第206話 3Dお披露目生配信 その二

「──駄目だったかぁ……」


:草

:草

:草

:草

:草

:草

:草

:草

:草

:草

:でしょうね

:草


 開幕からガワの3Dモデルが若干おかしなことになった。最後の六回転宙ひねりが駄目だったらしい。開幕を派手にしようとテンションを上げすぎたか。

 というわけで、トークも兼ねてクールダウン。幸い、ガワの異常はすぐに直ったので問題はない。六回転宙ひねり以外は順調だったので、技術的にもケチが付いたとは言えないだろう。……スタッフさんたちがザワついてはいたが。


「ま、気を取り直して! 本日は俺こと、山主ボタンの3Dお披露目配信に来てくださり、誠にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」


 改めて挨拶をペコリ。せっかく3Dになったわけだしね。ここはしっかり頭を下げる感じでいこう。と言っても、殊勝なのは最初だけだが。


「いやー、にしても凄いね3D。最後だけちょっとアレだったけど、しっかり動きとかついてこれてたでしょ? ブレイクダンスまで対応できるとか、技術の進歩を感じるよねー」


:分かる

:ダンスめっちゃ凄かった!

:カッコよかった!

:あそこまで激しく動いて大丈夫とはなぁ……

:時代は進んだ

:山主さんの踊りとか予想外すぎたわ

:昔とはエラい違いよな

:山主ってブレイクダンスできんのな。いや、できても全然おかしくないんだけど

:途中、人体じゃ不可能な動きしてなかった……?

:一昔前は服とかめっちゃ暴れてたもんなぁ

:科学の力ってすげー!

:山主の動きについてこれるなら上等よ

:めっちゃ良いモーキャプ使ってんやろなぁ


 ほんにほんに。表現力とかを抜きにすれば、プロ以上のクオリティで踊った自負はあるもん。技のキレとか激しさとかなら、ダンスって枠組みの上限付近に届いているはず。

 それでもギリギリまで耐えていたのだから、この時点で十分以上に健闘したと言っても良いのではなかろうか?

 なんなら、ファンたちへの還元も示せたはずだ。コメントにもチラホラあったが、今回使っている3D機材は極めて高価な代物である。はっきり言って、これまでのデンジラスなら絶対に手が届かなかったものだ。

 だが、跳ね上がった収益によってそれらを導入することができた。3D機材の他にも、各種備品のアップグレードが成されている。

 スタッフさんたちも、伊達にデスマーチに身を投じていないのだ。俺にまつわるトラブルの処理だけでなく、急拡大していく事務所を支える仕事もしっかりとこなしているのである。

 てか、だからこそ俺も許されてるのではないのかと思っていたり。差し入れの力だけでなく、事業の発展をダイレクトに実感できるからこそ、スタッフさんたちも『……まあ、しゃーないか』と文句を収めてくれているような気がする。


「このへんの表現というか、技術とかも見せたかったから、ダンス配信にしたのよね。料理だとほら、そんなに動かないしさ。3Dだともったいないかなって。あと、食材とかを映さないと魅力半減だし」


 食材の3Dモデルを用意するか、ワイプみたいな感じにしてリアル映像を付けるかしないとだから、お披露目配信だとねー。

 それとスタジオの問題ね。この配信、専用のスタジオでやってるから、料理がマトモにできねぇのよな。水場とかないし。設備的にまず無理だよねって話である。


「一応、探索者って特性を活かして、演武的なやつも案としてはあったんだけどね。ぶっ通しでやるようなことでもないのと、迫力出すには相当激しくやんなきゃならないので、今回は没になりました」


 ちなみにコレは表の理由である。裏の理由としては、超美麗3D配信で散々やってるから没になった。大国主とかドラゴンとか。あのへんのインパクトには、3Dのガワじゃ勝てなくねっていう。現実は悲しい。

 まあ、演武っぽいやつも需要はあると思うので、それっぽいやつを演目に入れてはいるんだけどね。ただかなり大掛かりかつ派手なので、全体のテーマとして据えるのは控えた感じだ。アレはどっちかというとトリとかにした方がインパクトがある。


「ま、そんなわけで。動作の兼ね合いと、見栄えとかを考慮した結果、ダンス配信になりました。……ちなみに、一番無難であろう歌は最初から選択肢になかったりします。やっぱりね、俺の一番の強みは運動能力だからね。仕方ないね」


:歌でも良かったんやで?

:草

:踊りながら歌ってもろて

:山主さん歌も上手いのに……

:えー!

:草

:山主の歌も聞きたいなぁ!

:草

:草

:せっかくの両声類なのにもったいない……

:お前なら歌いながら踊れるやろがい!

:残念

:歌って

:草


 いーやーでーすー! 今日はブレイクダンスの他にも、結構激しめの踊りをやるんだよ! わちゃわちゃしながら歌いたくねぇの! できるっちゃできるけどやりたくねぇ! 頭がこんがらがるわ!

 あと、クリスマスの大型企画でカラオケすんだよ! この段階で歌えるか! 企画被るわ! ……まだ発表されてないからキミたちは知らねぇだろうけどさ! ライバーにはいろいろ事情があるんですぅ!


「はいはい、文句言わない。こっちだってダンスはやり始めたばっかなんだから、無茶言うなっての。歌詞か振り付けか、絶対どっちか疎かになるわ。アイドルちゃうんやぞこっちは」


 公式設定は猟師やぞ。そんでリアルの職業は探索者やぞ。んな専門技術、そうそう習得してるかっての。無茶振りやめなー。


「まあ、代わりにダンスはちゃんと練習してきたし。いろんな踊りをみんなに披露できるかなって思ってるんで、それで勘弁してつかーさい」


 パンッと大きく手を叩く。とりあえず、オープニングトークはこれぐらいで。

 それと同時に暗転。段取り通り。ここからイントロがスタート。次は世界的な名曲。ダンスの神様と呼ばれた、伝説のアーティストが歌った一曲。

 ブレイクダンスのような激しい踊りではない。これから披露するのは『魅せる踊り』だ。絶対的な体幹と、人智を超えた身体操作能力がもたらす、テクニカルなパフォーマンスを刮目するが良い。


「てことで──It's show time!!」









ーーーー

あとがき


最近また読書欲が高まってる。忙しいのに……。

それはそうと、これからどうしよ? ここで切って次いっても良いし、ネタは一応あるから続けても良い。悩みどころ。



そんで宣伝を二つ。


まず、明日Webのコミカライズ版が更新されます。カドコミ、ニコニコ漫画でお読みください。


そして二つ目。三巻の追加情報! 三巻には販売特典でSSがいくつかあります! 詳しくは公式情報をお待ちいただきたいのですが……!

SSの内容は──グルメです。Webや書籍向きではないグルメネタで作っておりますので、是非ともご購入ください。



買って!!!!!!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る