第210話 クリスマスコラボに向けて その二

 まず大前提として、俺はファッションブランド全般に詳しくない。当然、女性物のブランドなんか全然知らない。

 というか、ファッションブランドとか関係なしに、異性に向けたプレゼントのテンプレとか本当に知らない。好まれるブランドとかマジで分からない。

 いやまあ、完全に無知とまでは言わないが。プレゼントそのものの流行り廃りは疎くとも、作法的な部分は大体分かっているというか、個人的にベターなんじゃねぇかなと思われるものは確立できている。……この手の話題、SNSで定期的にバズるし。

 まず鉄板なのは、恋人じゃない異性に対するプレゼントは消え物ってやつ。一番無難なのは、やはり食料品。相手の好き嫌いを把握した上で選ぶのが最上だが、そうじゃない場合はスイーツ系が丸い。ついでに個包装だと望ましい。

 あとはやはり酒か。相手が成人していて、かつイける口ならこっちもやはり無難だ。というか、酒は贈答品として強すぎる。困ったら選んでおけって枠。あんまり人に物を贈ったりしない俺でも、それぐらいは分かる。

 んで、ここからは個人的なアレ。SNSで見た意見を参考にしたり、経験則から導き出した内容。……まあ、経験則とは言ったものの、プレゼントの相手は母親なんだが。

 学生時代から無駄に金回りが良かったこともあって、この手の季節系のイベントはちゃんとこなしてたんだよね。いろいろ自由にさせてもらってる感謝と、おもくそ迷惑かけてる謝罪を込めて。

 で、その度にありがたいお言葉を頂くわけですよ。『アンタ、彼女ができたら〜〜』とか、『女の子にモテるには〜〜』的な感じのアドバイス。……アレ本当に何なんだろうね? 俺ん家だけ? それとも、男の母親全般の標準装備だったりするの?

 んで、特に恋愛とか興味ないし、そういうこと言われも困るんだけどと思いつつですよ。邪険にするのもアレなので、聞くだけ聞いて頭の片隅に放り込んでいた結果、SNSとかの意見と合わさってなんとなく見えてくるものがあったわけだ。


『……こちらの入浴剤なんですが……』

『……あー、こういう香り好きなんですよね……』

『……こちらのバスボムはオススメ……』

『……ボディスクラブだと……』


──こういう時のバス用品って結構強い。服とかアクセサリーを贈るより、入浴剤や高いタオル贈った方がよほど喜ばれると。


「……」


 世の女性曰く、付き合ってもない男からアクセサリー、つまりネックレスだとか、イヤリングだとか贈られても重いだけらしい。鞄や服とか同様。値段やブランドとかも関係ないし、アピールにしてもちょっと……ってなるそうな。

 だから消え物が無難と言われているわけだし、事実そっちの方が喜ばれる確率が高い。なにせ食べきってしまえばそれで終わりだし、処理に掛かる時間も少なく後腐れもないのだ。そりゃそっちの方が気疲れしないだろうさ。

 ただ母曰く、それは逃げでもあると。食べ物は確かに無難だが、後腐れがないということは次に繋がらない。センスなどをアピールすることもできないので、相手の印象にも残りづらいと。……次など特に求めてないし、印象とかもどうでも良いのだが、それでも言わんとすることは分かる。

 そもそも今回のプレゼントは、配信上で渡すものである。つまりエンタメ。無難の中の無難に逃げるのはどうかなって部分はある。

 あと、単純に飯食ってる時だからな。カラオケ&料理企画なわけだし? 別枠でケーキとかも用意する予定だし? そんな中でプレゼントとして食べ物を渡すのもなって。……一周回って、海産物とかならネタとして消費できるかもだが。

 そんなわけで、今回はお菓子系はなし。その上で、母の薫陶に従った結果として、こうしてバス用品の店にまず足を運んだ次第である。


「あ、すいませーん」

「あ、はい。お客様、どうかなさいましたか?」

「実はちょっとプレゼントの方を探してまして……」


 ただ長々とそれっぽいことを語りはしたものの、バス用品に詳しいわけではない。あくまで贈るならバス用品の方が良いと思っているだけで、具体的に何を選ぶべきなのかは知らない。

 なので店員さん、特に話が分かりそうな女性店員さんに頼る。こういう時は即頼る。自分で選ぶことの意義も重々承知しているが、そもそも前提となる情報が不足している以上はどうしようもない。

 自分で選ぶ段階に至っていないのだから、一人で悩んだところで爆死する可能性が高い。……あとぶっちゃけ、こういう時に発揮される男のセンスに期待してはいけない。少なくとも、俺は自分のセンスとやらを信用していない。


「プレゼント。なるほど、もうすぐクリスマスですしね。そのお相手は一体どんな……彼女さんとかでしょうか?」

「いえ、そういうんじゃなくて。会社の同僚なんですけど。ただその、なんですか? クリスマス会的なの近々ありまして。それでプレゼント交換的なやつがあるので……」

「なるほど。となると、男性もいる感じでしょうか?」

「あー、かなり女所帯な会なので……。男もいなくはないんですけど、全員幹事というか。プレゼント交換というか、ビンゴ大会的なアレって言った方が正しいのかな? とりあえず、女性に渡るものではあります」

「……なるほど」


 身バレ防止のためにフェイクを入れつつ、店員さんに前提条件を伝えていく。ちなみに、ビンゴ大会的なイメージは嘘ではない。

 今回のプレゼントは、抽選を予定しているからだ。一人一人プレゼントを用意するのは、ちょっといろいろとアレだし。エンタメにも欠けるし。

 なので、この店でプレゼントをすべて揃えることはない。無難枠として二個ぐらいかな? あとマネさん用は選んでも良いかもって感じ。


「つまり、特定の女性に渡るわけではないと。えーと、女性陣の大まかな年代とかは分かりますか? あと、ご予算のほどもよろしければ……」

「ちょっと詳しくは分からないんですが、年代は若めかなと。まあ、二、三十代で考えていただけると。予算の方は五千円から二万円ぐらいで。それで二、三個選ぼうかなと」

「かしこまりました。ご予算の方は結構余裕がある感じですね。となると、こちらのクリスマス限定の詰め合わせパックとかいかがでしょうか?」

「詰め合わせ」

「はい。決まった誰かというわけではないとのことですので、それならプレゼントをコレと一つに絞るより、いろんな商品を試せるこういうパックの方が喜ばれるかなと」

「あー……」


 なるほどなるほど。確かにごもっとも。となると、その方向で考えるべきか。













ーーーー

あとがき


プレゼント選びに関しては、私や私の周りの意見を多分に参考にしております。

買い物はここで切り上げても良いし、続けても良いなって悩み中。まあ、コメントの反応次第でしょうか?


それはそうと、三巻よろしくお願いします。書影も出ました。一部店舗では特典SSもついております。是非ともご購入、ご予約を……!


あと、明日カドコミ、ニコニコ漫画の方でコミカライズ版の更新もあります。

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