第13話 なんでそうなるのかな

SIDE A.何回目のニブチン?

「「ただいま~」」

「おかえり! って、ちょっと早過ぎじゃない? それに手ぶらだし。なにがあったの?」

母さんが俺と真美がすぐに帰宅したことを不審に思ったのか、なにがあったのかと聞いてくる。


「あの女のせいなの」

「真美!」

「まー君、どういうこと?」

「その前に場所を移さない? いつまでも玄関のままってのも……」

「それもそうね」

場所を台所に移すと、テーブルに着く。

まずは使わなかった、ケーキ代を母さんに返すと話を切り出す。

「実はさ、ケーキ屋に向かっている途中のすぐそこの角でさ、奈美達に会ったんだ」

「そうよ! あの女のせいなのよ!」

「へ~それで。あ、真美はしばらく黙っといてね。話が進まないから」

「ちょっ「いいから、黙る!」……はい」

真美が母さんに止められたので、この間にと話を進める。


「で、まー君は奈美ちゃんと会ってどうしたの?」

「それがさ、知らない子と一緒だったんで、少し興味が湧いてね。どうしたのか聞いたんだ」

「ふんふん、それで? その子は可愛かったの?」

「まあ、奈美達と比べるとどっこいかな?」

「なら、十分キレイなレベルじゃないの! なんで家に連れて来ないかな」

「無茶言うなよ! 初対面だぞ」

「そこを強引に連れてくるのが……って、ダメね。だって、まー君だもの。ハァ~」

母さんが俺を見て、呆れたように嘆息する。なにが不満なんだか。


「俺のなにに納得しているのか分からないけど、続きを話してもいいかな?」

「あ、そうよね。はい、どうぞ」

「調子狂うな~ま、いつものことだけど。でね、その初対面の子が言うには、ストーカーに付き纏われていたから、避難するために奈美の家に泊まったらしいんだけど、一泊しただけで安全だ、大丈夫だって言うからさ。ストーカーを甘く見過ぎだって、言ってしばらくは様子を見るように言ったんだ。だから、奈美は今日はこれないことになったんだ」

「まあ、そうなのね。でも、まー君からストーカーを甘く見るなって、言ったのがちょっと信じられないわね」

「そりゃ、ウチにもいるからな」

「ああ、そうだったわね。それなら、しつこさも理解出来るわね」

「そういうこと。他にもしつこいのがいるしね」

横目で隣に座る真美を見るが、なんで見られたのかは気付いてないようだ。


「まあ、話は分かったわ。でも、大はどうしようか」

「ほっとくしかないんだけど、昨日も奈美を待ち伏せしていたみたいだし。本当はなんとかしないとダメなんだけどね」

「難しいわね。どうして、うちの子はどれもこれも問題児ばかりなのかしら」

「なんだよ、俺も入っているのかよ」

「そうよ、お年頃だと言うのに異性に興味もなければ、異性からのお誘いにも気付かないニブチンのヘタレ王なんだから」

「なんだよ、それ! 親の言うこととは思えないな!」

「だって、本当のことじゃないの」

「俺は異性に興味がない訳じゃないの! まずは大学に受かることを優先しているだけなんだから。色恋は、その後でいいの!」

「あら? そんなこと言ってていいのかしら。奈美ちゃんも由美ちゃんもあんなに可愛いんだから、向こうがその気になれば、すぐに相手なんか見つかるわよ。まー君はその時に初めて逃した魚の大きさに気付くんだからね」

