第172話 裏話 in デンジラス
──ドラゴン以来のエグめな失言をしてしまった翌日。案の定と言うか、関係各所が大忙しとなった。
「やっちゃいましたわー」
「軽く言うことじゃないよ……?」
「キミ本当に反省してる?」
てなわけで、事務所に出頭。そこでマネさん及びスタッフさんたちからお説教をくらいつつ、方針を決め俺の公式アカウントにて声明を発表。
それで事務所の一角で一休みしていたら、タイミングよく天目先輩と四谷先輩がいらっしゃった。なんでも公式チャンネルの収録らしい。
「いやまあ、やっちゃったもんは仕方ないかなと」
「それは本人が言って良い台詞じゃないかなぁ」
「あと、いまさら炎上の一つや二つ増えたところで的な」
「コラコラコラ」
ビシビシと四谷先輩にチョップされてしまった。うん。アカンこと言ってる自覚はあります。
でも実際問題、ウタちゃんさんの巻き添え炎上とか、ダンジョンの正体暴露炎上とか、アメリカドラゴン炎上とか比べるとね……?
これらの一つだけでも、ライバー生命が吹き飛んであまりあるわけで。いまさらここに新しい炎上、それもちょっとした舌禍が加わったところで、慌てるほどのことでもないというか。
「あのねぇ……。他所の業界や企業を悪く言うのは、コンプラ的には普通にアウトだからね?」
「はい。それについてはガッツリ怒られました。デンジラスを巻き込んだことも、しっかり反省してます」
「すっごく説得力ゼロ」
本当に反省はしてるんですよ?
「というか、スイーツ食べて失言てなに……? 無駄に可愛いのやめて? 私の立つ瀬ないんだけど」
「そういえば、ちょっと前に四谷先輩もやってましたね。酔っての失言。俺のコラボで」
「その節は本当にご迷惑をお掛けしました」
「草」
「言葉ちゃんもあんまり説得力なかったね……」
実はお互いに似たような理由で炎上しているという。つまりこの場におけるヒエラルキーのトップは天目先輩。最初からと言われたら『それはそう』とだけ返しておく。
「でもまぁ、心情的には結構楽しんでるんですよねー。おもくそぶっちゃけますけど」
「……かなりの騒ぎになってるのに?」
「はい。もちろん、デンジラスの皆さんを巻き込んだのは申し訳なく思ってますし、反省はしてるんですよ? ただそれはそれとして、巻き添えで燃えてるマスコミ側には『ザマァ』と内心で中指立ててる感じです」
「えぇ……。そんなにマスコミ嫌いなの?」
「嫌いというか、クソ舐めたことしてくれたことに対する苛立ちですかね? 人の身内にちょっかい掛けたケジメは付けさせな的な」
「やっぱりこの子、本質的に血の気が多いんだよなぁ……」
そりゃそうでしょ。現代日本で探索者やり続けてる奴、大人しいわけないんですから。
「あと、思ったんだけどさ」
「なんでしょう?」
「さっき山主君のアカウントで、今回の件の理由とか書いてたでしょ? 謝罪文だけじゃなくて」
「あ、それ私も気になってたんですよね。ねぇ、アレって大丈夫なの? あそこまで事情を開示するの、事務所はオーケーしたの?」
「あー」
そこか。いや、当然の疑問ではあるのだけど。VTuber……いやVTuberに限らずか? こうして炎上した場合、詳しい事情は発表しないのが基本だ。
語るとしても概要程度。今回みたいに、裏事情に当たるような情報はまず公にはしないものなのだ。理由はリスクヘッジとかいろいろある。
しかし、この件に限っては違った。具体的な名前こそ出さなかったものの、俺が何故あの発言をするに至ったかはしっかりと公のものにした。
