第189話 エピローグ その一
「──くぁぁぁ……」
大国主を打倒し、ダンジョンから帰宅して暫く。関係各所に最低限の連絡を飛ばし、現在はキッチン。
理由はもちろん飯のため。神殺しとは、人の身に余る大業である。それは俺とて例外ではない。すでに何度も成功させてはいる。させてはいるが……そのすべてが薄氷の上の勝利である。
まあ、初回を除けば全部自分から突撃しに行っているので、ギリギリの戦いそのものに文句を言うつもりはないのだが。
だからこれは、そう。単に疲れるよねって話である。格上と戦いは、精神的にも肉体的にも凄まじいエネルギーを消費する。慣れているからこそ普通に動けはするが、実際は疲労困憊で全身がダルい。
なので早急なエネルギー補給が必要だ。それも精神力が回復するぐらい美味いもの。テンション爆上げしたくなるようなものを食べなければ。もちろん、祝杯という面もあるが。
「でもなー。凝った料理は面倒なんだよなぁ……」
気分的には、ダンジョン食材をふんだんに使ってパーリナイといきたいところなのだが。それをするには、些か体調がよろしくない。
身体が重い状態でマトモな料理とかしたくねぇのよ。気分では派手にいきたくとも、それを実行するだけの気力が湧かない。
シンプルなものが良い。雑にやって美味いもの。それでいて手早く食べれるもの。
「……ステーキ? ステーキか? いやでも、アレってなんか肉休ませるとかあるし……」
なんか地味に面倒くさそうなのよね。いや、ダンジョン食材のポテンシャルなら、多少の手抜きは誤差……ではないか。むしろ凝った方が、総合的な完成度は跳ね上がる系だし。
ただ食材そのもののレベルが高いから、雑に作っても及第点以上は出るってだけで。それだとなんかなぁって感じよなぁ。
「……あ、焼肉で良いや。それなら肉休ませるとかねぇし」
そうだ。薄切りにすれば良いんだ。そうすればいちいち手順とか気にする必要はない。テーブルで焼いて、タレや塩に浸けてご飯を掻き込めば良いんだ。
はい決定。これで決定。んじゃ、適当に肉を選んでスライスしていきましょう。そんでちゃちゃっと作っちゃいましょう。
「何にしようかなぁ……」
『──山主さん!!』
「あい?」
肉を選ぼうとしたら、ガチャリと玄関のドアが開く音が。一緒に聞こえてきた声からして、ウタちゃんさんがやって来たらしい。……ただ、それだけじゃないな。足音が多い。それに聞き覚えのある音だ。
まあ、ともかくお出迎えしに行きますかね。お客様もご一緒のようですし?
「いらっしゃい、ウタちゃんさん。天目先輩もようこそお越しくださいました」
「あ、う、うん。その、いきなり押しかけてごめんね? しかも勝手に……」
「天目先輩なら構いませんよ。それにウタちゃんさんが連れて来たんですよね?」
「はい! 正直、悪いとは思ったんですけど! それでも、双葉はこれからする話に絶対に必要なので連れてきました! ゴメンなさい!!」
「大丈夫ですよー。……テンションおかしくないです?」
なんか凄いハキハキ喋ってるなウタちゃんさん。何だこの……なに? 気合い入ってる? 体育会系にでも目覚めた? というか、ヤケクソになってる?
「それを含めて、お伝えしたいことがありますので。山主さん、ちょっとあっちで座りましょう」
「ア、ハイ」
なんか有無を言わせない圧力があるな、いまのウタちゃんさん。いや、最初から逆らう気もないからアレなんだけど。
てことで、リビングに移動。ウタちゃんさんと天目先輩をソファに案内し、俺は床に正座。
「……なんで正座してるの?」
「なんか、その、空気的に?」
「あの、別に怒ってるわけじゃないんですけど……」
その割にはウタちゃんさん、やけに目が据わってません? 気のせい? ただの雰囲気による錯覚?
