私へ紹介された婚約者は、銀髪の美少女でした

天良みーや

毎日1回キスをする

第1話 銀髪の婚約者

『むかしむかしあるところに、髪の長いそれはそれは美しい少女がおりました。もちろん、その美貌は何人もの男の心を奪い、少女の元には何人もの男が婚約したいと言いに来ました。

しかし、少女はどの男にも心を惹かれなかったのです。

​───少女は同性しか愛せなかったから。

そしてその少女にも、1つの出会いがありました……』

「……ふぅん」


 私は読みかけの本を一旦閉じでベットに仰向けになった。


「同性しか愛せない……ね」


 そのまんま、今の私だ。

 私はミアリス・アリエットという。15歳になるが、未だ婚約者が出来ないままでいた。……それは、この本の主人公と同じ理由で。


 なぜか女の人達だけに目が惹かれる。美しい女性を見ると目が離せない。

 1度、本気で恋に落ちた人がいた。その人は私と同じ年齢で、その歳にしては異様なほどの美しさを持っていた。その優雅な仕草や落ち着いた表情、何もかもに心を奪われ、気づけば同い年のその少女に恋をしていた。その日から何度もその子のことを考えるようになって、頭がその事でいっぱいになることだってあった。でも、そんな美しい少女に婚約者ができないはずがなく、その子はなんと隣国の王家の令息と婚約を結んでいた。

 そこで恋が呆気なく終わってから、私はすっかり冷めてしまい、叶わない恋なのかと恋をすることさえも諦めていた。

 私はただの取り柄のない令嬢で、婚約するのはどうせ男だ。そしていずれ両親に強要されて婚約させられる。

 だから​──


 コンコン

 ノックの音がした。


「……入って」

「失礼します、お嬢様。今日婚約を希望なされる方がご訪問なされますので準備を」

「うん、わかった」


 また、どうせ男だ。

 名前はリンフィと言ったか、少し女の子っぽい名前だけど、そんなの今どきいくらでもいるだろう。


「マリ、ドレスはあのいつものでいいから」

「かしこまりました。今手元にあります」


 メイドのマリが手に持ったドレスを私に渡す。婚約のおねがいは私に対してそんな大事なものでは無いからと、いつもこのシンプルな着やすいものを選んでしまう。

やっぱりいつかはとびきりオシャレをする時が来るんだろうか。それはいつなのか、私には全く検討もつかない。


 着替えが終わり万全な状態に入った。


「お嬢様客室へ」


 ちょうど来たようで、私が部屋を出るとマリは客室まで付き添った。


「失礼します」


 私は部屋に入る。

 そこにあった光景は、私が全く想像もしなかった事で、あまりのことに体が固まり、動けないでいた。声も出ない。

 そこに座っているのは銀髪の美少女だ。間違いない。


「……この度はご招き頂き誠にありがとうございます。リンフィ・ナイジェと申します」


 少女は口を開いた。

 一瞬、私の目がおかしくなったのかと思った。鈴の音のような心地よい声で銀髪の長い髪に赤い目をした小柄な少女だ。

 一瞬女装でもした男か? とも思った。でも多分違う。こんな大事な時にそんなことはしないはず。


「……ぁ、あ、私はミリアス・アリエット……と申します……」


 互いに両親のいない一対一の会話だ。これは聞くべきだろうか。

 少しの間、沈黙が続いた。私はその状況に耐えられず、とにかくなんでもいいからと質問をした。


「……あ、あの。どうして……婚約を……」


 まだ少し動揺が残っているのか言葉が詰まってしまった。

 少女は、少し悩んでから静かに口を開いた。


「……私が、あなたに恋をしたからです。恋をしたことに、異性も同性を関係ないですもの」


 ……確かに、そうだけど。そうじゃない。

同性だと城の跡継ぎだって出来なくなってしまうだろうし……。それに……


「私……、あなたに会ったことないし……」

「あなたは覚えていないでしょう。いつかの舞踏会で、私を助けてくれた。あれは忘れもしない。あの時、落ち着いた表情で私を助けてくれる様子はとっても優雅でした……」


 うっとりとした表情で語る少女は、明らかに恋する乙女の目だった。


「……そ、そんなに……」

「……私の婚約者になりませんか……? 絶対に後悔させません。この思いが尽きることなく、あなたを全力でサポートし、愛し続けると誓います」


 なんか……話についていけてない気がする……。

 リンフィは真っ直ぐと私を見つめている。どれだけこのことを夢に見てきたのかは分からない。ただ、私だけを見てきてやっと夢が叶ったかのように目を輝かせているのはわかる。彼女にとって、このチャンスは人生をかけたものなのだろう。私にとっても人生で1度もないようなチャンスだ。……受けない手はない……と思う。


「実は、私も女の子しか好きになれなくて……凄く嬉しいんだけどまだ混乱してて……」

「じゃあ、一旦保留、ということですか……?」

「い、いや、そうじゃ……なくて、私はまだあなたの事をよく分からないから、毎日……1日1回、キス……を、させてほしいの……」


 何を言ってるんだ、私。

 でもこれを逃すと、私は一生後悔すると思ったし、せっかくなら婚約者だしこんなことも……と思ってしまっただけだ。キスだけじゃ収まらなくてあわよくばあんなことやこんなことを……なんて下心は一切ない。多分。


「とにかく……まあ、そういうことで……!!」


 恥ずかしくて思わず目をそらしてしまった。


「……本当、ですか……?」


 私が頷いた瞬間、リンフィの目はとても輝いていた。


「私のことはリンフィと呼び捨てで構いません、私、今まででいちばん嬉しいです……!!」

「私のことは……ミリアス、って呼んで。私も、嬉しい……」

「では、その約束のキス……いまやらせていただいてもよろしいでしょうか……」


 リンフィが顔をグッと近づけて言った。

 ドアの前にいたメイドはいつの間にやらいなくなってしまっていた。

 誰もいないし……と私は目を逸らしながら控えめに頷いた。

 するとリンフィは人が変わったように私の近くに来て私の顎を持つ。小説で呼んだ顎クイって言うのはこれの事か。そんなことを思っているとリンフィは少し強引に唇を重ねた。

 柔らかくて、一瞬何も考えられなかった。

 リンフィは口を離すと、私の真っ赤になった顔を見て、「可愛いですね……」と呟いてもう一度キスをする。私はされるがままにリンフィに体を預けた。

 するとリンフィの舌が私の口の中に入ってくるのを感じた。リンフィの舌が私の口の中で動き回って音を立てる。

 私はあまりにも突然のことに頭が考えることをやめてしまっていた。

 舌が絡め合い、私の口から「ん……」と声が漏れる。苦しいはずなのに、気持ちいい。キスだけで頭が蕩けてボーッとする。

 リンフィが口を離すとお互いの出しっぱなしになった舌から唾液が糸を引いているのがわかった。


「……もっと」


 気がつけば口から漏れていたこの言葉に私はハッとして口を抑える。


「なぜ口を抑えるのですか。もっと、でしょう?」


 リンフィは私の手を離してもう一度強引なディープキスをした。

お互いが強く求め合うように抱き合って、舌を絡める。


 ……毎日こんなのが続くなんて、私は自分で考えたことながらどうなるんだろうと思ってしまった。

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