第66話 レポート



【※この話は連続更新分です!!】



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『うん……そう、分かった。あぁ、既に調べ始めてるのね? はいはい、了解』



 暫く入り口で待機していると、黒岩薙獲に連絡が届いた。そしてその連絡も終わると、俺はつい自分から進展状況を尋ねてしまう。



「ど、どうです? 実験は始まりました?」


『うん。とりあえず初手で例の特殊作戦群を連れて、ダンジョンへ入れようとしたけど駄目だったってさ』


「あぁ……そうなんですか」



 あの人達はかなり凄そうだったから、俺以外の男の探索者として活躍する事になっていたら、此方への注目度が薄くなりそうで期待してたんだが……。


 そう落胆している間にも報告は続く。



『その後は青森ダンジョンの周辺警戒の為に展開させた、自衛隊の部隊から男の志願者を何人か募って実験させたけど、誰も入れなかったってさ。でも、女性なら何人でも普通に入れて、脱出も可能。つまり出入りに関してはノーマルなソレっぽいんだよねぇ~。まぁ、後からまた別の実験もやるけどさ』


「男は入れないままで、女性は入れる、と? 本当に普通のダンジョンですね」



 奥多摩ダンジョンと青森ダンジョンに何かしらの繋がりがあるなら、此処と同じ条件でもあるかと思ったが、そうじゃないのか……?



「内部の調査は?」


『日本に待機していた中級の探索者チームの幾つかに調査依頼をして、既に中を調べて貰っている。後で連絡が来る予定だよ』


「なるほど」



 どうやら俺が抱いた疑問は全て調べが進んでるらしい。


 だったら今は別の疑問を解決するかと思い、ミルキーさんに質問を飛ばす。



「ところで今日の探索中にふと気になったんですが、二段階目以降の超人化のカウント数って幾つなんですか? やはり目標があった方がやる気が出ると言うか、助かるんですが」



 これは純粋に聞きたかった事でもある。


 今後、深層を目指すなら俺の超人化の段階を深める必要があるからだ。


 別に第二層で早速と段階を進める気は無いが、そうした情報を早めに知っておいても損は無いだろう。


 けれどもミルキーさんはその質問を受け、困った様に眉を顰めた。



『二段階目以降は……不明と言うか、人それぞれだね』


「え?! 人それぞれ?」


『うん、最初の超人化を果たした人達のその後の超人化カウントの進み具合はバラつきが酷いんだ。だから、目標となる指数は口にできないかな』



 一体どういう事だ?

 そう困惑していると黒岩薙獲が横から『私が解説しよう!!』と話に加わってくる。



『超人化した際には人それぞれの成長倍率の違いで「命の保証が無い」と言う、超人化現象の段階を重ねる条件にズレが生じてくる。だから正確な成長速度は口にできないのさ。それに君の場合は特殊な超人化をしたし、そういうデータがあっても当てにできないと思うぜ?』



