第194話 銀世界でコーヒーを その三
「んじゃ、まずは焚き火から始めようかな。やっぱり寒いしねー」
ま、ここはちゃちゃっとやってしまいましょう。てことで、薪の用意から。……はい、空間袋からズルっと木を取り出しまして。
「で、邪魔な枝を全部落として、手頃な大きさの丸太を切り出します。それを使いやすいサイズに刻んで、その一部を焚き火台にセット。ちなみにいま出した木ですが、この階層に来る前に、ダンジョンに生えてたやつを適当にぶった斬って持ってきました」
︰うぉいっ!?
︰急に木出てきたな!?
︰デッッッッ!?
︰草
︰行きがけに採ったんかい!
︰一瞬で薪ができてら……
︰前から何度も見てはいるけど、こうして山主視点で見ると迫力すげぇな
︰うわすっげ
︰草
︰めっちゃ足場悪いのにようやるわ……。撮影機材ギリギリ広げきれるぐらいの場所なのに
︰重機並の動きを生身でやれるの、本当に無法よな
︰山主目線になったことで、臨場感が馬鹿上がりしてる
︰良き良き
良し。薪の準備はこんなもんだろう。生木は燃えにくいと聞くが、一部は火種用に細かく刻んでいるので大丈夫なはず。……まあ、駄目だったら別の手段を取るだけだ。やりようなどいくらでもある。
とはいえ、だ。薪は準備できたけど、さすがに余ったな。木を丸ごと一本持ってきたから当然だけど。追加で加える分を加味しても、四分の一も使ってないや。
「残りの丸太はどうしようかねぇ……」
空間袋に突っ込む……? いやでも、取っといたところで使わねぇしな。正確には、焚き火する時はその都度丸太まで加工したい。パフォーマンス的な意味で。
となると、残しておくのはむしろ微妙か? 無駄にリスナーから突っ込まれるだけだし。それなら最後にデカめのインパクトを出して消えてもらうか。
「決めた。丸太は捨てまーす。──うぉらっしょい!!」
︰投げたぁぁぁ!?
︰なんばしよっとぉ!?
︰えぇ……
︰エグい速度でカッ飛んでったぞ!?
︰あっぶな!?
︰いやアカンやろ!!
︰ダンジョン、それも山主以外は到達できてない場所じゃなきゃ炎上するぞ……
︰対面の山肌に刺さったぁ!?
︰向こうの山まで届くんかい!!
︰レーザービーム並の速度と鋭さだったぞ
︰水平にカッ飛んでいったの怖すぎる
︰向こうの雪山雪崩起きてるやん……
︰ダンジョンだからこその暴挙
︰すっごい雪崩……
お、向こうの山まで届いたか。適当に投げたから、飛距離とかなんも考えてなかったんだけどな。……ま、おかげでまた良い絵が撮れた。
丸太が山肌に激突した衝撃で、結構な範囲の雪が滑り落ちていっている。あそこまでデカイ規模の雪崩は、映像であってもなかなか目にする機会はないぞ。
登山客がいたり、人の生活圏が近くにあると恐怖でしかない災害だが、人が一切いないとなると雄大さが勝つな。自然の力強さを感じる。……ダンジョン内のアレコレを自然にカウントして良いのかは諸説あるが。
「んじゃ、火をつけまーす」
ま、それはともかく。焚き火じゃ焚き火じゃ。マッチを取り出しまして、火を付けたあと作っておいた木屑にポイ。んで、風を送りながら細かい木片を追加して。火の周囲に薄く切った薪を組んで、乾燥させつつ火を広げていく。
ちなみに、マッチなのは趣味です。いや、趣味というか風情? こういう時にライターとかチャッカマンとか、固形燃料とかはねぇ……? 別に否定はしないけど、浪漫には欠けるよねって。
「……ふぅ。あー、暖かくなってきた」
うん、燃えてきたな。まだ不安定な気配もあるが、今後も上手い具合に薪を組んだり、その都度細かい薪を投入すればなんとかなるだろう。煙も許容範囲内だ。
にしても、やっぱり寒い環境で熱源があると良いよな。単純に気温が高いのとは別の心地良さがある。冬の布団と似たようなアレだ。
まあ、寒さで苦しむような柔な身体はしてないんだけど。ただ気分の問題ってやつだ。別に問題ないってだけで、寒いは寒いからね。
「さて。これで焚き火の準備はオーケー。次は……なんだろ? 時間が掛かりそうなやつからやるべきなんだろうけど……」
んー、やっぱり加熱系かな? カットは一瞬で終わるし。……うん。決めた。ニンニクの処理からやっていこう。
「それじゃあ、まずは携帯コンロを取り出しまして」
:コンロあるんかい!
:焚き火の意味よ
:草
:草
:焚き火始めた後にシレッとコンロ出すな
:草
:ならそれでちゃちゃっと火ぃ用意せぇや
:えぇ……
:焚き火のあとにコンロ用意するの草
:コントやん
:そんなことある?
:笑うわ
:草
え? いや、コンロと焚き火は別でしょうが。用途も違うし。焚き火は調理&暖房用。コンロは完全調理用。なにより、焚き火の方が風情と浪漫がある。ビジュアルのパワーも上がるし、寒い環境なら撮れ高的にもやり得ってやつじゃん?
「で、ニンニクです。結構立派でしょ? これもまたダンジョン食材なんだけど、かなり凄いやつでね。名前は【マキシマムガーリック】。なんかメタクソに滋養強壮に良いとか、そんな感じらしい」
ぶっちゃけ、半分ぐらい薬とかの領域に踏み込んでいる食材だ。それぐらいエネルギーが凄いらしい。疲労が回復するとかじゃなくて、ブーストが掛かる系。倍率的には、引きこもりニートがスポーツで世界狙えるぐらいなんでねぇの?
ただその反面、食いすぎたら毒になる。俺は大丈夫だけど、一般人はアウトかな? あとスポーツ選手だとドーピング扱いになるかもしれん。……改めて考えると、他人様には振る舞えんなコレ。ダンジョン産のニンニクってだけで引っ張り出してきたけど。
ま、重要なのは味だ。そしてマキシマムガーリックは深層産なので、当然美味い。ランク的には鎧魔牛とかと同等だし。
「これのケツの部分をちょっと落とします。二個……いや、三個やっちゃうか。んで、断片の一つを回収して、残りをこっちの鍋に入れる。この時、あえて皮はそのままね」
んで、鍋にオリーブオイルを並々注いで。携帯コンロに載せる。あとは弱火でじっくり加熱していく。
「で、良い感じに揚がったら、それを焼いたバゲットの上に載せて、潰してガーリックトーストにするって寸法よ」
いやー、夢が広がりますねぇ。絶対美味いと思います、はい。……んじゃ、ニンニクを揚げている間に他の料理をやっちゃいましょう。
ーーー
あとがき
ちょっとリアルがバチくそに大変なことになっているので、今回短め。隙を見てサクサクっと書いたので、話もそんなに進んでない。ゴメンね。
それはそうと、明日はWeb版コミカライズの更新でーす。ニコニコとカドコミを是非よろしくお願いします。
また、コミック一巻発売まで、あと四日となっております。是非とも皆さん、予約などよろしくお願いいたします。買ってね!!
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