第188話 ブチギレ結納配信。お祝いに神様のこと〇ってみた その五
「ふぅぅ……」
あー、良かった良かった。思った通りに動いてくれて助かったわ。……てか、痛ってぇな本当に。さっさと首戻すか。
身体に残心を解かせ、地面に転がる頭の方を拾わせる。で、首に載っけてポーションをバシャ。これで頭と胴体が繋がった。
死んでなければ致命傷が無意味と化すのだから、本当にポーションってイカレてる。最高位のポーションなら、首を断たれても一瞬で元通り。そりゃ地上では規制されるわな。……まあ、死んでたら無意味だけど。その場合は霊薬の領域だ。
「うし。完治」
「……呆れるほどの生命力だな。首を断たれて平然と動くだけでなく、自ら拾ってくっつけるとは。不死の権能でも獲得しているのか?」
「胴を両断されてなお息があるどころか、普通に話し掛けてきてるアンタには言われたくねぇわい」
︰生きてる!? 山主さん生きてるの!?
︰明らかに首飛んでましたよね……?
︰失礼を承知で言うけど、そこは死んどけよ人として
︰どっちも化け物やろ
︰もうやだこの二人……
︰きっしょ……
︰生きてた! 良かった!
︰放送事故なんてもんやないでこれ
︰いまもアカン絵面しとるぞ
︰これ配信BANされない……?
︰吐くかと思った
︰R18Gだよこんなの
︰本当に意味が分からない
俺が言っても説得力はないが、胴体両断とか普通に死んでる怪我なんだがな。即死は難しくとも、出血多量ですぐに死ぬ。
にも関わらず、こっち見ながら話し掛けてきてる時点で……。わりかしピンピンしてんじゃねぇかよ。アンタだって大概だろうが。
「うむ。確かにまだ言葉を交わすぐらいならできる。だが、それだけだ。身体は微塵も動かぬ。この
「当たり前だ。なんのために両腕ごとぶった斬ったと思ってやがる」
「抜け目ないな。……いや、当然の警戒か。なにせ愛し子自身がそれをできるのだから」
ああ、そうだよ。だから反撃の機会すら与えぬよう、腕もしっかり落とすように斬ったのだ。いくら優れた技量があろうと、五指がなければ剣も握れないだろうからな。……それでも万が一に備え、残心は行っていたのだが。
「して、どんな絡繰だ?」
「絡繰なんて大層なもんじゃねぇよ。小世界程度は掌の上。アンタが言ったことだろうが。だったらこんな目と鼻の先の距離で、干渉できねぇとかありえねぇだろ」
阿頼耶識は知覚、干渉領域を拡大させる。つまるところ、本来なら見えないモノを見えるようにし、触れられぬモノを触れられるようにする力である。
だから俺には、距離の壁など関係ない。傷によって神経などの繋がりが断たれようが、その傷を無視して行動できる。
だから致命傷が致命傷たり得ないのだ。心臓を潰されようが、四肢を落とされようが、首を切断されようが関係ない。何ごともなかったかのように、普段通りのパフォーマンスを実現できる。……クソ痛ぇけど。
むしろできない方がおかしいんだよ。こっちは遥か遠くの物質も、形のない概念も、等しく刃を届かせることができるのだ。そんな物理に唾を吐いてる人間が、ほんの数センチ、数メートルの断絶を無視できないわけがあるかという。
「……っ、フハハハハッ!! なるほど、これは一本取られたぞ! 言われてみればその通りよな! 思い込みでその程度のことも見落とすとは、この大国主も耄碌したものよ!!」
「そもそも対等に見ようとしてねぇんだからそんなもんだろ。俺は勝ちを狙って、アンタはそれをしなかった。傲りの有無が勝敗を分けた。それだけだ」
「それを言われるとぐうの音も出んなぁ。……ああ、そうか。直前の会話も誘いか。やはり抜け目ないな、愛し子は」
「格上相手にブラフもかまさないとか、そりゃあただの間抜けだタコ」