 確かに、彼女の言う事が事実ならこの話も納得できるモノがあるな……。


 俺も第二層に赴く前は正直『余裕』を感じていた。超人化したから、第一層の敵ではもう成長できないだろうと。


 超人化を果たしたばかりだし、異能も授かったのだからそう易々とやられる訳は無いだろう。


 第二層でもそうだった。


 突飛なルールには驚かされたが、敵の強さ自体は脅威と言う程ではなく、「命の保証が無い」と言う状況下に当て嵌まる気はしなかったぐらいである。


 唯一受けた攻撃と言うか、赤毛頭の大剣すら俺や俺の着ている防具に通じなかったからな。


 その事を思えば、やはり俺のカウント数は進んでないかもな。


 だが、第二層のルールを早々に見破った事は大きな成果だ。


 俺の超人化の段階を進めたいなら、さっさと階層を降りて次の強い敵と戦い、超人化のカウント数を進めればいいだけである。


 とにかく今日はもう色々と疲れた。

 難しい事を考えるのは後回しにしようと決め、俺は生活ゾーンへと戻る。



「はぁ……今日はもう休みます。あ、ミルキーさん!! 此処に第二層の敵から取れた素材があります」



 俺は生活ゾーンの一角でリュックの中から首輪と縄を取り出し、その場に置く。こうしたアイテムは契約が纏まるまで自分で持っておく必要があるからな。


 素材だけが詰められてる状態のリュックをリアカーに載せ、後はリアカーから大剣を取り出し、砕けた鎧となった第二層の敵の遺体と焦げたロングレッグの死体も渡す。


 これでとりあえず、全てのドロップアイテムは境界線の此方側にある。これ等を素直に提出するかどうかは契約内容によるな。


 外に出したリアカーを指差し、俺は一応の注意を飛ばす。



「あ、その焦げてる奴は帰りに遠雷で倒したロングレッグです。第二層で出る新種のブラックロングレッグとかではないですからね?」


『わ、分かった!』



 諸々の素材を受け取ったミルキーさんは嬉しそうに顔を綻ばせる。



『う、うん。色々とありがとう! じ、じゃあ、僕は研究があるから、トラックに戻るねッ!!』


『ちょい待ち、一人で運ぶと苦労しそうだから~……。おい、其処の君たち!! 彼女を手伝ってやんな!!』



 ミルキーさんがトラックへ戻ろうとすると、黒岩薙獲は近くに居た迷宮庁の職員を指差し、ミルキーさんを手伝う様に指示を出した。


 ミルキーさんは職員の手助けを受けながら、トラックへと戻っていく。


 その光景を見て黒岩薙獲は溜め息を零した。



『ったく、言われる前にその位の手助けはして欲しいんだがねぇ。何の為に此処に置いてると思ってるんだ? あいつ等』


「ま、まぁ……チエさんが俺と話してると、此処に近付き辛いんじゃないっすか?」



 黒岩薙獲は迷宮庁のTOPでもあり、ダンジョン混迷期に活躍した英雄でもある。普通ならば、話し辛いと言うか、近寄り難い存在だろう。


 けれど、そうした俺の一般人視点の説明をしても、彼女は露骨に不満そうだ。



『それはそうかもだけど……ん?』



 話の途中でスマホが鳴る、もちろん俺のじゃない。


 すると黒岩薙獲は此方から距離を取り、少し離れた所で通話を開始し始める。


 どうやら彼女にも普通の社会人的な感覚は残ってるらしい。気にせずに目の前で話を始めると思ってたが。


 まぁ、そうでもないと迷宮庁のトップになんて成れる訳でもないか。



『え? 本当に?! うん……うん。うわ~マジかぁ……え? それで?』



 とは言え、普通に通話内容は聞こえてくるな。そして、どうやら結構重要な内容らしい。


 更に言うと、『俺にも関係』がありそうな雰囲気がぷんぷんとしている。何故なら黒岩薙獲のチラ見の度合いが凄まじいからだ。



『え? レポート? いや、でも……第一層の敵でしょ? うん、そりゃ分かってますよ! 彼しか居ないってのは……えぇ、はい。でも、今は少し疲れてまして……』



 そのまま渋る様な対応を続けていた彼女。


 が、最後には『分かりましたよ……今すぐに伝えますよ』と少し不貞腐れた感じで通話を切った。そして直後に此方へと振り向き、後ろ頭を掻きながら近寄ってくる。



『お疲れの所悪いけど、次の異常事態が発生した。どうやら青森に出る敵は奥多摩の第一層で出る新種の敵しか居ないらしい。既存の敵は居ないんだとさ。あと新規の殺し場もあったらしい。とりあえず光る池があったって』


「え!? 青森にもですか!!」


『そう。チキンロングレッグ、ビッグホーンビートル、フィンガーキャタピラー、Bマウス、ティースフイッシュが居たらしい。虹色魚とあの蝶はまだ見付かってないらしいけどね』


「そんな……それじゃもう、此処と向こうに何らかの因果関係があるのは確定じゃないですか。第二層とか、他の層には新種は居ないんですか?」



 俺の問い掛けを受けて黒岩薙獲は言葉を詰まらせ、目線を彷徨わせ始める。



『じ、実はさぁ……青森のダンジョンには第一層しか無いらしい。第二層への階段が見付からないんだって』


「――っえ?」



 その情報を受け、俺の頭が真っ白になった。


 だって、そんなの明らかな異常と言うか……何がどうなってんだ!?


