、そうか。なら、いいや。あ! そうだそうだ、土田さんの連絡先教えてよ」
「え? なんで?」
「なんでって、お前の親父さんに人探しをちょっと手伝ってもらうことになったんだけどさ。流石に刑事さんと直接やりとりするのは疲れるからさ、間に入ってくれよ。な、頼む!」
「ふ~ん、人のお父さん使って、なにやってんだか」
「いや、俺から頼んだ訳じゃないんだぞ。ちょっと話のついでに親父さんが国家権力を頼ってもいいぞって言うからさ」
「あ~言いそう。うん、お父さんだわ。で、どうするの?」
「ん? なにをだ?」
「だから、連絡先の交換よ。電話番号なの? メッセージアプリなの?」
「ああ、ならアプリでいいか?」
「いいわよ、はい」
土田さんがQRコードを表示して差し出されたのをスキャンして、登録する。
「おし、登録出来た。じゃ、親父さんによろしくな」
「あ、まー君。ちょっと待って!」
「なんだ? 奈美」
「ほら、大君の。あれ、今からでもいいかな?」
「あ、そうか。ちょっと、待って。母さんに電話してみるから」
母さんにその場で電話し、今からというか奈美達が送って帰ってくる頃だから、一時間後くらいを目処に招くことになった。
「そういう訳だから、また後で来てくれな。じゃあな」
「なんで、まー君は帰るの?」
「ん? なんでって、由美はおかしなことを言うな。俺は元々家に帰る途中だったんだけどな」
「でも、午前中は私達の為にケーキを買いに駅まで行く途中だったんでしょ?」
「まあ、そういえばそうだな」
「じゃあ、今から一緒に行こうよ!」
「待て! なんでそうなる?」
「なんで? ケーキ買わないの?」
「いや、まあ買う買わないで言えば買うんだろうな」
「なら、いいじゃない。決まり! はい、行こう!」
「俺、走って来たから、汗かいているんだけど……」
「そんなの、気にしない! 気にしない! 私だって部活で汗かくから!」
「まー君、ごめんね。ちょっとだけ付き合って」
「まあ、いいけどさ。着替えに戻りたかったな」
ジャージの胸元をパタパタと空気を入れながら愚痴ってみる。
「そんなに気にすることないんじゃないの?」
「お前な~思春期の男の子は色々気にするんだよ!」
「そうなの? 別に誰も見てないし、いいじゃない。気にし過ぎだよ」
土田さんが俺が気にし過ぎだと言ってくる。
「はぁ、奈美達と同じでお前も自覚がないんだな。いいか? お前も痴漢に遭うくらいは自分の顔面偏差値が高いってことくらい意識しろよ。そんなの三人と一緒に歩いていたら、イヤでも目立つだろうが!」
「「出たよ! まー君の無自覚が……」」
「え? もしかして私のことをかわいいとか思ってる?」
土田さんが、少し顔を赤くしてそんなことを聞いてくる。
この子は無自覚なのか?
「ああ、思ってるぞ。それがどうした?」
「なら、もう少し態度とかあるんじゃないの? それにいつの間にか『お前』呼ばわりだし」
「そんなレベルなら、そこの二人と毎日会っているからな。今更、照れることもない! お前呼びは今、俺も気付いた。でも、直す気にはなれない」
「「(きゃ~! まー君!)」」
「ああ、そういうことね。そりゃ私だって、近くに男の子がいて、私の顔を見て照れるなりしてくれたら、自覚することもあるでしょうけどね。あいにくと女子校で、周りの男は家族とストーカーだけだったしね。ごめんなさいね! まあ、お前呼びは許してあげるわよ」
「そりゃどうも。でも、中学は共学だったんじゃないのか?」
「そうよ。共学よ。でも、そんなことに興味はなかったの! だから、自分の顔のお手入れなんて気にしたこともなかったわよ!」
「ふっ、女捨てに掛かってんのか?」
「そんな訳ないじゃない! 私が振り向かせたいって思う男子がいなかったって言ってるのだ! そうよ、みんなマー君が悪いのよ!」
「なんで、そこで俺が出てくるんだ?」
「あ! 違うの。今私が言ったのはこのまー君じゃなくて、私の婚約者のマー君のことなの」
「なんだよ、ややこしい」
SIDE B.お前って呼ばれた
まさかね~とか、思っていたら現れるのね。やっぱり、運命なのかと思ってしまう。
「うん、ダメね。奈美達に悪いし。それに私にはマー君がいるんだし」
「お、おう。由美か、どうしたんだ?」
「亜美が家に帰れることになったから、駅まで送っていくところ。あ、そうだ! まー君、お勤めご苦労様でした」
「「由美!」」
由美の頭を奈美と一緒に叩いてツッコむ。
「まあ、ありがとうな。気を付けて帰れよ! 痴漢にも注意しろよ!」
「な、なんてこと言うのよ!」
「だって、あ! すまん」
「まー君。もう亜美から聞いてるから、いいよ」
「なんだ、そうか。なら、いいや。あ! そうだそうだ、土田さんの連絡先教えてよ」