「もちろん、事務所的には渋られましたよ。ただ俺の方から強くお願いして許可をもぎ取りました」
「それは……やっぱり炎上させるため?」
「端的に言うと。ただ俺の感情だけじゃなく、然るべき筋の人と話し合った結果だったりします」
「……なにその然るべき筋の人って」
「国のお偉いさんです。天目先輩は前に会いましたよね。病院に来た警察のオッサンです」
「あー……。あのすっごく怒ってた人?」
「はい。なお今回もバチくそにキレ散らかしてました」
念押ししたその日のうちにやらかしたので、残当ではあるのだが。
いやー、本当にすっごい剣幕だったよね。あの配信のあと、やらかしたーって連絡入れたら、開口一番が『おいコラ言ったよな!? 俺はちゃんと言ったよな!? 何かやる前に相談しろって!! テメェ実は日本語分かってねぇだろそうなんだろぶち殺すぞこのクソガキが!!』だったもん。もしもしすらなかった。
ただいくらぶちギレてようが、立場的には俺の方が圧倒的に上なので電話をガチャ切りすることもできず。結局、玉木さんは今回の件に対する諸々の窓口を請け負う羽目になったのである。……あれで公務員の悲哀ってのを見たね。
「あの人を経由して、国の偉い人らとアレコレ話し合いまして」
「サラッと国の偉い人と繋がりがあるって認めたね……」
「だっていまさらですし? ちなみに言っておくと、窓口役の警察のオッサンは警視正ですし、その向こうでは大臣や事務次官クラスが奔走してたそうですよ?」
「ケラケラ笑いながら言うことじゃないよそれ……」
「うちの後輩が怖すぎる……。てか、サラッと警察の偉い人が使いっ走りみたいになってない?」
事実として数年ぐらい俺の使いっ走りやってますよ、玉木さんは。
「まあ、それはともかく。そうして話し合った結果、ある程度情報を開示するべきってなったんです」
「その理由は?」
「簡単に言うと、相手側がお偉いさんの怒りを買ったんですよ。俺もイラッときてましたけど、それ以上に上の人らもぶちギレてるんですよね。今回の件って」
俺がキレてるからって面もあるのだが、それを抜きにしても相手側のやらかしが酷すぎるのよね。
俺、政治の世界じゃガチのアンタッチャブルというか、聖域みたいな扱いなのよ。玉木さんの説明によると。
大物の政治家ですら、何重にも根回しして、ようやく小さな取っ掛りができる。それでもなお、俺の気分次第では全てがご破算になる。それが許されるレベルの扱いなわけ。
でも、マスコミはその暗黙の了解を無視したわけよ。根回しなんて当然なし。それでいて俺の個人情報の入手ルートは真っ当なものではなく。挙句の果てに、接触を図った先は俺ではなく俺の親。
こんなんバチギレもバチギレですわ。お偉いさんたちがメタくそ慎重に俺のこと取り扱ってるのに、無遠慮かつ身勝手に横から手を出されたんだから、面子もなにもあったもんじゃない。
だから俺のオーダーとは別口で、お偉いさんたちはマスコミに対してケジメを付ける算段を考えていたそうな。……まあ、俺の失言でそれどころじゃなくなったっぽいんだけどね。
「そんなわけで、あんな感じの文書を作ることになったんですよ。マスコミお得意の世論操作を封じつつ、逆に世論作って向こうの反撃のリソースを削るって目的で」
「うわー……」
「漫画に出てくる陰謀みたいなこと、リアルでやらないでくれない? しかも身近で」
「それについてはさーせんとしか。お詫びにダンジョンのアイテム要ります?」
「いらないいらない!」
あ、そう? 美容に良い食材とか、まだまだいっぱいありますよ?