 俺はもう自分で考える事を放棄し、素直に尋ねた。



「チエさん。ダンジョンの階層が一層しか無いとかあり得るんですか? やっぱり、新たに出現したダンジョンだからまだ完成してないとかですかね?!」


『う、う~ん……出現したばっかりのダンジョンと言えど、流石に第一層しか無いのは異常かな?』


「だったら……これは一体」



 俺はそう呆気に取られた口調で言葉を呟いたが、言葉とは裏腹に脳内では徐々にある考えが浮かび上がってきていた。


 青森ダンジョンは俺が第二層へと歩を進めたから出現した。その事はまだ確定された情報ではないが、色々な状況を考えればかなりの高確率でそうだろう。


 そして俺が第二層へと進んだと言う事は、言うなれば『第一層を制覇した』とも言える行為でもあり、即ち――



「俺が攻略した階層が、青森に?」


『だと思う……』



 俺が呆然と呟いた言葉を聞くと、彼女も賛同してきた。


 やはりこうした考えは誰もが思い付く事らしく、黒岩薙獲も真面目腐った表情を浮かべていたが――突如として『ニッ』と笑う。



『だったら……最高じゃん?』


「はい?」


『だってそうだろ~? 君が奥多摩ダンジョンの攻略を進めていくと、新種が出るダンジョンとして、青森のダンジョンに階が追加されていくんだぜ!? これはもう、君を応援するしかないって世間も認識する筈さ!!』


「それは……」



 確かに、そういう見方もあるのか。


 あまりの衝撃で其処まで頭が回っていなかったと言うか、黒岩薙獲がポジティブ気質だからすぐにそうした思考へ辿り着けるんだろうな。


 彼女は更に俺が手にしていたメモも指差す。



「ヒトリ君!! 今後はそのメモも貴重な取引材料になるよ!! 今までは他では使えない情報だったから、そうした取引には使えないアレだったけど、他にも此処と同じ様なダンジョンが出るのであれば、先行して情報を集めてくる君のメモは大きな価値となる』


「た、確かに」



 今までの俺は情報を売るとか、そういう考えは脳裏に無かった。


 それは黒岩薙獲の言う通り、此処で集めた情報は他では役に立たないと思っていたから、情報を売ると言う発想に至らなかったのだ。


 政府から貰う普通のダンジョンの知識は此処でも幾つか通じたが、此処での情報は普通のダンジョンだと攻略の役に立つそれじゃなかったし。


 だが、青森に奥多摩と同じ様なダンジョンが生まれたのなら、何もかもが改善する。そう……何もかも、だ。



「つーか、こうなってくると俺に新種の死体集めの依頼とか、そういうのは来なくなる恐れがありません? だって、俺が階を進んで本当に新規の階や新種の敵が青森に追加されるんなら、その時に他の探索者が集めた方が効率的でしょうし」


『短期的な思考をするなよ、早漏ボーイ。それは君が絶対に階を進めると言う保障がなければできない行為だ。私は君が絶対に其処を出ると信じてるが、GD9や日本政府はそうじゃないだろう。常に新たな敵の死体集めを君に依頼しておかないと、もしも君が死んだ場合、それが二度と入手できない可能性があるんだからな』


「なるほど……確かに。と言うか、今すごい不名誉な呼び方しませんでした?」



 ともかく、黒岩薙獲の指摘は確かにそうだ。


 新規の階が開通するのを待ち青森に新種が現れてから、他の探索者に死体を集めさせるなんて行為は、俺が死なない事を見越して行う必要がある。


 それに死体集めの依頼が来ないと俺のやる気が薄れていく可能性もあるし、GD9はともかく、日本政府は絶対に継続してそうした依頼を頼んでくる筈だ。


 そして黒岩薙獲が指摘してきた情報の売買、今後は新種の敵の情報や階毎の情報を売れる可能性が出てきた、と言うか確定で売れるだろう。


 第一層の情報に関してはもう手遅れだが、まさかこんな事態になるとは想定してなかったので、それは仕方ないと割り切ろう。


 にしても、凄い事になってきたなぁ~……。


 俺の行動によって世界にこうした変化が起きるだなんて想像もしてなかったぞ。


 逆にその事で俺が応援されると言うか、世の中の人達から期待される様になるのか?


 別にずっと憎まれていたりしたかった訳じゃないが、そういう反応を受けても何だかなぁ……って感じ?


 そうした感想を抱いていると『それでさ……』と黒岩薙獲が気まずそうに口を開く。



『今後の為にさ、ヒトリ君が遭遇した第一層に出るモンスターのレポートを提出する様に、日本政府から要請があってさ……』


「モンスターのレポート……? つまり、奴等の特長とか弱点を記せと? でも、そんなの既に向こうは知ってる筈では?」



 俺は第一層に出るモンスターの情報と言うか、そういうのは素直に伝えていた筈だ。


 そりゃ紙に書いてそうした情報を伝えて居た訳ではないが、自衛隊の人達が記録して報告していたのでは?


