第218話 クリスマス大宴会 その五

「──あ、思ってた以上に美味い」

「だろ?」


 巫女乃先輩が作ったパスタ揚げ、超カリコリしてて癖になる。塩気もあって酒にも合う。本当に酒のツマミだコレ。


「いやー、確かにコレは良いですね。苦労して作る甲斐がある美味さです」

「……うっせぇ」

「ボタンがここぞとばかりに煽ってる」

「いやまあ、わっちゃわちゃだったからねぇ……」

「慣れてないのに揚げ物はするもんじゃねぇッスよ」

「うーるーさーいーでーすー!」


:草

:草

:草

:ハニャビが歌ってる時に悲鳴聞こえてきたからな

:草

:草

:不貞腐れてる巫女様可愛い

:草

:草ですわよ

:まあ揚げ物はね……

:草

:奥の方で山主さん忠告してたらしいしな

:草生えるw


 いやでも実際、これぐらいの弄りは受け止めるべきだと思うんですよ。巫女乃先輩、初っ端からそれぐらいやらかしてくれたもの。

 ちゃんと水気拭えって言ったのにさぁ、もう……。雷火さんが歌ってる途中で、キッチンから『わぁぁぁ!?』って聞こえてきた時は皆驚いたからね。何事かって思ったもんガチで。

 どうも巫女乃先輩、茹でたフジッリを軽くしか拭わなかったみたいで……。サクサクッと終わらせるつもりが、予想してた以上に時間が掛かって焦ったらしい。

 で、若干水気が残ったフジッリを、これまた焦って一気にザラッと油の中に投入してしまったらしく。……バッチバチに油が跳ねて凄いことになってました、はい。

 まあ、幸いにして怪我とかはなかったし、飛び散った油もサクッと掃除できる程度だったので、大事になったわけではなかった。

 ただ料理に慣れてなかった巫女乃先輩が、予想外の事態に悲鳴を上げただけで終わった。……だからこっちも弄れるわけだが。


「まあでも、コレは本当に美味しいからね。そこは素直に胸を張って良いと思うよ? 合間合間で摘むには最適な感じ。お酒にピッタリ」

「そうですよ! パスタがこんなポテチみたいになるとか知りませんでした! 凄いですよ美琴先輩!」

「お前ら……」

「それにコレと山主君のお肉を合わせると、なんかすっごい美味しいよ! クリスピーサンドみたいな!」

「サンちゃん先輩、それは何か違くないっスか?」


 いつの間にか常夏先輩が妙な食べ方を発明しとる……。添え物として一緒に出しておいたバゲットに、プルドポークを載せて、さらに巫女乃先輩のパスタ揚げをまぶしてた。

 いやまあ、不味くはないと思うけども。パスタ揚げは、言ってしまえばハードな食感のスナック菓子だし。しかもただの塩味だから、味の主張も控えめだし。

 でも、にしてもじゃない? すっごいガツガツいってるけど、それそんなに美味いんですか? 傍から見てると、パスタの欠片が口の中に刺さりそうな勢いですけど。


「いや、本当に美味しいんだよコレ!? お肉はトロトロだし、そこにパスタのアクセントがベストマッチでね!?」

「言ってることは分かりますけど、せめてパスタは砕くなりなんなりするべきでは……? そのままだと食感の主張が強すぎな気も……」

「やっぱりボタン君って料理男子ッスよね」

「料理男子ではねぇです」

「本当に頑なに拒否するんだね山主君……」


 人には越えてはならない一線ってもんがあるんですよ四谷先輩。


「──で、一花さんや。そろそろ歌入れるべきじゃない?」

「うん? あ、そうだねー」

「……一花先輩、わりと黙々と食べてたッスよね」

「ですね。あのビーフシチュー気に入ったんでしょうか……?」

「あ、あはは……。ちょっと思ってた以上にお酒が進んじゃって……」

「一花さんや。だからってトーク全投げはどうかと思うよ?」

「いやなんか、見守りモードに入ってたというか……その、ね?」

「気分までママみたいになるのはどうかと思うんですが」


:草

:草

:うーんこれはママ

:草

:めっちゃ優しい目をしてそう

:これは清楚

:草

:草

:さすがはデンジラスのママ

:草

:そして山主さんの嫁

:草

:VTuberとしては失格

:草

:旦那の手料理を味わう嫁の鑑

:草生える


 センシティブなコメントはやめなー? 事実である以上はマナー違反とは言わんが、カップリング系のネタはコメント欄が荒れる原因になるからさ。できれば控えてもろて。……指摘したら余計に荒れるから無視するけども。


