第211話 全員集合、クリスマスコラボ……の前 その一
「──それじゃあ、よろしくお願いしまーす」
「はーい」
スタッフさんたちに頭を下げた後、それぞれの作業に移る。
今日は待ちに待ったクリスマスコラボ。デンジラスメンバー全員参加の、カラオケ&料理企画である。……まあ、ちょっと早いクリスマス会みたいなものだ。
ただ少しだけ特殊で、コラボ会場が俺所有の料理スタジオなのである。そして今回は全員が3Dモデルを使用するため、スタッフさんが機材諸々の準備のために奔走してくれているわけだ。
で、俺はその付き添いで早入り。スタジオの鍵を開けたりとか、こっちで用意していたカラオケ用の機材をパスしたりとか、まあそういう感じだ。
ただそれ以外では、準備段階では他に特にやることもない。そのため、早入りを利用して時間の掛かる料理を作ろうかなと。
なんなら、そのためだけにクッソ早くスタジオ入りしてるからね俺。午前ぐらいにはもうスタジオに来てたよ。作ろうかなと目星を付けてた料理が、思ってた以上に時間が掛かるやつだったからさ。
なお、天目先輩は通常の集合時間に合わせて来る形になっている。書類上で籍を入れたのは周知の事実となってはいるのだが、ガチの関係であることは一応隠してるからね。……まあ、皆さん薄々と勘づいてんじゃねって気もするのだが。
「ええと、次は……」
ま、それはともかく。料理である。と言っても、もうほとんどの調理工程は終了しているというか。火入れして放置の段階に入っているので、そんなにやることはないのだが。
とりあえず、いま作っている二品、鍋とオーブンの様子は見ておく。そんで……そうだなぁ。付け合わせでも作るか? いやでも、まだ早いし。あと、いまからそこまで手を伸ばしたら、本番中に作るもんがなくなるし。
「んー……」
「──おはようございまー……待ってもう凄い良い匂いしてない?」
「おん?」
この声……夜光先輩か。え、早くない? まだ集合時間より一時間ぐらいあんべ? 余裕持って行動するにしても早くない? なんなら遅刻してくると思ってたんだけど。夜光先輩、自他ともに認める駄目人間系だし。
「おはようございます。夜光先輩、どうしたんですか? めっちゃ早く来るじゃないすか」
「あ、ボタンちゃん。やっほー。いやねー、お姉さんもこんなに早く来るつもりはなかったんだけどさー」
「はい」
「ほら、今日は皆で一品は作るって企画でしょ? だからここ来る前に買い物してたの。そしたら予想より早く終わっちゃってねぇ。食材持って時間潰すのもアレだし、もうスタジオ行っちゃうかーって。一応、スタッフさんたちが先に入ってるのは聞いてたから」
「あー。なるほど?」
若干、当日に買い物するのかと思わなくもないが……まあ、そこは好みか。それに夜光先輩だしなー。律儀に事前準備するようなキャラじゃないのは間違いないので、普通に納得してしまった。
「んで、ボタンちゃんは? というか、何でもう作ってるの?」
「いやー、せっかくのクリスマスコラボですし? 一品か二品ぐらいは、手の込んだ奴を用意しておこうかなと」
「かぁーっ。相変わらずマメというか、変なところで真面目ねぇ。旦那が料理好きだと、一花先輩も鼻が高いんじゃないの? いやー、お姉さん羨ましいわ」
「夜光先輩もガソリン積んだ車に狙われます?」
「ゴメンだけどその返しはコメントに困る」
でしょうね。しかも実際に起こったことだからタチ悪いという。改めて考えても経緯が意味不明すぎるんだよな。
「あ、買ってきたの冷蔵庫入れて大丈夫?」
「どうぞ」
「はーい」
「ちなみに何買ったんですか?」
「配信が始まるまでのお楽しみー。あ、材料とは別にお酒は買ったよ」
「左様ですか。一応、酒類は俺の方でも用意してますけど」
「うん。そうだろうなとは思った。でもボタンちゃんだし。高いやつ買ってそうだから。私はやっすい缶チューハイとかも好きなの」
「へー」
「なんか意味深な反応」
台詞からも駄目人間の気配が滲んでんだよなぁ、この人。そして缶チューハイを片手に持った姿が凄い想像できる。
夜光先輩、ガワはカクテルドレスが素敵な大人のお姉さんなんだけどねぇ。実態は相当アレだし、なんならリアルの雰囲気にもそれが現れてるタイプの人だから……。
一応、事務所とかスタジオで会う時は普通の女性らしい格好なんだけど、オフの時は相当だらしないそうで。俺は実際に見たことはないのだが、他の先輩たちからの情報では、クッソ汚い部屋でダルダルの部屋着を着て生活しているそうな。
だからこそ、自他ともに認める駄目人間キャラで通っているという。泊まりに来た人に部屋を片付けてもらっているという証言もあるので、だらしなさは筋金入りなのだ。
「なーにー? お金持ちなボタンちゃんには、安酒の魅力が分からないのかにゃー?」
「何も言ってないんですけどね……」
「安酒ってのはね、酸いも甘いも噛み締めた大人だからこそ染みるもんがあるの」
「実はもう酔ってたりします?」
あと夜光先輩、大人とか言ってるけど俺と大して年齢変わんないでしょ。確か二十三だっけ? デンジラスの中だと三番目に若いって聞いたけど。
いや、お姉さんキャラでやってるから仕方ないんだろうけどさ。それにしたってこう……ね? 実態知ってると台詞が大分ペラく感じるというか。
「酔ってないですー。……それより、ボタンちゃんは何作ってんの?」
「見ての通りですが」
「はぁ……。それでもちゃんと答えるのがモテる男の秘訣だぞー?」
「生憎と既婚者なんで」
「……実際のところ、そこんとこどうなの?」
「プライベートの詮索はマナー違反でーす」
「からのー?」
「あんま人にやらん方が良いですよそれ。相手によっては拳飛んでくるんで」
「いや物騒すぎない?」
「探索者やってる連中の民度、大体それぐらいなんで。ガチの社会の底辺って、一般人の想像を余裕で突破してきますよ? もちろん下方向に」
「えぇ……」
ドン引きされてしまった。でも実際、世の中にはそういう奴もいるからね。なんなら結構多い。皆がイメージしてて、なおかつ自認してる『一般人』って実は上澄み側だから。現代社会は馬鹿の方が多い。それが多様性。
「ボタンちゃんって定期的に毒吐くよね……」
「じゃないとこんな炎上してねぇっす」
「──帰蝶がなんか微妙な表情してる。またボタン君が変なこと言ったんスか?」
「あら?」
ーーー
あとがき
切り上げ多数だったんでコラボ当日に。ただ全員集合してわちゃつく前に、未登場だったデンジラスメンバーにスポットを。
それはそれとして、今月忙しくて死にそう。場合によっては活動報告出すかも。
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