多少の負傷じゃビクともしないという印象は、戦いの途中で散々植え付けた。その上で『首を落とせば終わる』と、会話に毒を忍ばせた。
そうすれば、大国主の意識の択を狭められると考えて。……まあ、あれだけ怪我が無意味と散々刷り込んだのだ。毒など仕込まなくとも、残心を忘れさせるレベルの致命の一撃を叩き込ませることはできただろうが。
「見事だ。本当に見事だ。圧倒的に技で劣る身ながら、よくぞこの大国主を打ち破った」
「当たり前だろ。格上殺しこそが探索者の本領だ。敵がどんなに強大だろうと、付け入る隙を探して殺す。俺はそうやってここまで来た」
つまり、いつも通りってやつだ。これまでも、これからも。俺はそうやって勝負に勝ってきたのだから。
「──努々、その心を忘れるでないぞ? さすれば遠からぬうちに、我らの領域に辿りつくこともできるであろう」
「ハッ! 嫌なこった。少なくとも、あと百年は人の身を謳歌させてもらう予定だ。俺は趣味に生きるんでな」
「そうか。……ならば、この力を与えよう。我を打ち破った褒美だ。受け取るがよい」
フッと、大国主の身体が崩れる。血濡れの身体が解け、光の粒子となって俺の手元に集まり出す。
それは探索者には馴染み深い光景。モンスターを倒した時に発生する、ドロップアイテムの生成である。
『本来ならば、我が神器あたりを与えようと思っていたのだがな。だが、気が変わった。我が国造りの権能を切り分け、愛し子の生活に役立つ道具をこさえてやろう』
「……パソコンでは?」
『うむ。ちょうど預かっていた故な。それに我が権能の一部を移した。使い方は愛し子自らで確認せよ』
「人の商売道具に何してくれやがる」
『──では、さらばだ! 実に心踊る時間だったぞ、愛し子よ!! 我らと並ぶその時を、楽しみにしながら待っておる!!』
言うだけ言って消えおったなアイツ……。せめて追加した機能を説明していけよ。パソコンってアップデート入るといろいろ仕様変わるんだぞ。
「……てか、これ配信とか大丈夫なんか?」
配信中に謎機能追加されたわけだろ? フリーズしたりしない? 神様パワーで上手い具合に処理されてたりする系? ……でも嫌な予感するんだよな。具体的に言うと、大国主が消えた途端に耳元が静かになった。
「……あ、やっぱりBANされとる……」
知 っ て た 。……まあ、そんな気はしてたよ。人体とか神体の切断映像とか、おもくそグロい光景をライブで流してたわけだし。
いや、いけると思ったんだけどなぁ。ダンジョン系のストリーマーとかもいるし、戦闘映像とかも普通に動画になってるし。
やっぱり人型なのがアウトだったのだろうか? 一応、大国主がいる間は神様パワーで配信サイトのAIも抑えられてたっぽいんだけど。消えた途端にこうなるってことは、つまりそういうことなんかねぇ?
いや、別に良いんだけどさ。ライブはどうせ切り抜きとか出てくるだろうし、念押しする形でSNSで呟けば、今回の目的は達成されるし。
まあ、このBANがチャンネル本体にまで波及する可能性もワンチャンだが。……サブチャンネルあるし、なんならVTuberとしての活動はそっちの方でやってるし。特に困りはしないな、うん。
ダンジョン用のチャンネル作れば、どうせすぐに似たような登録者数になるだろうし。やっぱりそんな気にしなくて良いなコレ。
「……帰るかぁ」
あー、疲れた。やっぱり神殺しはしんどいわぁ。今日は美味いもん食って寝たい。ちゃちゃっとワープで帰るべ帰るべ。
ーーー
あとがき
初めての配信BAN。
ちなみに主人公が動けた状態を分かりやすく説明すると、痛みを感じるキャプテン・〇ギー。なお斬撃以外にも適応される模様。
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