「まあ、なんとなく反省を促されそうな気配はするんで……」
「そういうのは分かるんだ……」
「失礼を承知で言いますけど、本当に人の心が分かってるのか分かってないのかが微妙な人ですよね、山主さんって……」
ちゃんと人の心は分かってるんだよなぁ。連絡飛ばした時も、薄々だけど『これ怒られるのでは?』と思ってたし。
「それで、です。あの配信について、恋人の立場から言いたいことがあります」
「はい」
「……さすがにアレはないです。山主さん」
「はい」
ですよね。絶対に言われるかなとは思ってました。
「そりゃあね? 私だって大人ですよ。探索者が危ない仕事なのは知ってます。ましてや山主さんのレベルとなると、とっても強いモンスターと戦うのは仕方ないと思ってます。動画の海のモンスターとか、アメリカのドラゴンとか。ああいう存在と戦っているわけですし、危ないことしないでって言うのはお門違いなのは重々承知です」
「はい」
「それに正直、素人が口出ししてくるのってムカつくじゃないですか。ちょっと例えがアレになりますけど、守られるだけのヒロインキャラって私そんなに好きじゃないんです。守ってもらっているのに、主人公に『危ないことしないで』とか言う感じの。戦いになるとお荷物でしかないのに、なんかよく戦いに巻き込まれたり、攫われたりする系のヒロイン。いたじゃないですか、昔って」
「はい。いましたね」
「そういうお姫様ポジションよりも、一緒に主人公の隣で戦ったり、守られる立場だけど主人公の心の支えになったり、それかいっそ主人公が戦ってることを知らない日常の象徴みたいな、そういうヒロインキャラの方が好きだったんです。なので私自身、そういう口だけの立場になるのは嫌だなって思ってまして。……特に、山主さんとそういう関係になったあとは、強く意識してました」
「それは……ありがとうございます?」
まあ、うん。現実でもよく聞く話ではあるよね。専業探索者と一般女性の恋愛トラブルとして。別に探索者に限らず、命の危険がある職だと定期的に話題に挙がってるような気もするけど。
俗に言う『私と仕事、どっちが大事なの問題』の亜種。……亜種か? まあ、亜種と言えば亜種か。
危ないことをしてほしくない女性サイドと、仕事である以上仕方ない&やらないと生活できないor仕事そのものに誇りを持っている男サイドのすれ違い。
どっちも正論と言えば正論なので答えはないし、最終的に当事者同士で話し合った末に、自分たちだけの結論を出すしか解決方法がない。ある意味で信頼関係がモロに出る系の話である。
で、ウタちゃんさんは見守り派というか、思うところは多少あれど、相手の活動を阻害するのはよろしくないのでは考えているタイプらしい。すっごいアレな言い方をすれば、未亡人になる覚悟もできている人間ということだ。
「でも! あんな血だらけになる、いや進んでなりにいくのは違うと思うんですよ私も!!」
「……はい」
で、そんな考えを持ったウタちゃんさんですら、『アレはさすがにアカンやろ』と思ったと。うーん、ぐうの音も出ねぇな。
「あの配信を見てた私たちがどうなったか分かりますか!? どう思ったとかじゃないですよ!? 気持ちとかじゃないですよ!?」
「……つまり、悲しかったとか、心配したとかではないと?」
「そうです! だってそんなの、私の気持ちの押し付けじゃないですか! 悲しかったし、心配とかはもちろんしてますけど! それを止めるのはなんか違うじゃないですか!!」
「いや、違くはないんじゃないですか……?」
「でも、私がお願いしたところで、山主さん絶対聞き入れてくれないでしょう? それでウザイと思われても嫌なので、大人しく自分の中で消化します」
「俺の評価……」
「これ本当に恋人同士の会話なのかな……?」
肝が据わっているというか、なんというか……。いや、妥当と言えば妥当だし。なんなら俺的には『とても理解のある彼女』ってやつなんだけど……。
コレを真正面から言われるの、人として相当ヤバイと思うんだよなぁ。まあ、受け入れられるてるわけだし、一周回ってこれも『愛』ってやつなんだろうが。
「……で、どうなってたんですか?」
「修羅場が一瞬で終わりましたよ。それどころじゃなくなりました」
「……修羅場になってたんですか?」
「親友相手に『この、泥棒猫……!』って本気で言うかもしれないぐらいには」
「……」
天目先輩を見る。
「……ノーコメントで」
「正直、あの時の空気は『女』の悪いところを煮詰めたというか、あまりに昼ドラ的な雰囲気が漂ってたので、具体的な説明はしたくないんですよね。山主さん、そういうの煩わしく思うタイプですし」
「あの、恋人と尊敬する先輩が不仲になりかけたと聞いて、煩わしいで片付けるほど終わってないですよ……?」
俺、そんなにアレな人間に思われてたん?