「えーと、じゃあ……うん、決めた。いまからいれ──」

「できましたよー」

「うわっ!? え、帰蝶ちゃん早くない!? もうできたの!?」


 ここでまさかの夜光先輩がインターセプト。曲を入力しようとしていた天目先輩の手が止まる。

 まあ、そういう反応をしてしまうのも分からなくもない。夜光先輩がキッチンに向かったの、五分ぐらい前だし。

 雷火さんが歌い終わったぐらいで、巫女乃先輩のパスタ揚げがテーブルに到着。で、実食を兼ねて小休止してたのがいまの時間なわけで。

 それで『そろそろ歌うかぁ』ってなってたのに、追加の料理が出てきたんだからビックリである。出鼻を挫かれるにほどがある。


「一体どんな手抜き料理を持ってきたんスか……」

「あ、ひどーい。ちゃんと食べられそうなものだよー?」

「それは語るに落ちてるんスよ」


 できれば『食べられる物』を作って持ってきてほしかったなぁ……。


「……アレ? でも、ちゃんと美味しそうですよ?」

「あ、ハナビちゃん分かってるー。でしょでしょー?」

「……いやまあ、美味しそうなのは認めますけど。帰蝶先輩? これ、ほぼほぼコンビーフそのままですよね?」

「見ての通りだよ?」


 そうですね。皿の上にレタス敷いて、その上にコンビーフを八個そのまま並べて、並べた隙間に温玉四個落として、上から刻み海苔をまぶしてますね。


「帰蝶、本当にそういうところッスよ……」

「えー。ちゃんとごま油と塩で味付けとかしたよー?」

「そうじゃなくて、せめてコンビーフ解すぐらいはしましょうよ……」


 すげぇなこの人。簡単な一品料理って意味では間違ってないけど、配信、しかもコラボで臆面もなくコレを出してくるとか……。

 いや、美味いよ? 料理としては間違いなく美味いよ? だって市販品をほぼそのまま組み合わせただけだもん。市販品が美味いんだからそりゃ美味いよ。

 でも、四谷先輩のツッコミがすべてなんよ。せめてコンビーフを解すぐらいはしましょう? 八つ全部四角いんですけど。

 ちゃんと向きを揃えて、丸くなるように置いてるじゃないですから。それなら一旦ボウルに開けて、そこでヘラかなにかで解してから盛り付けましょう? ビジュアルもそうですけど、そのままのコンビーフってわりと硬いですからね?

 てか、そりゃ早いわ。三分ぐらいで完成するのも納得だわ。事実上盛り付けしかしてねぇんだから。


「いやはや、この子は本当に相変わらずだねぇ。山主君とは別の意味で肝が太いというか……」

「まあでも、美味しいとは思うよ?」

「逆にそれがタチ悪くない?」


 常夏先輩に同意。簡単な一品料理って条件はしっかりクリアしてるし、その上で味の心配もまずないから、絶妙にツッコミを入れづらい。

 ノリというか、ジャンルが完全に自宅での手抜き晩酌メニューというか。ひとり飯の精神がなきゃコレは出せねぇんだわ。……とりあえず、配信的には面白いから写真撮ってスタッフさんに投げとくけど。SNSの公式アカウントの方で放流してほしい。












ーーー

あとがき


なんか紙の三巻、Amazonの在庫切れてて草ですわよ。多分ゴールデンウィークだからだろうけど。


……もっと買ってもっと買って買って買って買って買って!!!!



あと、前回のあとがきについて反応が多くてビックリ。皆【らいか】って読んでたんだね。……まあ、私も打ち込む時は『らいか→雷火』って打ってるから、気持ちは分かるんだけど。

じゃあ最初からライカにしろ? ……いろいろあったんや。


まあ、えーってなってる皆さんに魔法の言葉を送ります。


『公式が勝手に言ってるだけ』


実際問題、読者がキャラをどう呼ぶのかは自由ですからね。渾名の範疇っちゃ渾名の範疇ですし。どうせ小説にしろ漫画にしろ、ちょろっとルビが出る箇所以外は基本【雷火】としか書かれないですし。

そりゃあ、映像化すればまた違ってくるんでしょうけど……え? 皆さんがさせてくれる? じゃあそのために小説版一、二、三の購入、コミカライズ版の購入、及び周りの方々への布教をよろしくお願いします。





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