なお裏話として、文書についての要望を呑む代わりに、デンジラスの方にもちゃんとした見返りが用意されてたりします。
まあ、俺由来の政治闘争にガッツリ巻き込まれたわけだからね。こういう『政治』の話を持ってくるのは心苦しくもあったので、そのあたりのケジメはしっかり付けた。
具体的に言うと、政界と経済界に対する強いコネ。デンジラスは企業としては新興なので、経営に関する部分でかなり力になってくれるはずだ。
まあ、俺が所属してる時点で、界隈的には一目置かれているのだが。ただそれはちょっと離れたところから見守られているようなもので、デンジラス側からアクセスする手段が少なかったのだ。
新興ということもあって、相手によっては足元を見られかねないので、そのあたりを阻止でき、かつ絶対的な味方になってくれる大物たちへのツテを提供したので、是非これを機にデンジラスには躍進してほしい。
具体的に言うと、もっとスタッフさんたち増やしてあげて。それも早急に。俺もお詫び&差し入れで精神的なブーストやケアを行っているけど、このままじゃそろそろ不味いと思うの。
「でさ、結局これからどうなんの?」
「それがさっぱりなんですよねぇ。マスコミ潰すとは言いつつ、何処までやるかは考え中ですし。なんか偉い人たちは偉い人たちで、良い機会だからって俺の思惑とは別にやる気満々ですし」
「そういう怖いことサラッと言わないで?」
「いや、本当にあちこちがドタバタしてるっぽくて。……まあ、俺が原因なんですけど。裏で権力闘争する予定が、俺の失言のせいで急に表の方に舞台が移っちゃってさあ大変的なね? 多分いま、どっちの陣営も泡食ってんじゃないかなぁ」
「た、楽しそうに言うことじゃない……」
ぶっちゃけ、情報開示はこのあたりをケアする苦肉の策でもあったりするのよね。自分たちだけ準備不足で慌てるよりも、相手も盛大に巻き込んで同じ状況に叩き落としちまえって。
結果として全方位がてんやわんやよ。玉木さんも舌打ちしながら『警察側も当分忙しくなる。だからこれ以上余計な騒動起こすなよ?』って言ってたぐらいだもの。
「なので予測不能です。ただ間違いなく大事にはなるとは言われましたね。場合によっては、一時的に昭和の時代が再来するかもとも」
「……どういうこと?」
「関係者が何人も消えるかも的なアレです」
「はいこの話終了! 私は何も聞いてない! 天目先輩も良いですね!?」
「う、うんっ。……あの山主君。本当にそういう話ポロポロしちゃ駄目だと思うよ?」
「え。でも、こういう話面白くないですか? 陰謀論じゃないナマの裏話ですよ?」
「か、感性が物騒すぎる……」
「そういうのは、実態が分からないから楽しいんだよ……? 現実にあるって言われたら、楽しい通り越して身の危険を感じるからね?」
「いやいやいや。普通に楽しんでくれて大丈夫ですってば。事務所のメンバーに手を出す馬鹿とかまずいませんし。少なくとも、こういう政治闘争に関われる人間の中には」
「……その心は?」
「んなことしたら、俺に喧嘩売るなんてレベルを通り越すからですよ。冗談抜きで親類縁者諸共消されます。俺がどうこう言う前に」
「怖っ。もう山主君には近寄らんとこ」
「えー酷い。あと、中途半端に距離置く方が危ないですよ? いろんな意味で」
「そこで当たり前のようにそういうこと言うから、私たちも微妙に安心できないんだよ……?」
「存在が蟻地獄すぎる……」
初めて言われたなそれ。
ーーー
あとがき
最近、本作のAmazonレビューを見て延々と悶々してる。199かぁ……って。この感覚分かるよね?
あ、とりあえず、前回に続き【次にくるライトノベル大賞2024】の投票お願いします。番号は【21】です。
※コミカライズ版更新って書いたけど違うわ。予定みたら来週になってました。失礼しました。
あとこれは個人的な感想というか、驚きなんですけど。意外と皆さん、作品のコメント欄って見てるんですね。
前々回の質問のせいで、コメントが見えにくくなって困ったって投稿がちょくちょくありまして。
それについては完全に自分が悪いのでアレなんですが、複数件送られてきたことは本気でビックリしました。
コメント欄って、作者が覗いて一喜一憂するのがメインのページだとばかり……。精々が、自分がコメントするついでに周りをチョロっと覗くぐらいなのかなって勝手に思ってました。
これが書く側と読む側のギャップ……!
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