「まあ、これに関しては女の戦いなので。失礼を承知で言うと、男の人は出る幕がないと言いますか……」
「私も、その……山主君にはそういう汚いところを見せたくないから、あんまり深堀りしないでくれると……」
「……了解です」
すっげぇ気になるけど。すっげぇ気になるけど、二人揃ってこんなこと言われてしまったら、引き下がるしかあるまい。
「で、話を戻しますけど。山主さんがズタボロ、それもかなり乗り気な感じで大怪我を負っていくのを見て、二人揃って思ったんです。『あ、これストッパーになる人間は増やさなきゃ駄目だ』って」
「首を拾ってたあたりで、自然とお互いに協力しなきゃの空気が出てたというか……」
「ということで、双葉には正式に二番手さん、つまり愛人ポジになってもらう形で話が決着しました」
「え」
「まさか、こんな形で修羅場が収まるとは思いませんでしたよ……。せめてラブコメ漫画の主人公みたいに、山主さんからアレコレ説得されたかったんですけどね」
「紗奈ちゃん、すっごい沈鬱な表情してたからね……」
「そんなことあります?」
天目先輩の立場が完全に追加人員なんだけど。仕方なく雇ったペットシッターや飼育員なんだけど。このノリで『二番手さん』とか言い張るとかガチで言ってる……?
ーーー
あとがき
わりとキリも良い気もするが、これ追加でエピソードいるやつか? 悩むな。
ちなみに、この世界ではわりと真面目に『守られてるだけ系のヒロイン論争』が巻き起こったりしてます。主に探索者周りで。そういう職業が身近にあるから仕方ないね。
で、ここからが真面目な話なんですが。先日、コメントで『YouTubeに漫画あって、そこからこっちに来ました』的なものがありまして。
その人自体は、面白かったと言ってくださってたので、悪気とかもなかったのかなとは思うんですが。
それ、無断転載なんで。見つけた場合は、すぐにKADOKAWAのカスタマーにご報告いただきたく思います。
一応、件の違法掲載については私の方も確認したのですが。そこでは一万以上の再生数がありました。
それを間口が広がったと見る人もいるかもしれませんが、コンプティーク、カドコミ、ニコニコ漫画などの正規ルートが存在する以上、あってはならないものです。
宣伝云々については、私こと原作者、コミカライズを担当していただいている藍川先生、出版社の方々がしっかりと行っておりますので。
違法掲載は、そうした関係者の方々の努力を横から掠め取る行為に等しいです。
特にコミカライズの内容をアップロードする行為は、私だけでなく藍川先生からの収益を奪う行為であるため、絶対に看過することはできません。
事実、今回挙げた例においても、単純計算で一万以上の方々がもたらすはずだった収益が損なわれたということになります。
ですので、そういうのがあっても見ないでください。見るなら正規のルートで見てください。その上で、できる人はKADOKAWAのカスタマーに報告してください。
一番悪いのは、もちろん違法掲載している人です。なので、見てしまった人を私が非難することはないです。軽蔑もしません。
ただ文句は言います。違法なルートで見たのなら、せめて買うなりなんなりして、関係者の方々に還元してくれやと。もちろん私にも。その内容が、たとえ好みじゃなかったとしても、です。
それでも意地でも買いたくないという人は、盗人を駆逐するのを手伝うぐらいはしてください。それが最低限じゃねぇかと。KADOKAWAのカスタマーに連絡するだけで良いので。
それが原作者として、せめてもの要求でございます。
※なお、これと同様の内容を近況ノートにも掲載します。以上、創作者の悲痛な叫びでした
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