「え? なんで?」
「なんでって、お前の親父さんに人探しをちょっと手伝ってもらうことになったんだけどさ。流石に刑事さんと直接やりとりするのは疲れるからさ、間に入ってくれよ。な、頼む!」
「ふ~ん、人のお父さん使って、なにやってんだか」
「いや、俺から頼んだ訳じゃないんだぞ。ちょっと話のついでに親父さんが国家権力を頼ってもいいぞって言うからさ」
確かにあのお調子者のお父さんなら、簡単に言いそうだわ。
「あ~言いそう。うん、お父さんだわ。で、どうするの?」
「ん? なにをだ?」
「だから、連絡先の交換よ。電話番号なの? メッセージアプリなの?」
「ああ、ならアプリでいいか?」
「いいわよ、はい」
スマホの画面にメッセージアプリのQRコードを表示させてまー君にスキャンしてもらう。
「おし、登録出来た。じゃ、親父さんによろしくな」
「あ、まー君。ちょっと待って!」
奈美が家に帰ろうとするまー君を呼び止め、なにやら話している。
そういえば、今日はまー君の家にお呼ばれしているとか言ってったっけ。
まー君がジャージの胸元をパタパタさせて涼んでいるのか汗の匂いを散らしているのか分からないけど、気休めに言ってみる。
「そんなに気にすることないんじゃないの?」
「お前な~思春期の男の子は色々気にするんだよ!」
あれ? 今、『お前』って言った?
「そうなの? 別に誰も見てないし、いいじゃない。気にし過ぎだよ」
「はぁ、奈美達と同じでお前も自覚がないんだな。いいか? お前も痴漢に遭うくらいは自分の顔面偏差値が高いってことくらい意識しろよ。そんなの三人と一緒に歩いていたら、イヤでも目立つだろうが!」
「「出たよ! まー君の無自覚が……」」
あれ? 気のせいかな? さりげなくまー君に可愛いって言われた気がするんだけど?
もしかしてと思い、まー君に聞いてみる。
「え? もしかして私のことをかわいいとか思ってる?」
自分で聞いといて、少し頬が熱を帯びているのが分かる。
「ああ、思ってるぞ。それがどうした?」
「なら、もう少し態度とかあるんじゃないの? それにいつの間にか『お前』呼ばわりだし」
「そんなレベルなら、そこの二人と毎日会っているからな。今更、照れることもない! お前呼びは今、俺も気付いた。でも、直す気にはなれない」
「「(きゃ~! まー君!)」」
ああ、奈美達は嬉しそうだね。でも、私には照れることはないんだから、少し複雑だな。それにやっぱり『お前』って呼んでたし。
でも、まー君の言っていることも分かる。確かに奈美は可愛いし、すれ違う人も振り返ったりしてるしね。由美も見た目は少年っぽいけど、それがいいと言う人もいるんだろうなとは思う。
そんな二人と同レベルでかわいいと言ってくれたのは、正直嬉しいけど少しくらい照れるとかあってもいいじゃない。
「ああ、そういうことね。そりゃ私だって、近くに男の子がいて、私の顔を見て照れるなりしてくれたら、自覚することもあるでしょうけどね。あいにくと女子校で、周りの男は家族とストーカーだけだったしね。ごめんなさいね! まあ、お前呼びは許してあげるわよ」
「そりゃどうも。でも、中学は共学だったんじゃないのか?」
「そうよ。共学よ。でも、そんなことに興味はなかったの! だから、自分の顔のお手入れなんて気にしたこともなかったわよ!」
「ふっ、女捨てに掛かってんのか?」
「そんな訳ないじゃない! 私が振り向かせたいって思う男子がいなかったって言ってるのだ! そうよ、みんなマー君が悪いのよ!」
「なんで、そこで俺が出てくるんだ?」
「あ! 違うの。今私が言ったのはこのまー君じゃなくて、私の婚約者のマー君のことなの」
「なんだよ、ややこしい」
確かにややこしいわよね。それにこっちのまー君も意外とイケメンだし、ガサツっぽいけど、それも男の子だからと思えばしょうがないと思えるレベルだし。それに意外と気を遣ってくれたり優しかったりするし、もうこっちのまー君でもいいかなとか、考えてしまう。
早く迎えに来ないと心変わりしちゃいそう。
って、ついこの間、思い出したばかりだっていうの!
そんな風に思いながら駅に向かう道を歩いていると、ふと思う。
「やっぱり、この道通った覚えがある」
「亜美、なに言ってんの。この道を通って、私の家に来たんだから当たり前じゃない。変なの」
「由美、そうじゃないの……」
「どうしたの? 亜美、やっぱり家に帰るのは不安なの?」
「奈美、そうじゃないんだ。やっぱり、この道になにか見覚えがあってさ」
「もしかして、デジャヴってやつ?」
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