「そ、そんなことは分からないだろ!」

「ふ~ん、そう。まあ、まー君の人生だしね。そうなって、初めて私の言ってたことが分かるわよ。その時に後悔すればいいのよ、ふん!」

母さんが、そんな言葉を言い残して立ち上がると、台所から出て行く。


じゃあ、俺もと立ちあがろうとすると、腕を引っ張られる。見ると真美が俺の腕を掴んでいた。

「なんだ、真美。離してくれないかな」

「なんで? もう、今日の予定は無くなったんでしょ? なら、もう少しこのままでもいいじゃない」

「いや、俺は部屋に戻って勉強したいんだけど」

「なんでよ!」

「なんでって、大学に行きたいから?」

「そんなの行かなくてもいい!」

「真美、お前はなにを言ってるんだ?」

「大学なんて、行かなくていいの! お兄ちゃんは私がちゃんと死ぬまで養ってあげるんだから!」

「え? なんで? いやだよ、そんなの」

「なんでよ!」

「なんでって、俺は俺でやりたいことがあるんだから、分かってくれよ」

「いや!」

「いやって、お前……頼むから離してくれよ、な?」

「じゃあ、あの女達とは縁を切って!」

「また、お前は『あの女』呼ばわりして……」

「いいから、言う通りにしてよ!」

「お前、おかしいぞ。あいつらと、そう簡単に縁を切れる訳ないだろ」

「なんでよ!」

「なんでって、お前な。由美は同じ学校だし、奈美は一緒の通学路を使うんだから、どうしたって会うだろうが。あいつら土田姉妹のなにがそんなに気に入らないんだよ」

「なんでって、あの女達がお兄ちゃんに色目を使うからよ!」

「はあ? 土田姉妹が? お前、大丈夫か?」

「分からないのはお兄ちゃんだけよ!」

「はいはい、分かったから、そういう妄想はほどほどにな。じゃあ、俺は行くからな」

掴んでいた真美の手を解くとテーブルから離れ、自分の部屋に入る。

「もう! ニブチンがすぎる!」




SIDE B.いろいろバレたけど

朝、出たハズの部屋へと案内され、渡された部屋着に着替える。

「参ったわね」

奈美が言う。

「ごめんね。今日予定があったんでしょ?」


「ああ、いいのいいの。その予定ってのが、さっき会ったまー君の家に招かれてたんだけどね。もう、まー君のことだから、ちゃんとおばさんに私達が来れなくなったことを説明しているはずよ」

「そうね。まあ、招待されたのは私なんだけどね。由美は単なる付き添いなんだからね」

「まあ、それでも まー君の家に行くのは変わりないじゃない」

私の言葉に由美が 返してくれたが奈美がそうじゃないと言う感じに補足する。


「ふ~ん、二人ともまー君のことが好きなんだね」

「「ぶっ!」」

「もう、汚い!」

私が不意に呟いた言葉に二人が飲んでいたお茶を噴き出す。

「急になにを言うのよ、もう吹いちゃったじゃない」

「そうだよ。急にどうしたの?」

「え? 違うの?」

「「違う……わない……」」

「ん? どっち?」

私が言った言葉に二人が動揺する。


「由美、亜美にはバレバレみたいよ」

「奈美だって!」

「あ! ごめんね、昨日は言わなかったけど、電車の中で由美はまー君の制服の裾をずっと握っていたでしょ? あれ見て、私は微笑ましいな~と思って、見てたんだよ」

「由美! やっぱり、抜け駆けしてたんじゃない!」

「ちょっと、握ってただけでしょ! そんなの抜け駆けじゃないもん!」

「奈美だって、大に言い寄られているんだから、浮気じゃん!」

「な、なにを馬鹿なことを言ってるの! あれは大くんが一方的に私に言い寄ってきているだけじゃない!」

「へ~それは好かれてる自慢ですか? 流石にモテる人は違いますね~」

「なによ! 由美だって……」

「え? 私がなに?」

「もういい! この話は、これで終わり!」

「なによ、気になるじゃない」

「いいの。そんなことより私が気になるのは、さっき亜美がまー君になにか言ったかもしれないってことよ」

「え? 亜美が?」

「そう! 急にまー君と大きな声でやりとりが始まったと思ったら、まー君がなにかに気付いた感じになって、その後に亜美がなにか言ったのよ。ね? そうなんでしょ!」

あちゃ~奈美には見られていたのか~よく見ているな~

これは困った。どうする? 正直に話す? それとも誤魔化す?