 俺がそんな風に困惑していると、黒岩薙獲が『にんまり』と笑みを浮かべながら言う。



『分かってないなぁ。これは正式な依頼だよ? つまり、君の情報には価値があると上が認めたのさ。更に言えば、青森の件で今後もそうした情報は必要になってくる可能性は高い。だから既に知ってる第一層の情報でも、高値を支払って金を渡し、今の内に君のご機嫌取りをしたいのさ、日本政府は』


「……なんと」



 第一層の情報に関しては既に取引できないと思っていたが、まさか向こうから逆に提案してくるとは。でも、確かにそうしてきた事は素直に好印象である。



「分かりました、書きます。じゃあ、新しいノートとペンを下さい」


『うん、そうしておきな。ちなみに第一層に関する情報提供の依頼報酬は一億だよ』


「ち、ちょっと待って下さい。一億!? なんで蝶の報酬より高いんですか!?」



 俺のご機嫌取りの為か? でも、そうだとしてもインフレが激しいだろ。



『そりゃ人命に関わってくるからさ。情報の有る無しでは生存の可能性に大きな差が出てくる。今の第一層しかない青森のダンジョンは、暫く日本の初心者探索者が活動する事になるだろうし、君が齎す情報はそうした彼女達の手助けする必須のソレになるのさ』



 人命、と聞いて俺は意識がハッとした。


 そうか……今までは、俺が奥多摩ダンジョンを封鎖していたから、その間は誰も日本のダンジョンで命を落とす事は無かった。


 だが、青森に新規のダンジョンが出現した所為で人が死ぬ可能性もある。いや、絶対にそうなるのだろう。探索者と言う職業は厳しいと、既に俺も理解しているから分かる。


 そう考えると、気を抜けないなと気合が入る。



「分かりました。俺が知る第一層の情報を正式に政府へ提供します。探索者の人達はもう、俺の同僚ですからね。是非、手助けさせて下さい」



 報酬なんか要らない、とも言おうと思ったが、今の状況を考えれば格好付けてる場合じゃないので口にしなかった。


 それに報酬の無い仕事だと『手を抜くかも?』と相手に思われる危険性があるかもだし。


 すると俺の返答を聞いた黒岩薙獲はわざとらしく『ひゅ~』と口笛を吹く。



『うん!! クールで格好いい回答だねぇ、冷え冷えだよぉ。ヒトリ君から貰ったこのダウンジャケットが無ければ凍え死んでたね、私は』



 褒めてるのか煽ってるのか分かんない反応をやめてくれ。


 とりあえず、俺は指示通りノートにモンスターの特徴を記していく。


 どういう書き方をされているか、と言う目安の為に、以前に政府から貰っていた限定種の資料を取り出し、それを参考にしながら分かり易い書き方をしていく。


 だが、その途中でふと気付いた。



「そう言えば、レポートに載せるモンスターの姿をなんで絵で記載するんです? 死体を外に出せるんなら、そこで写真でも撮ればいいのでは? 古いカメラとかを使えば、そもそも中でも写真を撮れません?」



 こうしたモンスターの資料と言うか、限定種のモンスターの姿も絵で記載されている。俺が最初に手にした普通のダンジョンに出る『ゴブリン』とかの資料も、絵で表現されていたのだが、今思えばなんで絵なんだろう。


 その事を疑問に思って尋ねると、黒岩薙獲が事も無げに言う。



『カメラや写真を使用しないのは致命的な情報流失を避ける為だよ。絵なら、万が一情報が流出しても決定的な証拠にならないだろ?』


「あぁ……なるほど、『いや、これは自分の趣味で書いた物です』とか言って、いざと言う時はモンスターの情報を誤魔化せる可能性がある訳ですか」



 写真でも『CG』だとかで誤魔化せる可能性はあるが、やはりリアリティはあるだろうし、細工されてるかどうかも見分けられる危険性が高い。


 しかし、絵で情報を記したのなら、決定的な証拠にはならず、万が一の場合には誤魔化せるんだ。



「GD9も結構、そこ等辺の事を考えてるんですねぇ。探索者に写真付きの情報を持たせてたら、流出の危険性が高いと思ったわけか。まぁ、探索者の方も多く居ますもんね」


『そうだね、GD9はまずは情報の流出を危険視した。そして何よりも……探索者達の体面と言うか、迫害される危険も減らしたかったんだよね』


「迫害? どういうことですか?」



 突然と物騒な話になったので、思わず手を止めて顔を上げる。


 すると黒岩薙獲は両肩を竦めながら語り始めた。



『な~に、簡単な話だよ。中層やら深層から出始める化け物共はそりゃ凄い見た目な訳だよ。まさにモンスターと言う風情でね。初めて見た時は私でさえビビった。で――そんな超人でも恐怖する相手を、私達は実際に倒せてしまう。なら、一般人から見たらどっちがモンスターになると思う?』


「それは……」


『そりゃ今の世間でも超人は色々と言われてるよ? 「歩く核兵器」だのがその一例だね。でもさ、やっぱり見た目は普通な人間だから、あんまり怖がれはしないんだよね。人に懐いてるライオンみたいな見方はされたりするけど』



 後半の例えはよく分かんないが、確かにそうだ。


 俺も最初は黒岩薙獲の事を嫌ってはいたが、怖がってはいなかった。そりゃ境界線越しに顔を合わせていたお陰もあるだろうが、潜在的な恐怖を感じた事はそんなに無い。


 世間では探索者を辞めた超人が積極的にTVに出て居たりするが、アレは今思えば世間に超人と言う存在を受け入れて貰う為のアピール活動の一つだったのか?


 しかし、もしも詳細なモンスターの写真、特に深層に出るような強敵のモノが世間に出回ってしまえば……そのイメージが崩れる、のか?


 そう理解しつつ、実際に口に出す。



「超人達が戦ってるモンスターの詳細な情報と言うか、写真がハッキリと公開されてしまえば……超人達への見方が変わってしまうと、GD9は恐れた?』


『そうだね。つーかさぁ、そもそもモンスターの詳細な情報を世間に知らせるメリットなんかないだろ? 奴等の歪な好奇心を満たした所で、私達が変な目で見られる危険性が増えるだけだ。だから、GD9は徹底してそうした危険性を排除してるんだよ』


「なるほど……」



 世間は厳しい。

 その事は多くの誹謗中傷を受けていた俺も理解できている。


 そんな話をしながら、俺は入り口で休みながら急遽『第一層で出るモンスターのレポート』を書き記していく。


 そうした中で黒岩薙獲は「あっ、そうだ」と呟き、懐から例の紙飛行機となった契約書を取り出した。



『ねぇ、ヒトリ君。これさ……破り捨てるね?』


「っえ?」



 突然の提案に意識の反応が遅れた。


 そして――此方の返事を待たず、実際にその契約書は彼女の手で盛大に破かれてしまう。


 その光景を唖然と見届けていると、黒岩薙獲は高笑いする。



『あ~っはっは!! 残念だったなぁ、日本政府ぅ!! 青森の件で此方がアドバンテージを握ったぞぉ!? こんな安い額でヒトリ君を扱き使える状況じゃ無くなったんだよぉ!!』



 その言葉は確かに頷けるモノがあった。


 俺が奥多摩ダンジョンの階層を突破する度に青森に新規の階層が出現し、新種の敵が狩れる様になるならば、日本も大きく得をする事になる。


 代わりに既存の敵は国内で狩れなくなっているのだが、既存の敵を狩りたいなら海外のダンジョンを利用すればいい。


 そして日本国民の俺へ抱く怒りの感情も、普通に使えるダンジョンが現れたともなれば大きく薄れるだろうし、それ所か良い方向に傾く可能性すらある。


 とは言え、だ……



「チ、チエさん。青森の件はまだ確定した状況じゃないんですよ? 此処と青森の繋がりが確定するとしたら、俺が第二層を突破した時に変化が起きたらです。一回だけだと偶然の可能性もありますし……」


『細かい事を気にすんなってぇ!! 殆ど確定みたいなもんだろ!! 此処と青森に大きな関係があるってのはさ!!』



 まぁ、俺が第二層へ進んだタイミングで奥多摩と青森で地震が起きて、青森のダンジョンには此処と同じ新種の敵が居て、第一層しか無いともなったら、確かにそう思えるけど……。


 黒岩薙獲は細かく千切った契約書を紙吹雪の様にして、俺へと投げつけてくる。



『はははは!! おめでと~ヒトリ君!! 今日は今までの君の苦労が実を結んだ日だぞ~』


「……そうですね!! ありがとうございます、チエさん」



 俺は素直にその言葉を受け入れた。


 色々と多くの疑問はあるし、今後はどうなるか分からない。それでも今の状況は改善したと思う。


 ならば、今は素直に喜んでおこう。俺はそう思いながら笑みを浮かべた。





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