「奈美、ちょっと落ち着いて。近いから! ね、少し離れようか」

「あ、ごめんなさい」

奈美が離れてくれたので、これで話すことが出来る。


「じゃ話すけど、怒らないで最後まで聞いてくれるかな?」

「話す内容によるわね」

「奈美、そう言ったらなにも聞けないよ。奈美は私が抑えるから、どうぞ話して」

「うん、じゃあ話すね」

「「いいよ」」

「あのね、私が電車の中で痴漢に遭って、その痴漢と間違えて私達と同じ歳くらいの男の子を睨んでしまったって話は知ってるよね?」

「うん、それは聞いたわ。それで、その男の子が由美と同じ学校の一年だってことも……あれ? 今、その話をここでするってことは……まさか!」

「うん、そう」

「ねえ、二人で話してないで私にも分かるように説明してよ」

「由美、簡単に言うとね、私があなたに探すように言っていたのがまー君だったの。これで分かった?」

「ふ~ん、そう。私に探すように頼んでいたのがまー君だったのね。へ~ふ~ん。え~!」

「「遅い!」」

私が話したことを全部聞かない内に分かってしまった奈美と、奈美がかいつまんで話してやっと分かってくれた由美。


「あの短い間にそんなやりとりがあったなんてね。でも、亜美はどこで気付いたの?」

「それは、由美が電車で……あの……イチャついていたのを見てからかな」

「もう、亜美まで……でも、そんなに仲良く見えた?」

「由美!」

「なによ! 感想を聞くくらいいいじゃない! で、どうだったの?」

「もう、何回も話すけど、私の中ではベストカップルよ!」

由美にぐっと親指を突き出す。


「奈美、聞いた? ベストカップルだって! もう、亜美ってば!」

「由美、しつこい! 分かったから。それで、亜美はまー君になにを言ったの?」

「うん、それはね。私が痴漢に間違えたことを奈美達にはしばらく黙っていてもらえるようにお願いしたの」

「また、なんでそんなことを」

「だって、まさか間違えた男の子が、奈美の片思いの相手だなんて知らなかったんだもん。それなのに痴漢と間違えたなんて知られたら、絶対に怒られるし、嫌われると思ったから。グスッ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで泣くかな。ほら」

由美がティッシュ箱を渡してくれたのを一枚抜き取る。


「だって、絶対に奈美に嫌われるって思ったんだもん。絶対に『私のまー君になにをした!』って、怒られるって思ったんだもん。せっかく、高校に入って仲良くなったのに嫌われたくなかったの! うぇ~ん」

「ほら、奈美がきつく言うから。ほら、泣かなくていいから」

「ちょっと、私を悪者のままにしないでよ。亜美も私は怒ってないから。まー君も怒ってないから、なにも言ってこないんだし」

「ホント?」

「うん、本当だって。それにもし、怒っていたら私と同じ学校の子に痴漢扱いされたって言ってくるハズだしね」

「それもそっか。確かにまー君からは、そんなこと聞いてないしね。もう、まー君の中ではないことになってるのかもね。あ! それでか」

「なに? 由美はなにを思い出したの?」

「ほら! 昨日、まー君がさ。一本早い電車に乗ろうとしていたじゃない。だけど、私達の歩く速さに合わせたもんだから、結局いつもの時間の電車になってしまったからって、一本遅らせたでしょ」

「ああ、あったわね。なんか嫌なことがあったから、その時と一緒の電車に乗ってハチ合わせしたくないって……まさか、それって」

奈美と由美が私のことを見る。


「うん、私のことで間違いないと思う」

「「やっぱり」」

「由美、これってフラグじゃないよね?」

「奈美、言わない方がいいよ。確立しちゃうからさ」

「なんのこと?」

「「亜美はいいから!」」

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